↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木菟のないた夜  作者: 慧波 芽実
追及編
102/114

過去に縋る 1

 記憶をさかのぼると一番長い付き合いをしたのは桐谷だった。大学こそ違ったが、その後の進路が同じになり、再会を喜んだのを覚えている。

 知らない間の4年は彼を変えたのか、読み取れない表情をすることが多くなった。とはいえ、それは別に不快になるほどのことではなかった。お互いに何かに配慮してなのか、幼いころの話こそするが、高校の時の話だけは不自然なほどにしなかった。

 私は和泉さんのもと、桐谷は別の先輩のもとでお互いに成長してきたのだと信じていた。

 「俺、和泉さんって苦手なんだよな」

 いつかの飲み会の帰りにぽつりと桐谷が言ったその言葉の真意を私は知らない。



 「は。妹さんいたんですか」

 フロアに残っているのは今日は私と和泉さんだけでその声は思いのほかよく響いた。和泉さんが潜入のために長期ではなれるという少し前まで、和泉さんは遅くまで私の指導をしてくれていたのだ。 


 「あ?なんだ?悪いか。いたら」

 「いや、和泉さんってなんか家族とかと縁切れてそうで」

 「今まさに縁を切ろうとしているお前に言われたくはないがな」


 後輩として配属されてから、この人の仕事をみてきた。和泉さんの仕事は適格で、毎度毎度その仕事の手際に感嘆をこぼしていた。しかし、優秀であるがゆえに妬みもあり、一人でいることを選んでいる和泉さんをどこかさみしい人だと認識していたというのも事実だった。

 たとえば誰かが怪我をしたといっても顔を変えない。目的のためなら多少の犠牲に目をつぶる。そんな人ではあったが、その行いの正しさは別としてその目標とする意思は美しいものだとすら感じていた。

 彼は、妬みと同じくらい、尊敬もされていたのである。


 「最初に志乃が後輩にって聞いたときは、女だから事務仕事は得意だろうと予測していたが」

 「すみませんね!苦手で!」

 「誰も攻めてはいないだろう」


 そういうと隣の開いた椅子にぎしりと座った。


 「最初は女だから嫌がっていたじゃないですか」

 「ナツメとしか聞いてなかったからな。男だと思っていたんだよ」

 「なんで男だと?」

 「俺の恩人にナツメっていう男の人がいるからな」


 それだけつぶやくと和泉さんののグレーに近い瞳が私が渡したばかりの書類の上を動いていく。数分だろうか、しばらくの沈黙ののちにふぅと息を吐き出したのを聞いた。読み終わった合図かと顔を上げると書類から顔を上げていたグレーの瞳と視線があう。


 「内容はいいし、まぁよくまとめられていると思う。しかし主観的に書きすぎだな、この報告書」

 そういって突き返した紙をしぶしぶ受け取る。

 「やり直しな」

 「えー……」

 「不服そうに言うな。俺だって一緒に残っているだろ」


 初対面の印象とは真逆に和泉さんは思いのほか面倒見がよく、よく一緒に残業をしたり、指導をしてくれていた。周囲の人の評価と彼は一致していなかった。どこか飄々とした様子の姿は私にかっこいい大人像を見せてくれたようにも思える。彼いわく、使える人間を増やさないと自分が死ぬからな、とのことではあるがその熱心さは少なくとも私にはありがたかった。


■桐谷

大学は別だったらしい。


■和泉

志乃の先輩。妹がいる。意外に面倒見はいいらしい。


■志乃

和泉の後輩。桐谷とは同期。


過去編でした。過去に縋るのサブタイトルの間は和泉、志乃、桐谷の過去編におつきあいくださいませ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=848126039&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。