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第2話 ないはずないでしょう

読んでいただきありがとうございます

ご意見ご感想あればぜひお送りください。

ブックマークのほうもよろしければお願いします。

神崎さんの無邪気な一言によって、空き缶のごとくヘコまされてから数分後。

タイヤキのある未来を想像してなんとか復活を果たした私は、ちまちまと宿題をこなしていた。



そしてあらかた片付いて、ふと時計に目をやるともう5時を過ぎていた。

神崎さんと、ちらっと目があって、どちらからともなく帰り支度を始める。



千紘ちひろちゃーん、電気消してね」

先に廊下にでている神崎さんが言う。

「ええ、わかってますとも」

さっと入り口のスイッチに手をのばして蛍光灯のスイッチを切る。

さっき自分の超能力でつけたときよりも楽なのは言うまでもない。

自分で言っておいてなんだが少しへこむ。



「ええー。“セイッ!“じゃないの?」

背後から神崎さんが冷やかしてくる。

「あれはもうやりません」

きっぱりと答える。文句の1つでも返したいところだが、タイヤキのことを思ってぐっと我慢する。

「ちえっ、つめたいのー」

がっかりした表情の神崎さん。



そんな彼女は無視して、忘れ物がないか部室の中をぐるりと見回し、扉をぴしゃんと閉める。

この部屋に鍵はない。わざわざ施錠してまで守るようなものはあそこにはないからである

セキュリティーいらずのボランティア部。




神崎さんと二人、夕暮れの道をタイヤキの小田原堂へと向かう。

小田原堂は私達の通う学校の生徒を中心に人気があるタイヤキ屋だ。

ちなみに私は2日に1回はここのタイヤキを食べないと気がすまない。

食べないと超能力の出力も弱る気がする。

もとから弱い? 余計なお世話だ。

 それからタイヤキは絶対に小倉あんじゃないと認めない。それ以外は邪道だ。異論は認めない。



「小倉タイヤキ、まだ残ってますかね」

 ふとそんなことをもらす。

「うーん、ちょっとまってねー」

 そう言って、ふと立ち止まる神崎さん。

左右のこめかみに中指を当てて、目をとじることおよそ三秒。



神崎さんの超能力は、クレヤボヤンス。いわゆる千里眼というやつだ。

数十メートル先が透視できる。おまけに近くのものの透視もできる。

ただ本人のほんわかした性格上、チート的に使われることはまずない。

大抵はこんな風にタイヤキ屋の在庫確認などといったきわめて残念な用途にしか用いられない。



眉間にしわを寄せた神崎さんが声をもらす。

「っむう・・・・・・あっ。全部バラエティセットになってる」

「ありゃ、そうですか」

「ここは私の出番だね、千紘ちゃん」

ドヤ顔をきめる神崎さん。

このバラエティセットが店に並んでいるときは、神崎さんの超能力が必要不可欠なのだ。



お店に着くと、カウンターのショーケースにタイヤキたちの姿はなかった。

かわりに近くのテーブルに白い箱が10数個、積み上げられている。

この箱こそが小田原堂バラエティセット。



いつもなら150円のタイヤキが5個も入っていてなんと300円。

普通に買うよりなんと400円以上もオトク

・・・・・・と言うと聞こえはいいが要するに売れ残り詰め合わせである。

夕方になり閉店時間が近づくと、売れなかったタイヤキたちはその中身に関係なく

5匹セットで白い箱に詰められる。

ゆえに1箱の内容は、売れ残りがちな変わり種タイヤキがほとんどを占めることになる。



それでも1箱に最低1つくらいは小倉あんタイヤキが入ってはいるが、それもすべて店側の采配次第。

過去に5個すべてがジャーマンポテトの箱をひいた時は、己の無力さを大いに嘆いたものだった。

いつもなら「変わり種、特にジャーマンポテトが少ないやつをくださいっ!」と念じながら箱を手にとるところだが、今回は違う。

神崎さんがついている。彼女にかかればこんな箱、ないも同然である。



「じゃあ、神崎さん。いつものよろしくお願いします!」

しゅびっと神崎さんに敬礼をする。

「まぁ、このクレヤボヤンス神崎にまかしときなさい」

どんと胸をたたくタイヤキ選びのスペシャリスト。さっそく白箱の山と対峙する。

それにしてもクレヤボヤンス神崎ってなんだ。芸名かなにかだろうか。



「うーんと、どれがいいかなー」

箱の山を覗き込み、先程と同じように左右のこめかみに両手の人差し指と中指を軽くあてる。

そして白い箱の山をじっと見つめることおよそ3秒。

「これだ!!」

神崎さんは積まれた白い箱の中から下の方にあるのをさっと抜き出して、

カウンターの割烹着姿のおばちゃんに300円を渡してお会計。

いそいそと店を出て、近くにあるベンチに腰掛ける。



「ありがとうございます。さすがです神崎さん!」

「いやいや、それほどでも」

白い箱を前に、浮かれる2人。やはり好物を目にするとテンションがあがる。

「ふっふっふ・・・・・・。驚くなかれ千紘ちゃん。今日のこの箱、なんとノージャーマン!」

ドヤ顔の神崎さん。なんですかノージャーマンって。言いたいことはわかりますけど。



「というわけで早速食べよう、千紘ちゃん!」

「はい!」

神崎さんから箱を受け取ると、ふたを開けて神崎さんの前に差し出す。

すかさず透視のポーズをとる神崎さん。

「むっ!右からカスタード、小倉、小倉、カスタード、小倉だ!」

「ありがとうございます!」

 私は左端の、神崎さんは右端のタイヤキを箱から引っ張り出す。



「いただきまーす!」

 ほおばるといつもの程よいあんの甘み。やっぱりタイヤキはこうじゃないと。

「あーやっぱりタイヤキはカスタードだよねー」

タイヤキの腹を笑顔で真っ二つにして、ほおばる神崎さん。ああなんて無邪気な笑顔。



そんな彼女を尻目に、私は1つ目タイヤキを食べ終え、2つ目に手を伸ばそうとする。

「あれ? 小倉ってどれでしたっけ?」

「えっとねー・・・・・・これとこれだね」

タイヤキ片手に透視する神崎さん。

どうも、とお礼をいって2匹目を引っ張り出す。その瞬間、ふと冷静になる。


 ・・・・・・・・・・・・。


タイヤキをかじりながらぼんやりと考える。

・・・・・・もっとスゴいことできるはずだろうな神崎さん。

どうしてこんなスゴい力が、タイヤキの中身当てなんていう貧乏くさいコトに使われてるんだろう。

もっとほかに有意義な使い方がわんさかあるんじゃなかろうか。


しかし本人曰く、これ以外に特に使い道がないだとか。そんなわけあるか。



ここまで読んでいただきありがとうございます

ご意見ご感想あればぜひお送りください。

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