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HDM  作者: 腹ペコリンコ
8/27

7

 空と大地で交差し、俺が本来いたであろう場所を駆け抜けて、更にその先まで

駆けて行く猪の後を必死に追い駆ける。


猪突猛進を絵に書いたように止まらない。


母星の猪は止まろうとすれば止まれるらしいが、相対している獲物はそれよりも

二倍ほど大きく、比例するかのように体重もありそうだ。


 だけどいくら大きかろうと止まることは出来るようだ。しばらく走った後に

止まって、その大きな体ごと頭を振り返った。


 いくら俺が必死に走ったとしても俺の走力は猪と違い低い、猪は最高五十

キロメートルぐらいで走ることができるらしいし、追い付くのは無理だ。


 無理だよな……出来たら怖いのだけど。


 しかも両足で着地して踏ん張り、急制動を駆けて一度止まっている。

 走り続けている向こうからしたら相手にならないだろう。そういったことも

あって猪が減速をし、止まって体ごと振り返った時には、俺との距離は四十

メートルぐらい開いていた。


 獲物の顔を伺ってみる。目を細め酸素がほしいのかもしれないが口を軽く開けて

いた。


 先ほどの俺がしたアクロバチックな動きを警戒してか、内面を探るような疑う

ような顔をしているように見えた。

 ううん、それでは困るんだよな。俺だけを見ていてもらい、理性を投げ捨てて

走り回り突っ込んで来てもらいたい。


 俺は威嚇することにした。意識をこちらだけに集中させ頭に血が上るように、

挑発できるように吠える。



「お前の母ちゃんデベソ!!!!」



 言葉なんかまともに伝わりそうに無いんだし、相手の注目を浴びるということに

重点を置きたかったから適当な言葉でいい。


 そう何でもいいじゃん……

 うおおおとか、うらあああとかでも、良いと思ったけどなんとなくこれが言いた

かったんだ。

 そして相手の目を見ながら、はっきりと伝わるように大げさに手招きしてみせる。

 ComeComeと。

 

