過去に縋る 2
「和泉さんって私に甘いですよねー」
からかい交じりに言うと和泉はうっすらと笑みを浮かべた。
「妹と同い年だからな」
「似てます?」
「いや、どうだろう。たぶん似てないな。あいつはなんというか、そうだな。弱い子だったよ」
「弱い子……」
言葉を選びながら言いつつもその表現に納得がいっていないのかしばらく思案する様子を横目にその表現を繰り返した。実の妹にその表現はどうなのだろうと首をかしげる。
そうだなぁ、と言いつつ、和泉さんは背もたれに体重をかけた。ギィという錆びた金属の無理をするような音が静かな空間に響く。
「ずいぶんと昔に引き取られた場所が違ってから会ってないんだ。その時の記憶がよく泣くイメージだったからな」
思い返したように言われた言葉になるほどと私は頷いた。
「聞いた割に興味がなさそうだな」
「和泉さんのことだからその妹さんのことももっと調べていると思っています。でも、それしか話さないのであれば話したくないのでしょう?」
「そう、だな。うん、あんまり人に話すような話でもないな」
そこまで話すと和泉は話をかえるように口を開いた。
「志乃はなんでこの仕事に就いたんだ?」
「え?」
聞き返すとしまったといった顔を和泉は浮かべた。
「言いたくなければいいんだけどな」
「すみません、和泉さんは?」
そう聞き返すと和泉はうーん、と少しうなった声をだした。
「俺には誰もいなかったからな」
その言葉に動かしていた手を止めて和泉を見る。
「俺には守らないと、と思う家族もいなくて。あぁ、妹は俺のことを忘れているからな。じゃあ、なんか守ってみたくなったんだよ」
「それでここに?」
「どんなに汚いことであれ、何かを守るためなら強くいれるって」
「なんですか、それ」
「俺が進路に悩んでいたときに友人の家でみたアニメのセリフだよ」
ふっと思い出したように笑みを浮かべた。
「アニメ好きなやつでな。そいつに連れて行かれて見たのが、スイキンってアニメでな。そのうちの一つのセリフが本当なのか、何かを守ってみたくなったんだ」
思わずその言葉にぽかんとした表情になる。和泉さんはまぬけな顔だなと笑った。
「なんか、意外でした」
「え?」
「ものすごい正義感からなっていると思っていたので」
和泉は目を見開いたかと思うと笑った。
「そんなわけないだろ。俺は結構適当な人間だぞ」
「みえないなぁ」
くすくすと笑いながら言うと、あぁ、俺もそう思うと和泉さんは返した。
「それ以外で、というと、そうだな。さっき言った恩人のナツメさんの話なんだけどな。すげぇかっこいい人であの人みたいになりたいとは思っていたかな。それがきっかけらしいきっかけなのかもしれないな」
思案したように言った和泉さんの言葉にぱちぱちと打っていたパソコンの手を止めた。和泉さんが私のことを夏目と呼ばないのはその恩人がいるからだ、と以前に言っていたのを思い出した。昔に会ったきりの人ではあるものの、そこまでの影響のある人だったのだろう。
「かっこいい人?」
「そう、かっこいい人。かっこよくてそれでいてかっこ悪い人」
「よくわからないです」
そういうとだろうな、と和泉さんは笑った。
「自己犠牲的というか、なんというか。自分のことはほっておいているくせに人のことに一生懸命な人だったよ。誰かのためにがんばれるのってかっこよくて、それで自分は傷だらけなのがかっこ悪い人だったよ」
そういう和泉さんの目はどこか遠くてその瞳の先にどんな人の背中が見えているのか私も見たくなった。
とても難産でした。次はさくさくかけたらいいな
■和泉
志乃の先輩。
■和泉の妹
和泉曰く弱い子。志乃と同い年。
■ナツメ
和泉の恩人。かっこよくてかっこ悪い人。
■志乃
新人。




