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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
38/114

縺れた信頼 4


 家に帰ると母が茶碗を洗っていた。エプロンの紐が揺れ、鼻歌が聞こえる。少し音が外れている気がするが、よく母が歌うその曲の原曲を私は知らない。


「ただいま」

「おかえり」


 髪をかるく結わえて洗う姿を見る。私とは違うさらりとした少し赤みかかった髪質が揺れた。


「また、なの?」

「え?」


 残飯として袋に棄てられたものが視界に入る。1人分のそれはきれいに人参だけが残されていた。


「なんでもない」


 耳に入ってくるアニメのオープニングの曲がひどくこびりついた。


「志乃、お風呂から入っちゃいなさい」

「うん、ありがとう」


 母の優しさを受けながら特に考えることなく聞き流す。




 お風呂やごはんを終えて部屋に戻ってしたことは随分と昔のパソコンを起動させたことだった。

 父が使用していたそれを父が出ていってから1度もあけていなかった。

 なぜ、このパソコンを大事にとっていたのかはわからない。何年も前にいなくなって、帰ってくる気配はない父だ。事実、前のときもずっと父は帰ってこなかった。





 ウィーンと重低音が響く。

 数台あったはずの父のパソコンはどういうわけかこの1台だけしか残ってはいなかった。母がどこかにやったのだろうか。

 随分と起動に時間がかかる。その重たそうな音が部屋に響く。キーボードのよごれが目に入る。何度も打ち付けたのか4文字のキーボードの表面が薄くなっている。



 なんの意味がある言葉なのかは分からないがその薄くなった文字を一文字一文字ノートに書き出した。






 アルファベットが記載され始める一番上の段、左から5番目、T。同列の右から2番目@。2番目の段、真ん中くらい、H。3段目、シフトキーから3番目、C。





 T@HC。







 なんの意味があるのだろうか。


 立ち上がったパソコンに表示されたのはパスワードを求めるものだった。



 「パスワード……」


 なんのヒントもてかがりも無い。

 そっと再び電源を落とした。

 父の残したパソコンのキーボードにふれる。





 父はいつもこれを開いて、何をみていたのだろうか。問いには誰も答えてくれそうにない。もう耳になじんでしまったアニメのエンディングの曲は別れの曲だった。



家族パート。

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