猪にどうやら俺の挑発をしているという行動は伝わったみたいで、僅かに開いて

いた口を閉じて姿勢を低くした。

 まるでその姿は力を貯めているようで、相手との距離が離れていて全体が見渡せ

たため、猪の周りが熱膨張してるかのように揺らめいているかのように見えた。


 それからその姿をしばらくしていたかと思うと、ノーモーションで銃弾が発射

されるように飛び出してきた。

 俺は飛び出してくるタイミングが掴めなかったため、軽く動揺してしまっていた。


 推定三メートルの五百キログラムが突っ込んでくる。

 その迫力に、轢かれた後のことを嫌でも想像出来てしまい。

 そこから来る恐怖心を払拭するために、腰は自ずと少し落としぎみになり、両足で

大地を踏み締めたような姿勢で知らず知らずのうちに咆哮を上げていた。



「うおおおおぉぉ――――――――!!!!」



 咆哮などお構い無しに突っ込んでくる猪、その姿はまさしく発射されたミサイル、

小さく見えた体が大きくなり真っ直ぐに突っ込んでくる猪の顔はブレが少ないため

よく見えた。


 二度目のチキンレース、だけど俺はあれだけ煽っておいてそのレースには参加して

いない。

 意識をこちらに縫い止め、猪が走り出してから一歩も動いていなかった。


 疾駆している猪、足を止めて待ち構えるような状態の俺、距離が縮まっていくが

二人の間は片方しか寄って行ってないので先ほどのように早くはない。


 そのレースも距離が十メートルぐらいになった時に、いよいよゴールが見えてきた。

 そしてあらかじめ決めておいた作戦が始動する。こまかくリンクによって支持を出し、

向こうでも綿密に計算していると思うが、それでも焦る心が意思を自然に垂れ流す。



『タイミング五、四、三、二』『今だ!』



 ここはすでに森といってもいいような密林、その森の木の上から認識さえ出来

にくい影のような状態になった、


近藤と安田が別々に飛び降りてくる。

 俺は猪から視線を外していないので、詳しく見ることができないがおそらく

そうだろう。


 その二人は疾走している猪の上方から迫り、それぞれ半身のようになり、その

片手で握り締めた木の棒を目に刺し込んだ。



「ghhooooo――――!!!!!!」



 それまで引き結んでいた口からすさまじい悲鳴があがる。だが急に視覚を

奪われたからといっても、その体はすぐに止まることは出来ない。

 目に木の棒を生やした猪はそれでも止まることなく二人を跳ね飛ばしたの

だった。


 グチッと肉と肉がぶつかる音がしたと同時に外に向かって跳ね飛ばされた、

だが明らかに回転数が多い錐揉み状態で弾かれている。

 上から落ちる力を猪が横から来る力で曲げられながら、当たられた時に受けた

衝撃をその方向に回ることで出来るだけダメージを逃がす。


 言葉にすれば簡単に出来そうだが、並列思考に思考加速、極限までに上げられた

動体視力に傷の恐ろしいほどの修復速度が無ければ、とてもやれない行動だ。

 なによりも失敗した時の恐怖に打ち勝つ、強い心と正確さを求められるだろう。


 急に視界が奪われた猪は、上から木の棒を刺される時に加わった頭へ荷重が

増したこともあり、苦痛の咆哮も途中で顎から地面に落ちた。

 頭を地面に擦り付け、そこが停止支点となり、お尻が上がって前転が始まる。


 そして他者の力でしばらく前転を行った後、俺の近くまで転がって来た猪は

まだ生きていた。


 その強い生命力に素直に関心した。


 以前の狼は止めを刺さなかった。だけど今回は例え視界を奪ってこけた時に、

数本の足が変な方向を向いていたとしても攻撃の手は緩めない。


 確実にここで息の根を止めに行く。


 何回転もして方向感覚さえも狂っている状態で、それでもまだ猪は頭を振り

ながら悲鳴を上げ続けている。


 ――やかましいな、その声が別の獲物を呼んだらどうするんだ。


 おもむろに近づいた俺は、その鳴く時に開く口へ計算されたタイミングと角度で

木の棒を刺し込んだ。

 そして刺し込んだ木の棒をそのままにして、一旦その場を離れる。

 

 もちろん狼の時もそうだが牙や歯によって腕には裂傷が奔っている。

 

 だがその傷も血が地面へ垂れる前に、巻き戻しされるかのように元に戻っていく。

 

 明らかに治療速度が普通じゃない。


 しかし、今はその事を気にかけている暇は無い。

 むしろ気にしたくない……


 傷を付けられたことで更なる痛みを感じ激しく暴れだす猪、それを無視し体を

中心として周りをゆっくり円のように移動しながら更なる隙を伺う。


 少し経って動きが緩慢になってきた所を、今度は耳を目標として木の棒を刺し

込んだ。

 俺の武器はもう手にある、この一本だけになってしまっているので猪に残して

はいかない。


 その後も耳を集中的に狙い傷口を開いていく、だが攻撃をいくら繰り返しても

猪は逝く様子が見られない。

 そうこうしている内に田中と渡辺さんも合流してきて、その後に傷が癒えた

近藤と安田も集まり、足が止まったところを五人で囲い攻撃を始めた。


 飛び散る猪の体液が俺に飛び散る、その量も時間が経つほどに増えていき今では

元々の肌の色が見える箇所が少ないほどだ。

 それでも命というものは強く、土に帰ることを拒むかのように体を震わす脈動が

途切れる雰囲気は無い。

 その熱い体液を浴び続けるほど、生命の尊さに触れているような気にさせられた。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 相手の足を止めてから長い時間攻撃は続いている。

 

