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木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
追及編
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過去に縋る 3

 思い返せばよく和泉さんは話してくれていたなと思うけれども、基本的に和泉さんがしゃべってくれた時は私がそうとうへこんでいるときや、私が疲労困憊なときが多いことに気が付く。和泉さんなりに後輩を育ててくれていたのだと実感をしたのは和泉さんが潜入してからのことだった。



 和泉さんが潜入してから、私は桐谷と組むことがおおくなった。それは同期だから、親しいからという理由であったが、事実、女である私を使いにくいといっていたのを知っていた。確か、そのころだった、と思い出す。そのころに確かに私は和泉さんとあの店員さんを見かけていた。



 パフェをやっていたお店も不況からなのか、それとも経営者が手放したのか閉店をしていた。3代続いたその店は代替わりのたびに雰囲気が変わっていたと、長くここに住んでいた1人の先輩が話していたのを思い出す。


 そんなお店の道路向かいに新しくできたコンビニで和泉さんがその店員さんに見たこともない笑顔を向けているのを見た。

偶然、別件のことで桐谷と外に出ているときでその時は、深く考えないようにしていたのを思い出す。



 目を見て分かった。その人に心が動いているということは。おそらく桐谷もわかったのだろう。無感情そうな和泉さんの瞳がそれ以外の感情を物語っていた。

 それでも、彼女に気持ちがあったとしても、和泉さんはプロなのだから、と言い聞かせた。

 それは少なくとも、応援をしようという気持ちからなりたっているものではなかった。




 高橋や瀬崎と知り合ったのも確かこのころだった。瀬崎は瀬崎の家がお寺ということもあって知り合い、そして高橋は潜入中の和泉さんを介して知り合った。潜入している和泉さんは病院の近くのスーパーで働くやる気のないアルバイターという姿で、私はそこにいく常連の客という関係で情報を受け取りに行っていた。黙っていてもきれいな和泉さんはセキュリティーのなっていなさそうな家に住み、たまにお金を借りてはホストのバイトをする。自堕落な生活を送る男になりきっていた。そんな和泉さんと高橋がどう知り合ったのかは知らないが、和泉さんが順調に私たちが追っている組織に潜入していったのはおそらくそのころなのだと思う。


 高橋という男を調べろと言われたな、と思い返す。深津医院というこのあたりにしては大きな病院の勤務医である高橋であったが、勤務医なのに深津医院長よりもお金使いが荒かったのを思い出した。その違和感から高橋やそこの病院を調べていたはずだ。

 調べれば調べるほどにそこから生まれたほころびを感じていた。完璧すぎる経歴や完璧すぎる歴史はそこに何かを隠していると伝えているようであった。そのすべてを報告していたのは和泉さんに向けてであった。ほかには誰にも言わなかったのは和泉さんが初めて見るような怖い顔で言うのを止めたからだった。






 そして和泉さんはいつからか、公安の裏切り者とよばれるようになる。

 誰がそれを言い出したのか、私にはわからない。突然、和泉さんは裏切り者と言われるようになった。




 それはただの偶然の重なりだった。和泉さんが組織に近づいてなかなか連絡が取れなくなったとか、こちらの摘発の情報が漏れていたとか。そういうことが重なった。そして裏切りを疑われたのは和泉さんだった。和泉さんの部下を外され、そして和泉さんを監視するように言われた。それでも私は和泉さんに情報を流し続けた。それはなぜだったのか。いまだにその理由をこたえることができない。ただ、あのとき、誰ひとり和泉さんは違うと言わないその空気に絶望を感じだのは確かだった。


 「どういうことですか」

 「どういうことも何も今言った通りだが?」

 「和泉さんはそんな人じゃないのは皆さんが一番知っているはずでは?あの人は本当に」

 「口をつつしめ!夏目!」

 

 言い返してもそれを止められる。なにを言っても聞いてはもらえない。そのうち実働の係から内勤の事務に仕事を移された。

 公安の仕事をこなせばこなすだけ、自分がなぜここで働いているのかの目的を見失った。何も守れないことがわかって、そして自分の無力さに絶望した。その絶望はぬぐうことなどはできない。






 今もなお、その絶望とともに生きている。





更新がすんなりいかないなぁ。

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