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体が変化していく、それは変化といえるほど生ぬるいものではなく変身と
言えるもの。
例えば刺す動作、腕を前に突き出す動作に着目してみれば。初めは緩慢な
動作、だけど何度も筋肉組織を痛め、酷使していく過程で治療を行っている
ナノマシンは現状ではダメだと足りないと把握し、筋肉を肥大させ、刺す
動作が自然に行えるように改良を始める。
更には肥大させることだけに留まらず縮小もさせていく。
必要の無い筋肉組織の分解、必要の無い脂肪の燃焼。我々人類には肥満体
といわれる体型がすでに無くなってしまって久しい。
今日もナノマシンは人類と共にあり、その存続と繁栄のために体の中で
動き続けている。
その原動力に未知のエネルギーを使いながら。
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俺達は初めに攻撃した狼の回収を行う為に森の中を移動していたのだが、
回収地点の近くで森人の奇形種と出会ってしまった。
しかもよく見ると俺達が狩った狼がほ横取りされているのだろう、という
犯行現場での出会いだった。
森人の奇形種。こちらは森人とは違い各地に移り住んでいる、半年間の観測
では森人の集落から追い出されている姿が度々目撃されていることから我々は
この名を付けた固体で人型宇宙人の分類に入れている。
そして森人と同じように雑食性だ。
外見も森人に酷使するが、背は低く我々の子供時代百三十センチメートル
ほどで、目は我々の二倍ほどの大きさになっている。
こちらは森人と違って家族間の絆は薄い。仲間もしくは家族でも捨て駒に
するような行いが確認できている。
また魔法を使う記録はあることはあるが森人よりは少なく、今の所は扱える
者が少ないと結論付けられている。
この生き物は出現理由から初めの数が少なくそのためか繁殖力が強い。自然
の摂理だとも言えなくも無いが、少ない数から増えることに力があり成長速度
は格段に早い。
雄なら雌になる固体は同族でなくともいいし雌も同じように同族で無くても
いいが、異種交配になるため行為自体に及ぶことが難しい。
奇形種を追い掛けだして早四時間ぐらいになる。
明暗の幻想世界はすでに消えてしまい、刺すような赤みがかった光が木々の
間から差してきている。
はっきりとした照明が点き出した事でその皮膚色が緑だと確認でき、奇形だと
確信が持てるようになっていた。
俺達はその現在地を森林から森へ戻ってきた道を、半円を描き遠回りする
ようにまた森林へ戻ってきていた。
懸念している言葉が意思として出る。
『まさか森人の元に行くわけじゃないよな』
ここは森林と森の境目に当たる場所の近くのはずだ。その確証を得る木の
密度は低くなってきている。
『情報では森人とは仲が悪い。それはあるまい』
安田がいうように森人と奇形は仲が良くない。どちらかと言えば森人側が
嫌悪している観測結果は出ている。
だがもしもということはあり得る。
それはこの惑星に墜ちてから何度も味わってきたことだ。
『あの矢を森人が撃ったとなるとその脅威は計り知れないからね~警戒は
しておくことに無駄はないでしょ~』
さすがに狙撃されるのは嫌なのか、普段ゆるい田中もまじめなことを伝えて
くる。
痛いのは嫌い、誰にでも当てはまることだ。
それが自分自身の生命を脅かすほどの脅威ならなおさらだ。
『そうだよね。警戒はしすぎることはないからそれがいいよね』
渡辺さんが賛成の意を伝えてくる。そして近藤の意見を聞く為に少し間を
おいたが何も伝えてこなかった。
ただむすっとした雰囲気だけは感じられる。どうやら機嫌が悪いようで
おそらく、この機嫌は森人とのことが一段落するまで続きそうだ。
出来れば意見を聞きたかったのだが、人間だからどうしようもない時も
ある。
今はそのどうしようもない状況に当てはまるのか分からないが……
『警戒を厳に! このまま奇形を追い掛け続ける、隊形は二列で索敵漏れを
出来るだけ防ぐ!』
今まで一列で追い掛けていた隊列を、相手との距離に合わせながら流れる
ように二列に変える。
そういえば視力がおかしいんだよね。
この前までは百メートルほどの望遠だったけど猪を乗り越えてから見え
過ぎている。
今では百五十メートルぐらいならいけそうだ。
いよいよ人類だと胸を張って言えなくなってきた体に恐怖しながら、俺達
は長い呼び名と森人との混合を避けるために奇形を改めGoblinとして追い
掛け続けた。
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あれから更に一時間ほど追跡し、太陽が完全に黄色い光を大地に恵み出し
始めてからGoblinの移動は止まった。
其処はどちらかと言えば森に少し入った所で、木の密度が高かった。
その木々と背の高い草に覆われることで巧妙にカモフラージュされたような
立地で、側に寄って見ないと穴が開いているとは思わない場所だった。
そこに五匹は潜るように入っていった、それが二時間前になる。
俺達はその半径百メートルほど離れて、正面からずれた位置にある木の上に
それぞれTwo man cellで上っている。
俺は何時も通り一人なんだけど……
それでも仲間が左右を挟むように上っているので休憩はとれそうだ。