 接敵した当初は木々の隙間から挿していた光も弱く赤みが帯びてきていた。

 さすがにしつこすぎる、体を横たえてぐったりしている猪に馬乗りになって、

背中付近を攻撃しながら終わりを強く思い続けている。


 そして強く思えば思うほど、不思議なことに頭の中に猪の体の仕組みが浮かんで

きていることを感じていた。


 手に入った知識、新たな力で猪の分解方法を最適化させる。

 司令室は狙わない、そこは強固に守られており今の俺たちには突破することが

難しい。

 動力部に狙いを定め、まず把握した心臓位置を目指すために道を作り、筋肉繊維

の間隙をつく、そして到達した脈動する臓器を両手でもって体から離すように

引き千切った。



事が終わって、周りに新たな脅威がないことを確認し、俺たちは交代で休みを

取れている。

 もちろん警戒は怠ってはいない。しぶとさはすごかったが終わりはあっけない

ものだった。

 あの後はまるで眠るように静かになっていって、わずかな胴体の動きも止まった。


 とりあえず獲物の後処理を投げ出し、体を投げ出して座り込んだ状態で思う

ことは、さすがに疲れただった。

 連戦続きといっていい状態で、知っているが見知らぬ土地といってもいい場所、

いくら体の状態や精神が常に最適に維持されているといっても限度がある。

 だがどちらかというと肉体的な疲れよりも精神的な疲れのほうが大きく、体が

精神に引っ張られているような感じだ。

 しかしそれも気付けば無くなっているんだろう。


 そんな少し気が緩んだ思考でふと先ほどの戦闘を振り返ってみると苦い感じが

した。


 しかも止め近くになって起こった事も気に成る。


 あの時は無我夢中だったと言えば聞こえはいいが。

 肉を切らせて骨を絶つではないが、まるで逆の骨を絶たせて肉を切るように、

俺は仲間の存在を道具のように扱っていなかったか……

 等価交換と言えない交換比率で敵を消すことだけに意識を埋めてしまって

いなかったか……


 出かけた思いと自問自答の答えは、皆に伝えた。



『そのぅ、近藤、安田さっきは無理をさせてごめん……』



 素直にまじめな顔をして謝る。完全に警戒を解くことが出来ない状況で持ち場に

いることを理由に意思で伝えた。

 実際は声に出すとかなり恥ずかしいはずだが、まじめな話なのでどちらでも問題

ない。



『ん? ……』『え? ……』



 返事は疑問文、意思のaccentからして何のことを謝られたのか分からない

らしい。



『そのほら、走る猪に特攻させるようなことをさせたじゃん……』


『ああ、あれのことか! でもあれのどこがいけなかったんだ?』



 近藤からは逆に疑問を投げかけられた。安田からも分かったような雰囲気を

感じるが、とりあえずは何も言う気は無いらしい。



『怪我をすることが分かっていてさせてしまった……』


『何を言っているんだお前は!! ――――』



 語気も荒々しくお叱りを受ける。その後に続く言葉が伝わる前に、珍しく

慌てたように安田が意思を挿んできた。



『あの時はあれが最適な行動だったんだろ?だったら、なんら問題は無いのでは

ないか。だからハチが謝る必要は無い』



 極力静かな雰囲気を織り交ぜたような意思が伝わってくる、なんだろう今までの

付き合いで呆れている訳ではなさそうだが納得がいかない。



『フンッ!』



 近藤から当たり前のことを言わせるなと、めんどくさそうな態度を示して

いるかのような意思が伝わってくる。

 腕を組んでいるような行動はしていないはずだが、心の中では組んでいるのかも

しれない。


気にしていた俺が何か馬鹿みたいだ。


 よく分からない問答で受け取れたものは、仲間が側にいるのだと感じることが

出来たことだった。

 よくよく考えてみれば、敵を倒すことに全力をかけるのは当たり前で、その為なら

どんなことでもするだろう。

今の俺の状態は確かに疲れている、疲れから気弱になっているのかもしれない。


二人の先ほどの反応で、俺は立ち止まらずに進んでいけそうだ、進むべきだと背中

を押されたような気にさせられた。


 ――今はまだ道筋が不透明でも。


 俺は湿りそうな話を終わらすために、もう一つの気になったことを話に上げてみる

ことにした。



『Thank you。そういえばさっきの戦闘終わり頃に、猪の体の仕組みのようなものが

分かったんだけど皆もそう?』


『……それは観測記録の情報だけでは無くて、もっと詳細な情報ということかな?』



 誰も返事をしようとしない、間が開いた後に渡辺さんが反応を返してくれた。

 

 そうなんだけど、なんかみんな触れたくないような感じが嫌でも伝わってくる。



『そうそう、なんかどこを叩けば効率よくダメージを与えられるかとか、どこに

主要臓器があるとか、詳しい話をするとその臓器を守っている防御を突破する

のにどれだけの力がいるとか、もろもろ分かりだしたんだけど――』


『へぇぇ……まるで生き物の全てが分かる生体図鑑みたいなものなんだろうかね……』



 渡辺さんの返事はいつも以上に当たり障りの無い意思で、この話題には触れたく

無いことがひしひしと伝わってくる。

 他の仲間からも何も言って来ないということは、そういう事なんだろう。


 あぁそうか、俺はまた人の道を大きく踏み外して進んだらしい。

 でもこの先に必要な物だろうしな、それじゃ皆も巻き込んで進まないといけないな、

本音は一人だけとかイヤじゃんね……ごめんな、皆。


 話を俺だけが垂れ流しているような状態で説明をした。

 そして皆に食事を進め、強く意識させながら摂取させてみた。


 食事を始めてから早い段階で同じように分かるようになったらしい、それから

更に情報を共有させながら内容をまとめていった。

 

