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第3話 エスパー新入生、来る

部室で宿題をしていると、廊下から足音が聞こえた。

よく聞くとどうやら2人のようだ。

そうこう考えているうちに、がらがらと扉が開いた。



「はろー千紘ちゃん」

最初に入ってきたのは、神崎さん。

「・・・・・・どうも」

その次に入ってきたのは見慣れない顔。

セミロングの黒髪に細フレームのメガネを掛けた頭のキレそうな女の子。

新入生のようだった。



「千紘ちゃん、今日は新入部員を連れてきましたー」

「・・・・・・1年の五十嵐です。よろしくお願いします」

女の子がちょこんと頭を下げる。

「どうも2年の荒川です。よろしくー」

やった。ついにこの時が。ついに私にも後輩が。

願わくばそこまですごい超能力をもってませんように。



「・・・・・・ちなみに五十嵐さんはどんな事ができるんですか?」

おそるおそる尋ねてみる。

「すごいんだよ、深雪ちゃん。なんとエスパー」

なぜか神崎さんが胸を張って答える。

「まあ、はい。一応、人の心が読めます」

「それは、すごいですね・・・・・・」



ああ、ヘコむ。人の心が読めるなんて、ザ・超能力じゃないですか。

しかも一応ってなんだ。一応って。

私なんてリモコンのなりそこないだぞ。


 

