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HDM  作者: 腹ペコリンコ
6/27

5

 最終的に群には察知されてしまったが、似たような手口でその後に狼を更に

三匹狩ることには成功させていた。


 距離に至っては、初戦を勝利に飾った場所から更に二十キロメートルほど

走破し、獲物にcontactした場所からは実に四十キロメートルもの距離を

走ってきている。


 いつの間にか鹿を狩る者から、俺達に狩られる物に変わっていた狼は、

それでも諦めきれないのか鹿を森林で追い詰めて、包囲した後は鹿が逃げ

出さないようにしながら、相手が衰弱するのを偶にちょっかいをかけながら

待っている。


 俺達は獲物を支点にした直線上の、三十メートル先にある木々にそれぞれ

等間隔ぐらいで離れて、俺を除いた四人がそれぞれTwo man cellになり

ながら、狼と鹿の様子を見ている。



『当初九匹いた仲間が五匹まで数を減らしたのにがんばるな!』



 他人に厳しい近藤は、獣にも厳しいらしい。

 まぁ俺達ならまだ鹿との人数差でいくら有利な状況でも半数が殺られて

いたら撤退を選ぶから当たり前といえば当たり前の意見なのだけど…………



『外敵がいる状況で、暢気に狩りをする、狩人としては三流だな!』

 


 ほら安田もやっぱり同じ意見だった。



『犠牲を払った分、取り戻したいんじゃないの~?』



 田中、狼に対してやけに人間くさいことを言うね…………それギャンブル

で負ける人の思考回路じゃんかそれ!



『まぁまぁ、獣だから引き返すことが出来ないんじゃないのかな、ハチは

どう思う?』



 渡辺さんが、狼をフォローしてるのだか、してないのだか分からない意見を

出し話を俺に振ってきた。

 こっちに振らずにそこで話をまとめておいてくれよと思ったが、思うだけで

面倒くさそうな意思を出すことも無く。


 俺は話を変えることにした。



『一番の厄引きは鹿だと思う、見ててちょっと可哀想。まぁどっちにしても

俺達からしてみたら獲物になるんだからいんじゃない、それにもしかしたら

餌に釣られて新たな獲物が来るかもしれないし』



 追跡距離が三十キロメートルを超えた辺りから、周りの木の様子が今までは

比較的密集していた状態から、切り株が無いのに歯抜けのようになり、日光を

しっかり取り入れるような、まるで人工的に人の手が加えられたかのように

整理され始めていた。


 この森林や林と呼べる環境は、あきらかに俺達にはある意味都合の悪いもの

になっている。



『とりあえず警戒を厳にしとこうか!』



 話を出した、言いだしっぺではないが、一応は皆に注意を促がしておいた。

 

 頭の中にある地図を拡大させて警戒する相手の住処を確認する。

 ここからはこれまで走ってきた倍以上の距離が離れているところに、宇宙人

の集落があることが分かる。


 おそらく伐採か薪、もしくは木のために森林にしたのだから、ここら辺も

Territoryに入るのだろう。



『俺達が時間をかけ過ぎたから、狼達も時間を取られ過ぎたのかな…………』



 渡辺さんが少し落ち込んだような意思で狼をフォローしている。

 この惑星の食物連鎖は、ある存在達を除いて母星の流れに近いものがある。


 狼が無理して宇宙人を襲うことはなく、このように不用意に相手の

territoryで狩りをすることはめったに無い。

 これには数が当初よりも半分ほどに減った影響で追跡と包囲が遅れて、

距離が必要以上に伸びたことも原因の一つだろうな。


 そうしてみるとそれを行った俺達にも原因があるんじゃないかと考えさせ

られて…………いや、ないと否定した。



『どちらにしても、これから持久戦になりそうだな』



 渡辺さんの優しさに引っ張られて同調しないように気分を変えたかった。

 周りを改めて見返して、先ほどから木々の隙間から降ってきている光が赤み

を帯びてきているような気がする。

 そしてその光がだんだん減ってきていることから、この惑星の夜がくることが

分かる。


 俺達は警戒のため寝れない徹夜が始まることを感じていた。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 太陽が大地に隠れてから入れ替わるように月が大地を照らし始めたのだが