『追跡を巻かれたということはないだろうな!』
Goblinが巣穴に入ったことを確認してから、とりあえず森人との接触は
低いと思ったのか、それから近藤も話に加わるようになった。
それでも機嫌が完全に治っているとは言い難いけど……
『どうだろう、だが無用心にあの穴に飛び込むわけにはいかないし人員を
割いて別行動するわけにもいかないからな』
俺達の戦力は今の所この五人だ。体は進化し続けているみたいだがまだ
戦力の分散はできる時ではない。
最低でもあの攻撃をなんとか出来るまでは厳しいだろう。
たしかにもう巣穴に入ってから二時間ぐらいになる。
穴周辺は見張りが立っている訳でもなく、俺達からしてみれば誘っている
かのようだ。
だが俺達は今の姿勢を崩さず待つことにした。
どんな時も出来るだけ情報を得て、取れる進路を複数もっておきたい。
そして俺達はこの時間を利用し、交代で久々の睡眠をとることにしたんだ。
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『Check! Eight』
近藤の意思によって意識が浮上してくる。とても嫌なモーニングコールだ。
しかも俺が眠りについてまだ一時間ぐらいしか経ってないのに……そんな愚痴
交じりの思いは微塵も出さずに目線は確認のために動く。
『確認前、目標百メートル先、八、Goblin!』
袋を担いだGoblin達が近づいてくる。その進路方向は真っ直ぐ穴へ向かう
コースだ、おそらく巣穴へ帰っていってるのだろう。
六匹は袋を担いでいて、残りは二人で大きな袋を担いでいた。
その袋は歩く振動で揺れている動きより大きな動きをしていて、近づいてくる
Goblinよりもその袋に意識がいってしまう。
『あの袋の中身は生き物かな~ちょっと動きが怪しいですね~』
俺も田中と同意見だ。
Goblinの生態を情報から引き出し確認してみたが家畜であってほしいと説に
願う。
でも最近は悪い方向でしか願いは叶えられてないから多分無理だろう。
それに袋の大きさがちょうど俺達も入りそうな大きさで、布の織り方が甘い
のか隙間が大きくそこから人型が見えてるしな……
ほんとに次から次へとめんどくさいことが起きる。
『軽率な行動は慎み、このまま観測を続ける!』
なんとなくこの後の流れが読めるんだけど、俺はそれでも動かないことを
支持した。
突っ込むことは誰でも出来る、だが考えて行動できるのは知的生命体の
特許だと思うんだよね。
そりゃ考えるだけで行動できないのは良くないけど……
Goblinが穴に潜りこむのを確認した後、俺は夢の続きを見るために再度
眠りへと移っていったのだった。
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あれからすでに二日が過ぎている。Goblinは定期的に住処を出ては行動を
しているようだ。
時間と共にその行動を観測し続けているうちに、ある程度のことは分かって
きた。
定期的に動いていて、その人数は最低でも二人で行動しているということ、
そして何回か近くを過ぎたことがあったが喋っている
言葉が分からないということ……Goblinの体格は大体同じ大きさであること
から成人?が主に動いているのだろう。
とりあえず頭がいて、そこから社会構成を強いているのは伺える。
一人一人の顔を覚えていたらきりが無いのだが数えた数は二十ほどで最低
その人数は穴倉生活をしているらしい。
残念ながら魔法の使用は確認が取れなかったのでよく分からない。
一番気に入らなかったのは汚く品質はよくないが服らしきものを着ている
ことだった……腰に刺しているナイフのような物よりそっちに意識がとられて
しまっていた。
俺達は食料にしていた木の皮が近くに無くなると、場所を移動するという
行動を続けていた。
トウモロコシの芯のようになった木に向かって思う、このままだと木が
枯れてしまいそうだ。
それにこのままだと、これ以上詳しい情報が手に入りにくくなってきたので、
そろそろ動く時間が近くなってきている。
森人に対抗する為にも早めに魔法の確認もしておきたい。
他の入り口が無いのか気になるがそこは現状確認のしようがない、となると
あの入り口から煙を使った炙り出しからの殲滅になりそうなのだが、Goblin
以外もいることを初日に確認してしまっている。
あの袋の中身がどの種族になるのか分からないが、飛び出して来たところを
確認して叩くことは以外に難しく、気付いたら叩いていてGoblin以外も
転がっているということもありえる。
『うん、まぁいいや、人類じゃないだろうしやるか! 近藤、安田、俺で
three man cell攻撃担当、田中、渡辺さんでTwo man cell周辺警戒担当、
燃えそうな材料をこの周辺から集めて決行時間まで分散して隠しておこう』
悩んだのは一瞬でその後は切り捨てた、もし穴が綺麗になった後に生き
残っていたらその時は様子をみて、有用なら保護し害悪となるなら消えて
もらおう。
俺達が生き抜くためには仕方が無いことだ。
俺達は大体の時間配分さえしているGoblinの行動時間で、出て行く数が
六人以下の時に行動を起こすことを決めながら、まずは燃えやすい乾いたもの
を探しに、しばらくお世話になった木の上からさよならをしたのだった。