戦友と相棒 2
「戦友、戦友ね……」
繰り返すとなんだよ、不服かと不貞腐れた声が聞こえる。
「まさか! 嬉しいよ」
そういうと不自然な沈黙が訪れた。
カチカチとなる時計の秒針音が響く。
「なんで、だろうな」
桐谷の言葉に反応ができない。
「夏目だって何も考えていないわけじゃないんだろ」
「まぁ……」
そういうと桐谷はやっぱりな、と笑う。
「同期の相棒」
「私が死んだ時にメールを送ったのはそういえば桐谷だったね」
「それな。なんでだよって思った」
「なんでだろ。桐谷ならって思ったのかもしれない」
「俺なら?」
「違うなぁ。ほかの誰にも言えなかったのよ」
そう言うと桐谷は返事も頷きもせずにこちらをみていた。
「あの時。和泉さんが単独行動を強行してて。私はそれでも和泉さんを応援してて。それで知った情報もすべて。適当な人には言えなかったの」
「俺なら言えた?」
「そう、だね」
桐谷は、と続ける。
「桐谷なら、うまいことしてくれそうだと思ってた」
「わけわかんない情報だったけどな」
「わけわかんなくしかできなかったの」
不思議そうに見る桐谷に、言葉を選びながら言う。
「おかしかったの。絶対」
「なにが」
「内部のだれかが、悪意をもって漏らしているとしか言えないくらいに全部全部漏れていった。それで和泉さんは、結局」
沈黙が流れていたたまれなくなってへらりと笑った。
「もしかしたら和泉さんも気づいていたかも。もしかしたら、私がって思っていたかもなぁ」
いろんな人から疑われていたのだと知っていた。多分和泉さんからもだと思っていた。でもそれはあまりにさみしくて、悲しくて、認めたくないことだった。そう思わずぽつりとつぶやくと静かな沈黙に包まれた。
「ま! こんなことはいいんだよ。なんでかって話だよね!」
明るくいうと桐谷は複雑そうな表情をうかべたまま、そうだなとこぼした。
「そもそも、私と桐谷も共通点ってなに?」
「同級生」
「いや、それはない」
思わずすぐに答えるとなんで? と聞かれる。
「だって同級生だけならもっと知っているはずの人がいるはず」
「じゃあなんだ。働いていた場所か?」
「このあいだ、和泉さん見かけたけど。覚えてなさそうだったよ」
「なんだよ、ほかの共通点」
桐谷はそもそもそこがわかんないと何を考えたらいいのかわかんねぇよと愚痴る。
私は真くんのことを言うか迷いつつ、あのね、と声を潜めた。
「身近にいるのよ。もう1人。戻っている人」
「だれ?」
「私の従兄弟」
「夏目の従兄弟?ってことは……」
しばらく考え込むようにした桐谷は自信なさげに口を開いた。
「夏目真?」
「なんで知っているの!?」
「なんでって」
あぁと桐谷が納得したようにうなづいた。
「お前身内だから外されていたかもな。その人、マークされてた」
「え。そうなの?」
「多分。和泉さんが、唯一、俺に内密にって頼んできた分だから覚えてる」
そんな話を聞いたのはおそらく初めてで目を開いた。
「なんで?」
「なんで和泉さんが俺に頼んだのかは知らない」
「そう、だよね」
「でも、たしかその人」
死んだんじゃなかったか?
桐谷の言葉に目を開いた。
「なん、て?」
「あ、知らなかった?」
「ぜんぜん、しらない」
動揺が言葉に現れるように声が震える。
「なんで、どうして、なにがあったの」
「なんか巻き込まれて、それでっていうことは聞いたけどわりぃ、俺も詳しくは」
そういう桐谷にそれ以上言い募ることは出来ずにそれいつの話と聞いた。
「ん?」
「それ、いつの話?」
「いつだったかな。確か夏目の、いや、黒崎さんが亡くなる一年くらい前の夏だったかもな」
桐谷は、ぼんやりとスマートフォンのカレンダーを動かしながらあぁ、と口にした。
「7月の上旬。夏目の誕生日のあたりだったかもな」