さすがに薄暗い。

 主に熱探知をするThermographyでは少しばかり不安を感じた俺達は、視界

を白と黒の世界Night visionへと切り替えた。



 鹿を狼が、そして俺達という食物連鎖に動きがあったのは体感時間で日落ち

から六時間後ぐらいの、ちょうど月がその姿を夜空に現してからその姿を闇夜

に浮かんでいてもおかしくないと感じれる風景に見えて来たころだった。



『Check! Two』



 急にやってきた確認支持に驚くことはなく、木に体の側面を密着させて壁の

ような役割にしていた俺達は、その片膝を付いて中腰になった姿勢から片方の

目だけが見えるようにした状態で、端から二時方向を覗く。



『視認前、目標七十メートル先、一、人型!』



 夜空の月から光は降ってきているようだが木々の間から漏れた光だけでは

さすがに暗い、その暗闇の中をまるで見知った庭を歩くかのように危なげなく、

それでいて警戒をしていることが分かる慎重な足取りで、それは狼と鹿のほう

へ接近していった。



 森人、主に森に住み、基本的には森から衣食住を得て生きている人型宇宙人だ。

 そして森から食を得ているため雑食性にあてはまる。外見は人類に似ているが

耳は上から引っ張られているように尖ったような形をしており、その形状で俺達

よりすこし長めだ。

 顔の造りは遺伝子操作されているのではないかと疑わせるぐらい整っており、

彫は深くなっていて西洋系に近い。

 こちらも狼と同じく家族の絆が強く、なによりも魔法を使うファンタジーの

生き物だということが半年間の観測で分かっている。



 森人は獲物から三十メートルほど離れた木の陰へ身を潜めた。

 まだ俺たちと森人とは十分距離が離れているが、狼達はどうなのか目を向けると、

相変わらず鹿と持久戦をしているようで顔を向ける素刷りもなく、まだ森人の存在

に気付いていないようだった。



『さぁ、森人族のお手並み拝見といこうか!』



 近藤も期待をしているのだろう。意思に弾むようなものを感じる。

 