私が心の中で血の涙を流す一方、神崎さんは相変わらずの無邪気な笑みで、

五十嵐さんにキラキラした目を向けている。

「ねえねえ早速だけどさ、深雪ちゃん。私が考えてること当ててみてよ」

「いいですよ。じゃあ、神崎先輩。そっちに座って、手を出してください」

「ほいほい」

長机に向かい合って座る2人。神崎さんが差し出した手に、五十嵐さんがそっと右手を重ねる。

私はとりあえず神崎さんの後ろから見守ることにした。



目を閉じることおよそ3秒。目を閉じたまま五十嵐さんが口を開く。

「お金がほしいってすごい大きな文字が。これまた立派なゴシック体で」

なんでそんなこと思い浮かべたんですか神崎さん。しかもフォント指定付きで。



「すごーい!本当に読まれた。次、これは?」

すかさずもう一度手を差し出す神崎さん。五十嵐さんが手を重ねる。

「文字が明朝体に変わってますね」

何食わぬ顔で即答する五十嵐さん。

「んー、次!」

「これは創英角ポップ体ですね」

「次!」

「メイリオ」

「次!」

「HGP岸本楷書体」

「なんで分かるのー!」

「そりゃ、エスパーですから」

神崎さんがことごとく跳ね返されている。



それにしてもエスパーとフォントは関係ないと思うのだが。

それともエスパーになるとフォントに詳しくなれるのだろうか。

そんな馬鹿な。



「じゃー、これでどうだ!」

眉間にしわを寄せながら机の上に手を差し出す神崎さん。

五十嵐さんはさきほどと同様に神崎さんの手に触れ目を閉じる。

「あー、これはよくあるパターンですね。何も考えない、何も考えないってずーっと聞こえてますね」

「あー。やっぱりだめかー」

さすがに無我の境地に達するのは、至難の技だ。

椅子の背もたれにぐっと体を預ける神崎さん。

しかしすぐ復帰して、五十嵐さんに手を差し出す。



「じゃあ次いこう、次」

「わかりました」

得意げな顔で手を重ねる五十嵐さん。

「あー視えてきました・・・・・・。ん?」

何やら悩ましげな五十嵐さん。

「ん? どうしたの深雪ちゃん?」

神崎さんがニヤリと五十嵐さんの顔を覗き込む。一体何が起こっているんだろうか。

「いや、視えるのは視えるんですけど・・・・・・。

アメリカ人とインド人が、盆踊りを踊ってます・・・・・・」

「だめだったか」

悔しげな表情を浮かべる神崎さん。

それにしてもアメリカ人とインド人が盆踊りって意味不明すぎやしませんか。

狙いはわからなくもないですけど。



すると、おもむろに神崎さんが立ち上がって、私の方を振り返った。

「だめだ千紘ちゃん。私じゃ無理だ。チェンジ」

「い、いや急にそんなこと言われても困りますよ」

「まぁまぁ、はい手を出して」

「ちょっ・・・・・・」

むりやり椅子に座らされ、神崎さんが私の手を掴んで机の上にのせる。

なぜか、すかさず五十嵐さんが手を重ねてくる。



やばいやばい、何読まれるんだ私。こういう時は何を考えたらいいんだ。

いやでも滅多なこと考えられない。

っていうかこういう時に限ってヤバイことが頭に浮かんでくるのはなんでだ。

秘密のアレのこととかコレのこととか。

こんなこと知られたら恥ずかしすぎて死・・・・・・あっ。



「・・・・・・みたいなことが聞こえてきますね」

五十嵐さんと目が合う。ニヤニヤしている。

しまった、読まれてた。思わず手を引っ込める。

「・・・・・・もしかして、アレのことも見えた?」

「ええ、なんか☓☓な映像が見えましたね」

「・・・・・・コレのことも?」

「ええ。荒川先輩、意外と・・・・・・☆♡☆なんですね」

 五十嵐さんがニヤリと笑う。



「あ、ああ・・・・・・」

しまった。まさか部室に来て15分もたっていない新入生に弱みを握られるなんて。

「神崎さん、あとお願いします」

そう言い残して、とりあえず壁に向かって頭を抱える。



なんとかしてあいつの記憶、消せないかな。

脳は電気信号で動いてるって聞いたことあるけど、エレキネシスでなんとかなんないかな。

無理か。終わった。



 おもむろに再び席に着き、静かに手を差し出す神崎さん。

「じゃあ、千紘ちゃんの遺言どおり最後の勝負よ。深雪ちゃん」

 まだ私死んでないです。まぁ死んだも同然ですけど。



「かまいませんけど先輩、何度やっても結果は同じじゃないですか?」

ドヤ顔の止まらない五十嵐さん。これがヤツの本性か。

「最後までやってみないとわからないわよ?」

「果たしてそうですかね」

ゆっくりと手を重ね、目を閉じる五十嵐さん。



「んー、見えてきましたよー。これは・・・・・・」

ふと、先程まで余裕たっぷりだった五十嵐さんの顔がくもった。

「これは、なに?」

神崎さんがそっと聞き返す。その顔には勝利の笑み。

「あー、と・・・・・・えっと・・・・・・」

言葉に詰まる五十嵐さん。なぜか冷や汗を流している。

「ん? 何だと思う?」

「えーっと・・・・・・その・・・・・・ひいッ・・・・・・!」

恐怖に引きつった表情の五十嵐さん。神崎さんがフッと笑みを漏らす。



「どうやら私の勝ちみたいね」

さっきの五十嵐さんにも引けをとらないドヤ顔を浮かべている。

「覚えておくのよ、深雪ちゃん。ヒトの想像力っていうのは凄まじいのよ」

五十嵐さんにむかっていたずらっぽく笑ってみせる。



「・・・・・・すいません、神崎先輩。

調子に乗りすぎました・・・・・・私の負けです。

荒川先輩もすいません。さっきのことは見なかったことにします・・・・・・」

しんみりと頭を下げる五十嵐さん。

・・・・・・一体何を思い浮かべたんだろうか神崎さん。

なにはともあれ、不用意にあの秘密が晒されることはなさそうだ。多分。

とりあえずは、よかった。



・・・・・・こうしてボランティア部に新しい部員が加わることになった。

しかし、五十嵐さんはあのことがよっぽどトラウマらしく、

神崎さんと親しくしてはいても、しばらくは指一本触れようとしなかった。



・・・・・・それにしても神崎さんと五十嵐さんが私の方を見て

ずっとニヤニヤしているのは、果たして気のせいだろうか。



読んでいただきありがとうございます。

感想、ブックマークお待ちしております。

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