対面する疑惑 3
「そうだっけ?」
たぶん震えていた言葉に桐谷は何も言わない。
「まぁ、あの人はプライベート謎だったもんな」
「そうだね」
懐かしむような声に同意をすると桐谷が少しだけ恐れるように口を開いた。
「志乃はどこまで覚えている?」
「どこまでって?」
「えっと、だから」
「私が、死ぬまで」
言葉を探した桐谷にそう告げると桐谷は安堵の息を吐いた。
「なに?覚えてなくてよかった?」
「いや」
でも、とつづけた言葉にだまって耳を傾ける。なんでもないと告げた桐谷から目をそらさないでいると桐谷は観念した、というように両手を少し持ち上げた。
「ただ。志乃がいなくなってからの時間のことはあんまり、知られたくはないな」
「そう」
お待たせいたしました、と言われて置かれたパフェを受け取る風にして店員をまじまじと見る。きれいな人だ。
「ありがとうございます」
唇があまり動かないでささやくようにしかこぼれなかった言葉は拾われなかった。
「俺は不運だと思っていたよ」
唐突に告げられたその言葉に首をかしげる。食えよと言われ遠慮なく食べ始めた。
桐谷の言葉はどこか懺悔のようでもあって、その言葉の真意が私には見えない。その真意こそが桐谷の隠したいことなのか、判断はつかないままその言葉に耳にを傾けた。
「あの時は本当にそう思っていた。大切に思えば思うほど、どうしていいのかわからなくなるし、その大切な人ほど死んでいくんだ」
「不運ねぇ……」
「まぁ今は幸運だけどな」
桐谷の言葉を繰り返すと桐谷はははとあきらめたように笑う。どこかわざとらしさを感じるその笑い方は桐谷の言葉に嘘がある証拠だ。
「ラッキーって思っているの?」
「え?」
「今は」
そう聞くとためらいつつも桐谷は口を開いた。
「正直最初はな、幸運だと思ったよ。でも、たとえ戻ったとしても俺のたどる道は同じ道でしかない。なんのために、どうしてもどってきたのか。それが納得いかない」
その言葉に不思議だね、と口を開いた。
「そっか。私よりも長く生きていたんだね」
「たぶん、そんなに差はないけどな」
からりと笑った桐谷に首をかしげるとあきらめたように肩をすくめて口を開いた。
「俺はお前が死んでからたぶん1年くらいしたら死んだからな」
どうして、という理由を問えなかったのはなぜだろうか。死んだ理由はなんだったのかとどうしても聞けなくて戸惑うままに口を開いた。
「桐谷はいつ自分が死んだのか覚えている?」
「あー、いつだったっけ」
少し困惑気味に顔をゆがめてそしてあぁ、と声をもらした。
「そうだ。携帯のアプリの通知にお前の誕生日の前日ですって来てたな」
そう、というと桐谷は顔をゆがめた。
「そういえば、お前もそのくらいの時期じゃなかったか?死んだの?」
「そうかも」
ごまかすように笑うと桐谷はやっぱりなと納得したように笑った。少なくとも今は、お互いにまだ、すべてをさらけ出せないと思っているのか。それはなぜなのか。私は桐谷を信用していたはずなのに、情報を共有して協力してもらおうなんて考えだけは浮かばなかった。
■店員さん
癒し系美人。
■桐谷
過去を知られたくない
■志乃
なんだか信用しかねる
やっと更新できました。更新スピードを上げたいこのごろ。