 確かに今までは創作の中でしか魔法というのは見たことがない。

 それを実際に見れるかもしれないと思うと、心が躍るのだろう。気持ちは分から

なくもない。

 そんな中でも俺達は静かに時を待った。


 だが戦闘は誰も予想してなかった場所から始まった。


 登場した森人の動向を、欠片も見逃さないように観測していると突然何かの

泣き声が響いた。

 思わずその声の元へ顔ごと視線を向けてみると、一匹の狼の体が震えていたのだ。



『な、なんだ! なにが起こっている?』



 普段冷静な安田もさすがに慌てた感じの意思が伝えてきた。


 だが俺を含め他の三人もその問いに返せないほど慌てていた。

 ほぼ暗闇といっていい視界の中で狼の泣き声は相変わらずしているが、その声も

だんだん小さくなっていく。


 そして崩れるように体を地面に投げ出したかと思うと、それと同時にその声

はしなくなった。


 俺達はそれをただ見えていることしか出来なかった。


 その分けの分からない現状に、倒れた狼から目が離せなくなって凝視して

いる時に、その体に俺は微かな違和感を感じた。

 その体から体液が棒のようなもの形で飛び出していたのだ。

すぐさま温度が分かるThermographyに切り替えて見れば、それは温度を持って

いることが分かる。

だがその温度は時間と共に下がっていったのだった。


 もう一度Night Visionに変えて同じ箇所を見直した時にその謎は分かった。



『矢だ! 弓矢が刺さっている!!』



 それは黒い矢で暗闇に同化するように、そこに存在していたが所々、色が

剥がれて茶色い木の素材面が見えるようになっていた。

 おそらく矢自体の色塗りがあまり良くなかったか、体内に刺さった状態で狼が

倒れるときに下敷きにしたため矢が体内を通り磨かれたため地の色が出てきて

しまったのだろう。



『黒塗りの矢か! なるほど、だけどあの森人が行動を起こしたようには

見えなかったよ』



 確かに渡辺が言ってることはもっともだ。


 俺達が注目している中であいつが弓を使った形跡は無かった…………だとすれば……



『魔法かい~でもこんな魔法は資料にもなかったけど…………切り札的なもの

なのかな~?』



 未知の力は創造をいつも越えてくる。


 田中が言ってることもあながちはずれではないかもしれない。

こうして思案し、俺達の時間が止まっている状態でも獲物の時間は止まることは

なかった。

 1匹目が倒れ落ちた時こそ、唖然としたような思考停止からくる体の硬直が

あったみたいだが、今は周りを警戒している。

 そして俺達よりも近い位置で仲間が殺られたことで先に何か掴んだのかもしれ

ない、せわしなくその立ち位置を変えだした。


その早い復帰と行動を見ていて、狼の生き抜こうとする意思を感じ取り、俺は

素直に関心した。


 二匹目の泣き声は鹿から聞こえてきた。

 その時には俺達はもう普段の冷静さを取り戻していたし、森人の攻撃方法を

大体把握していたのもあり、初めよりは慌てることもなかった。



『Check! Eight Nine ten!!!』



 鹿の泣き声がした時にみた鹿の動き、まるで脇腹を強く突かれた痛みから

その反対方向へ体が逃げる感じから、矢が飛んできた大体の方向へ確認支持を

とばす。



『確認不可だ! いない、もしくは確認有効距離にいない!!』



 苛立った近藤の意思が伝わってくる。他の仲間からも連絡が無いということ

は同じ確認結果なのだろう。

 Fuck最大百メートルはある視野で確認不可、しかも弓矢で攻撃とかいよいよ

ファンタジーかかってきたな。


 それでも苛立ちを押し殺しながら初めに確認が取れた森人を凝視していたら、

ある仮説が浮かんできた。



『姿が確認出来ないということは長距離狙撃だろう、だとすればあっちにいる

森人は観測手の役目をしてるのかもな。もしくは俺達の考えすぎで第四者から

の攻撃だったりするのもありだな』



 攻撃者の姿が分からないのなら、森人の攻撃だとも確定できない。


 あきらかに情報が足りなさ過ぎる。

 その後も何者かの攻撃は続き、初めは二頭しかいなかった鹿がまず全滅した。

狼はその小回りが利きそうな体格と初めから数が多かったのでまだ二匹残って

いるが、この弓使いはプロでしかも異常だ。


 矢は百発百中の勢いで当たり、はずしたものがなさそうだ。


 しかもその弾道は真っ直ぐだ、普通ならありえない。

 生き残っているのは、射られてないから生き残っているだけでそれも時間の

問題だと思われた。



『射られてる矢の先の方が何かおかしくないかな、なんかこうmosaicが

懸かったようになってない? 、すぐ消えちゃうんだけどさ』



 渡辺さんから何か手掛かりになりそうな情報が出てきた。


 俺はすぐさま記憶している映像を見返し、確かにおかしな点を確認出来た。

 矢の前のほうにmosaicが懸かっているような感じがする。どちらかと言えば

空間が歪曲しているような…………



『ま、まさか、矢の前の大気を操作してるか…………』


 人の後ろを走るような、車の後ろを走るような感じで矢を飛ばしてると

なると非常に厄介だ。

 なにより弓使いの技量がとても高いことを感じさせる。


 どちらにしても、今の俺達に対処のしようがない。


 そうこうしているうちに残りの狼達も七面鳥のように打ち落とされ、周りは

静寂に包まれていた。


 見えない敵と防ぎようがない攻撃方法にジワジワと心が締め付けられ、

恐怖が足元から上ってくる。

 手の先が震え出す前にナノマシンが仕事をし、冷静になった俺はすぐに支持を

出した。



『速やかに鹿に接敵した場所に、狩ったものを回収しながら……撤退する!!』



 初めの一人だけの森人を相手取るなら俺達でも問題ないだろう。


 だがもし彼らがTwo man cellとかなら、今度は俺達の存在が明るみに出る

ことになる。

 しかも狙撃手が森人だった場合は、森人族に…………狩る者から狩られる物に

なる愚はおかせない。


 確認がとれてる森人を捕まえて尋問したい気持ちはあるが出来ない。

 

 今はまだ明らかに情報が足りてない。


 俺の悔しい気持ちが意思に乗ったのか仲間は異論を挟んでこなかった。

 もしくは同じ考えなのかもしれないが、どちらにしても今回は引こう。今は

まだ接触することも危うい。


 今はまだだ。


 俺達は気配を極力消しながら低姿勢でゆっくりと走ってきた森林を歩くよう

に戻り出したのだった。





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