影を追う 2
ヤマアキの奥の畳の和室に通される。店員、秋山の手からは相変わらずゲームが軽快な音を出している。
「今の人」
「見られちゃいました?」
「すみません」
「謝ることないっすよ。なんかオーナー探してて」
「オーナー」
「先日、この店のオーナーがきたんすよ」
軽快な音が緊迫している音に変わる。あ、ちょっとバトルが!と言い出し会話が途切れる。
「オーナーはこう、ほら、あの」
ゲームに夢中になっているのか秋山は言葉がうまく出ないようだった。緊迫している音が軽快な音にかわって秋山はえーと、なんでしたっけ? と首を傾げる。
「オーナーさんの話です」
「あぁ! そうでした! オーナーはなんというかある意味人気者でして」
「ある意味?」
「ある意味っす。好意的なものよりもなんかそれこそ怪我しそうか感じの人気者っす」
へらりと言っているがその内容は笑っていっていいものなのか不明だ。
「あの人に恨みとか仕返しとかしたがる人多くて」
「危ない、ですね」
「そーなんすよ!」
「そんな方がいるんですね」
「あれ? ナツメさん、知りません?」
「知ってるも何も私は会ったことないですよね? そのオーナーさん」
「そうなんすか? 本当に?」
「えぇ、まぁ」
何故疑われるように念を押されたのかがわからずに頷く。秋山は特にそれが特別なことといった雰囲気を出さずに何事もないように口を開いた。
「オーナーどこにでもふらっと行く人だから」
「へぇ」
オーナーの話が続き、オーナーの話の途中から頭が追いつかないまま秋山の言葉に相槌をうつ。私はここに来て父の話が聞きたいのに秋山に聞く間がなかなか出ない。
「そういえばこの間買ってた三色ボールペン」
「はい?」
「買ってましたよね? 三色ボールペン」
「えぇ、買いましたけど」
「あの1本はオーナーが仕入れたんすよ」
「はぁ」
「1本だけ仕入れていて」
「そんなのあるんですか」
「んー、どういうつもりかわかんないですけどあれだけは何故か」
「へぇ」
よく、覚えてましたね。と続けるとあれは、と口を開いた。
「少し普通のより重たいものだったので」
そう言われると確かにと納得する。
私はなんとなく重たいペンを使用したがるが人によっては避けるペンだろう。
「偶然だなぁとは思ったんすけどね。あの1本だけは色が少し違っていて」
「へぇ」
「で、書き終わりました?」
「いえ、まだ」
「インク入れ替えることができるんでいつでも持ってきてくださいね」
「インクの入れ替えサービスまでしてるんですか?」
「サービスは一回目だけなんすよねぇ。次から料金取ります」
「普通に芯変えるだけじゃだめなんですね」
「替え芯の種類を選ぶんですよ。長さとかによっては使えないとかあるんで」
「それは、知らなかったです」
「まぁ、基本的に安いんで、こんなふうに言っても新しいの買う人のほうが多いですよ。でもいくら安くてもせっかく買ったのなら長く使ってほしいじゃないですか」
「それで、そのサービスもってきた人いるんですか?」
「残念ながら、0っすねぇ。まぁボールペンより万年筆派なんでそっちのほうが変えてて楽しいというか」
「万年筆なんておいてましたっけ?」
「みます?」
「いえ、使いこなせる自身がないので」
「そうっすかぁ」
結局、購入したペンのことがどうして話題になったのかわからないまま話をした。