 どうやら相手の血の摂取だけでも分かるらしい。

 

 最悪、皮膚で相手の組織を吸収出来れば分かる……


 犯人はナノマシンのようだ、性別など存在し無いのだが気分的に名詞を付けたい。

 彼もしくは彼女等は俺達をこの先どうしたいのだろう。


 今はまだAIのように明確な意思疎通は出来てないみたいだが、独自の進化を

し続ける体内のナノマシンは、このまま行けばいつの日か頭の中でしゃべりだす

ということも考えられる。

 それは無いよね……あっては困るのだけど……そしていつの間にか体を乗っ取られて

いるなんて事が起き出したら、すごい怖い……


 色々な不安が沸いて出てきては否定するという無意味な思考を回しながら、

残りの猪を頂きます――した。


 とりあえず狩った猪の皮は、俺が巻き付ける事になった。

 記念品のように渡された皮はボロボロで所々に穴らしきものが開いているが

裸から衣服らしきものを身に付けられたので、安心感が増した、

 そして少しだけ文明人に戻れた気がした……


 周りは猪との戦闘中にはほぼ暗くなってしまっていたが今では真っ暗になり、

森の中にも本格的な夜が来ている。

 夜ということで体内時計に従って体は休みを欲していたのだけれど、攻撃して

から時間が経ちすぎている最後の狼の回収が頭に残っていて、その後の状態や

情報の取得もあり、すぐに回収へ向かうことした。


 もともと家というものを、この惑星に持っていない俺達は夜間外出での門限も

無い気楽な状態だ。


 でも実際は、もうお家帰って寝たい。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 夜と成り、静かになった森の中を警戒したまま1列になって、音を極力出さない

ようにゆっくりと歩く。

 太陽の変わりに月の光が木々の間に差し込み、日中とはまた違った明暗を使い。

 その姿を幻想的な風景へと変えている。思わず見とれてしまいそうになる周り

の景色を意識の隅へ追いやりながら、自分の持ち場へ向けて警戒を続けた。



『Check! Twelve!』



 先頭を歩いていた田中から普段の緩さの欠片も無い意思で確認支持がとんだ。

 その合図と共に今まで光を避けて進んできた俺達は、動きを止めて更に闇と

同化するように気配を経つ。



『確認前、目標五十メートル先、五、人型!』



 じんわりと緊張感が出てきてはいるが、もしかしたら森人の詳しい情報も

手に入れることが出来るかもしれないと期待してしまう。

 そして期待のほうが大きく心を占める中で、逸る気持ちを抑えて確認するため

に視線を送った。


 そこは狼の回収地点に近い場所だった。その場所で俺達ではない者が狼の躯を

担ぎ、移動しているのが観える。


 よく見るとその者の一人が狼の頭を肩に担いでいて、残りの者達も袋のような

ものをそれぞれ肩に担いでいる。

 担いだ袋の底から水滴のようなものが丸い玉として地面へ落ちているのが観えた。


 狼は組織構成が家族で出来ており一匹の出現は少なく、また一匹を狩れば複数に

追い立てられるはずだ。

 もしかすると五人?が最後で他にも仲間がいたのかもしれないが担いでいる袋の

大きさは、どう見ても狼一匹分で、多分あれは俺達が攻撃した物じゃないだろうか。


 そんな思考を回しながら、意識的に避けていた肝心の相手を認識して疲れが

蓄積されていくのを感じた。

 その背は俺達の子供時代に近く、顔は整っているとも言えなくもないが目が

二倍は大きい。


 それは俺達にしてみれば森人の奇形種と呼んでいる物だった。


 墜ちてから二日間になると思う、実感では睡眠も休憩も碌にとる事も出来ない

ほど忙しい、時間経過の速さを肌で感じて麻痺しかけているのもあるが、まだまだ

まともに休める事は出来ないらしい。

 観測当時はこれほどだとは伝えられなかったし、記録には無い。記録にある生体系

と見比べても明らかにおかしいと言える状態だ。


 上司に騙されたのだろうか……


 それでも状況は刻一刻と動いているので行動しないわけにはいかない。

 俺達は狼を回収していた、森人の奇形の動向を観測するために気付かれないように

尾行していく。


 切実に俺はもう休みたいんだ……





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