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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
34/114

避難所の歓談 5


「なんでだろう」


 小さくつぶやかれた言葉に聞き返す。


「え?」

「優しくなんてしないでほしいのに」


 ことりとコップが置かれて篠田先生も座る。


「藤吉。無理しなくていいんだぞ?」


 いたわるような優しい声は、最近よく聞くような気がした。ぶんぶんぶんと左右に小刻みにふる愛の髪が揺れる。


「愛?」

「やっぱり、無理」


 両手は机の下にあるみたいだがすり合わせているのだろう。細い声にそっか、と言いながら時計を見る。


「ごめんね、そろそろ昼休み終わるから」


 戻るね、という言葉よりも先に愛が制服の裾をつかんだ。


「え? どうした?」

「あ、何でもない」


 何でもないのと一瞬あげた顔は驚いた表情だった。その顔を隠すようにもう1度俯いた。


「またね」


 そういうとうん、と少しだけ弾んだ声が聞こえた。




 階段付近まで戻るとウロウロとしている桐谷を見つける。


「なにしてんの」

「いや、うん、あー。なんでもねぇ」

「5限目はじまるよ」

「だな」


 そう言いつつ視線を何度も保健室にうつす桐谷の様子に首をかしげる。

 こんなに面倒見がよくて責任感あっただろうか?



「そんなに気になる?」

「気っに! なんねぇ! し!」

「そんな全力で否定しなくても……」

「いや、悪い」

「で?」

「あ?」




 階段を並んで上り始めるといつもの落ち着いた桐谷になるために気になっていたことをつげる。


「放課後、さっきなんかあいてるか確認してたじゃん」

「あー。ちょっとさ」

「何?」

「買い物付き合ってほしいなと思って」



 めったに言わないその言葉に階段の中腹で足をとめて思わず目を細める。


「なんだよその顔」

「なにたくらんでんだこいつって顔」

「失礼な」



 そうは言いながら桐谷はあー、と声を困惑げに出す。





「いちゃいちゃするのもいいが夏目、次は数学だぞ」


 後ろから声がかかる。教科書とプリントをもつフク先生がそこにいた。額にたれる汗がみえる。まくり上げられたそではじわりと色を変えていた。


「いちゃいちゃじゃないですよ」

「そーっすよフク先生」

「桐谷、次はなんだ?」


 フク先生は苦笑いを浮かべながら話を振る。勘違いしているんだろうなぁと思いながらも桐谷とフク先生の話が耳に届く。


「現国ですね」

「寝るなよ」

「寝ませんよ、たぶん」


 一番手前の1組につくと桐谷が教室に入ろうとする。


「あ、桐谷。さっきの話、なしで」

「まじかよ」

「ごめんね?」


 形だけ謝るととくに気にしたような顔をせずに桐谷は笑う。


「まぁいいや。また連絡するから、夏目」


 急にさわやかな外面で対応をする桐谷にそつがないなと息をひそめた。

 フク先生が興味深そうに私を見る。


「なんですか?」

「いや、意外だっただけだ」

「なにがです?」

「夏目と桐谷というコンビがな」

「まぁ。腐れ縁ですよ」



 ちらちらと向けられる視線や観察するようなねっとりとした視線に気にすることなく5組に向かう。

 フク先生は腐れ縁という言葉に楽しそうに笑うと、そうかそうかと機嫌よさそうに笑みを浮かべていた。



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