羨んでねたむ 4
本日2話目
お昼休みになると教室から足を延ばした。
別に目的があったわけではない。ただ、一緒に佐奈たちといると、余計なことを口走ってしまいそうだった。お弁当箱の入った小さな手提げが揺れる。天気も悪くないから外で食べようかと窓の外を見る。
「あれー? 桐谷の彼女ちゃんじゃん」
そんな言葉が聞こえては、なんだ桐谷彼女できたんだ、とぼんやりと思っていたら腕を引かれる。
「は」
「あんたに言ってんだけど、夏目さん?」
笑いを含んだ声の持ち主を見た。目のまったくわらっていないその男を見たことがあり、目を細めた。
桐谷と久ぶりに再開した日に一緒にいた男だ。
「離してくれない?」
「あいつもこんなののどこがいいんだろうな」
ほとんど初対面だというのにもかかわらずいう言葉に男を見返す。イラつきが顔にでないようにと自制をしているのか、口元だけが不自然にゆがんでいる。
「なに」
「ふぅん?」
じろりじろりと値踏みするような視線を向けた男は馬鹿にしたような笑みを浮かべて言葉を吐き捨てた。
「あんた、かっわいくねぇな」
言い返す前に桐谷の声が聞こえる。
「白井、って、夏目じゃん。なにお前ら仲よかったのかよ」
白井と呼ばれた背の高いやんちゃそうな見た目の男はゆがんだ笑みをさらにゆがませる。
校則の厳しい校内にしては珍しく明るい色に染めているその男はおー、と声を上げる。跳ねた髪が揺れる。ざわりざわりと揺れるほかの生徒の声が耳につく。
桐谷はそんなことを気にしていないように両手をポケットにいれた状態で近づいてくる。擦れた校内履きのスリッパがぺたぺたりと足音を立てた。
「なんだ? 桐谷、嫉妬かよ。さっき仲良くなったんだよ。なぁ、夏目ちゃん」
「は? 嫉妬?俺が?」
なんでだよ、という言葉はぼそりと音量を下げてつづけた。
その表現に桐谷はこの白井という男には性格をさらしているのだと分かる。信用をしているのだろう。
親しいものに見せる表情を見せていた。
白井はその言葉に口元をひきつらせる。
桐谷はそんなことに目がいかないのか、それともいつものことなのか特に気にも留めない。
はははと乾いた笑いを浮かべる白井には目もくれずに桐谷は口を開いた。
「つーか夏目、なんでここにいんだよ?」
「それより先に否定しなよ。付き合ってないでしょ、桐谷と私」
「わりぃわりぃ」
口ではそう言いながらもあまり否定をしなさそうな様子に溜息をこぼす。
「なに弁当食いに行くの?」
「今日は外で食べようかなと思って」
「いいじゃん。白井俺らも外でどう?」
「いや、俺はいい」
白井の視線は睨むようでその視線の向かう先は桐谷であった。桐谷は気がついているのかいないのか、白井に目を向けることはなかった。白井のほうからぎりっとかみしめる音がする。視線が会うとハッとしたように目を開きそしてわざとらしくひきつった笑みを向けた。
そんな白井に私もあいまいに笑いつつも、白井の視線が、表情が、どこか私に不安を覚えさせた。




