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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
学校編
14/114

甘美なる日常 1




 学校が始まるといやでも私は戻ってきたのだと認識してしまった。前はどうやってこの中を過ごしていたのかを思い出せない。わたしは何を感じていたのだろうと、どこか遠くのことのように思いを馳せた。

 学生という時間は限られていたな、と実感したのは働きに出てからだ。

 大人に守られて、好きなことをやれた。勉強よりもなによりも、同年代であの空間にいるということがとても大切だったのだと、過ぎ去ってからわかる。守ってくれていたことに気が付かなかったし、気が付こうともしなかった。あの時、もっとはやくに気がついていたらと思いながらも私は気がついて時間が戻っていたと失笑がこぼれる。

朝の教室の少し冷えた空気が懐かしい。


「しーの、おはよっ」

「佐奈、おはよう」


 友人の杉浦佐奈が前の席に座り、くるんと反転した。佐奈は釣り目の美人だ。すらりとした手足を惜しみなく出している。長い髪は色素が薄く、化粧は釣り目に合うようにしっかりとされている。いわゆるギャルとも言えなくもないその姿は佐奈によく似合っていた。背が高いこともあり、見た目の迫力からも敬遠されることは多いが、本人はさばさばしていて同じ時間を過ごしやすい。入学してしばらくしてから佐奈が鞄をわたしの近くで落として中身が全て外に出てからの友人だ。


「誕生日おめでとー!」

「ありがとう。覚えてたんだ」

「ふふん。私を誰だと思ってるの? サナ様だよ!」


 得意げにいう佐奈に笑みがこぼれる。佐奈は笑われたことが恥ずかしそうに脚を組み替えた。佐奈のスラリとした健康的な脚が短いスカートから出ている。近くの席の男子の視線を感じたのか佐奈はそちらの方にギロリと一瞬視線を向けてからわたしを見た。


「思い出したのさっきだけどね」

「気にしないよ、そんなの。ありがとう」

「今日はなんか奢る! って思ったんだけど、放課後も部活あるからこれで許して」


 そういってトンと机の上に置いたのは購買部の横にある自販機で買ったであろう紙パックのジュース。少し水滴がついてある様子をみるに、先ほど買ったのだろう。暑さからか少し温くなっているそれを持つと笑みが溢れる。


「ありがとう」

「その味、好きでしょ」

「よくみてるね」


 甘さ控えめミルクティーと書かれたパッケージには愛され続けて15年とひそやかに書いてあった。


「これ15年続いてんだって」

「え。まじ?私らより年下じゃん」


 コロコロと変わる話題は深く考えなくてすむ。

 戻ってきたのだという拭えなかった漠然とした不安よりも、もう一度、友人と過ごせた、といううれしさが生まれた。







 授業を4時間受けて、途中友人と会話をしたりして4時限目が終わると香ばしい香りが食欲をさそる時間になり誰かが言い出したわけもなく、窓際にいつものメンバーで固まる。もはや慣れたもので近くの席の机をがたがたと動かした。佐奈の昔からの友人ということでわたしも仲良くなったのは麻里と優菜だ。


「あ」

「どうしたの?佐奈」


 窓から中庭を見下ろしていた佐奈が声をもらしたのが聞こえ、私もどうしたの? といいながら同じように窓から見下ろした。午前の授業も終わり、お昼を食べている時にそういう行動をとられると気になってしまう。いい天気ではあるがじりじりと焼き付くように太陽が眩しく見ているだけで暑くなってくる。


「なぁに?佐奈ったらかっこいい人でもいたー?」


 共にお弁当を食べていた麻里が口を出す。にやにやとした笑みを浮かべてわざとらしく髪をかきあげる。流れるような艶のある髪から香るシャンプーの甘い匂いがかおる。


「だれもかれも麻里みたいにイケメン好きだとおもってんなよぉ」


 もきゅもきゅとハムスターのように食べながらいうのが優菜だ。佐奈と一緒になってみていたが佐奈が声をあげたものが分からない。


「結局佐奈は何見てたの?」

「うそ、志乃見てたんじゃないの!?」

「さすがしのやんだねぇ」


 麻里と優菜の言葉を聞きながら苦笑する。


「わからなかった」


 視線をお弁当に戻しながら言うと笑いがおこる。身を戻した佐奈は声を潜めるとみんなの顔を見渡した。その勿体ぶった様子に何を見たのだろうと興味を持ちながら佐奈の言葉を待った。





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