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第1話 そんなコト言わないでください

新連載です。よろしくお願いします。

ご意見、ご感想などございましたら、ぜひお送りください。

4月ももう終わる、とある日。

あちこちに、花びらが散りきって緑が目立つ桜の木が見えるようになってきた。



私、荒川千紘あらかわちひろは六限目までの授業を終えると、

そそくさと荷物をまとめて部室へ向かう。

三年生の教室がある1階から文化系の部室が集まる4階へと階段をのぼる。

息を軽く切らせて階段を登りきって、

一番端の教室の「ボランティア部」と張り紙のされた扉を開ける。



ボランティア部。それは数年前に新設された弱小文化部。

しかしそれは名前だけで、決して学校に対して奉仕がしたいという人間が集まる部活ではない。

ボランティア部とは世を忍ぶ仮の姿。

その正体は超能力を持つ生徒しか入部することができない部活なのである。



当然私も超能力が使える。・・・・・・ちょっとだけ。

普段は隠して生きていかざるをえない超能力を、せめて部活の間だけは自由に使っていこう、

というのが主旨らしい。昔、誰かが言っていた気がする。



部室に足を踏み入れると、先客がいた。

半分が、使われなくなった机と椅子の山に占拠されている教室。

その残ったスペースにの真ん中に2つ向かい合わせで設置された長机。

その片隅で、1つ上の学年の神崎さんが文庫本を読みふけっていた。もちろん彼女も超能力が使える。



「おっす、千紘ちゃん」

「どーも、神崎さん」

視線を文庫本に固定したままの神崎さんと挨拶をかわす。

そして神崎さんの対角線上のパイプ椅子に腰をおろすと、

カバンから教科書とノートを取り出し、宿題に取り掛かる。

この部活は要するに、超能力を持つ生徒たちの寄合みたいなものだから、

特に活動内容は決まっていない。それぞれが読書なり、勉強なりをして自由に過ごす。



ふと神崎さんのほうを見ると、目があった。

「千紘ちゃん、あれやってよ。超能力」

彼女は文庫本を閉じると、無邪気な笑みで天井を指差した。

「だめです。意外とエネルギー使うんですよ、あれ。自分でなんとかしてください」

「えー、わたし動きたくない。それに、千紘ちゃんの”セイッ”が聞きたいなー」

ダダをこねる神崎さん。この人、今年は受験生じゃなかったろうか。

すこし心配になってくる。



「えー・・・・・・どうしましょう」

少し渋る私。私の超能力はそこまで大したものではないから、積極的に人前で使いたくないのだ。

「お願い、帰りに小田原堂のタイヤキおごったげるから!」

・・・・・・くっ。私の大好物を出してくるとは、この人も油断ならない。

でも、ここで頑なに拒否するよりもタイヤキのほうがいいに決まっている。

ありがたく神崎さんの要求を飲むことにした。



「・・・・・・しょうがない。一回だけですよ」

「やったぁ」

神崎さんは、とても嬉しそうだった。

この部の最年長とは思えない無邪気すぎる笑顔。本当に大丈夫だろうかこの人。



タイヤキにつられて能力を使うのもなんとなく納得いかないけれど、

普段から使わないように、表に出さないように生活しているから

フラストレーションみたいなものが溜まるのもまた事実。

見せてあげようじゃあありませんか、私の超能力。

ついでにタイヤキも食べられて一石二鳥。



3メートルほど離れた入り口にある蛍光灯のスイッチに手のひらを向ける。

集中力を高めて、スイッチに念をおくる。脳の血管が切れそうになるくらい眉間に力を込める。

歯がぎりぎりと音をたてる。そして、己の集中力が極限に達したとき。


「セイッ!!」


と叫ぶ。なるべくお腹の底から。

するとスイッチからぱちんと音がして、教室が蛍光灯の光で明るくなる。


それだけ。


エレキネシス。機械の類を念力で操ることのできる能力。

でもちょっとしかできない。リモコン代わりになるのが精一杯。

おそらく普通にスイッチつけたほうが早い気がする。



「おおーついたー。千紘ちゃん、今日は調子がいいねー。ありがとー」

そう言うと神崎さんは何食わぬ顔で読書を再開する。

「なんかやっぱり千紘ちゃんの超能力って、地味だよねー」

神崎さんは視線を文庫本に固定したままで言った。私はベコッと音をたててヘコむ。 

多分、神崎さんに悪気はないと思う。

単純にそう思っているだけ。でも悪意がない分、よけい心に刺さる。



「やらせておいて、その言い方はないでしょう・・・・・・」

けれど神崎さんの超能力のほうがすごいからなんにも言えない。

もう二度とやるまい。そう心に決めた。

でも、たしか今年に入ってから同じような決心を4回ほどしたような気がする。

甘いものに釣られて。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

ご意見、ご感想などございましたら、ぜひお送りください。

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