表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
HDM  作者: 腹ペコリンコ
5/27

4

 十一時方向の目標に対して身構えた時に、八時方向に新たな脅威になりそうな

存在が現れようとしていた。


 忘れていたよ、何事も上手くいかないことがusuallyなのだと…………

 これからは問題があることが普通だと心に留めておこう。



『視認前、目標三十メートル先、五以上、狼っぽい、外皮色黒』



 腰を落とした姿勢のまま、出来るだけ狼と鹿が視界に納まるように体の向き

を変え、二箇所の動向を伺いながら、どちらに対しても警戒を緩めない。

 狼は鹿の親子のようにペアでは無く、どうやら群れで狩りに来ているようだ。


 そしてよく見ると、狼はそれぞれが俺達と同じように全周を警戒している。

 だが鹿を見る回数が明らかに多く、やつらが獲物として何を狙っているのか

すぐに知ることができた。



『鹿狙いか…………良かったのやら悪かったのやら…………』



 初戦闘で自分達より数が多い物を相手取る必要が無くなったことに気が緩み

そうになる。


 狼は鹿との距離が二十メートルぐらいになると、今まで周りにも向けていた

意識を獲物に対してのみにまとめた。

 俺達が今しているように姿勢を更に落とし、そこで行動を止めたんだ。



『あいつらの鳴き声、誰か聞いたか?』『…………』



 確かに泣き声というか吠えた声を聞いていない。



『頭の眉間に角みたいなの生えてるし、実は言葉でしゃべってるのかもよ―』



『かもしれないな、それがこの惑星のusuallyなのかもしれん……

ところで角が付いていようが無かろうが俺達の知ってる狼が、あの狼にも

当てはまるのなら、これからちょっとしたマラソンが始まるかもしれないね』



 狼は相変わらず伏せをしているかのような姿勢のままで静かに何かを

待っている。


 その姿が狩りの前の神聖な儀式を行っているかのように見えて、実際に見て

いてその姿が素直にカッコイイと感じた。


 俺達はその静謐な空間を横目にしながら、体に大地の匂いをつけるために

静かに動きも最小にしながら、体全体に土や腐葉土を塗りこんでいた。


 このじわじわとくる緊張感に包まれた中で状況を動かしたのは鹿のほう

だった。

 野生の感がはたらいたのか食んでいた草を食べるのをやめて、しきりに

耳を動かし頭をめぐらせ、周囲を確認しだした。


 それを合図にしていたように狼の一頭が低姿勢から元の姿勢に伸び上がる

ように跳躍しそのまま走り出し、それに続くように残りの狼も走り出した。


 鹿は急な狼に驚いてその場に留まるようなことはせず、本能に従って逃げる

ために反対方向へ走り出した。



『go Move!』



 俺達もその後をそれぞれが三十センチぐらい先が尖った木の棒をもって、狼の

後を追いかけるように走り出した。


 狼が群れだって走ると、土が舞い上がり、落ち葉が舞い散らかされ、草葉が

はね飛ぶ、すぐそばで見れているわけではないのに、微かに開いているであろう

口から、荒い息づかいをしていることさえ想像させる迫力、その音が耳元に

聞こえてきそうなその臨場感が、自然に心へと熱い何かを伝えてくる。



『四足歩行、はええ!』



 思わず強い意志で狼を、そしてそれから逃げる鹿を賞賛してしまっていた。


 俺達は姿勢を出来るだけ低くし前傾姿勢になりながら、空気抵抗を少なく

するために手の角度さえ気をつけながら、一列になって、必死に追いかけた。


 いくら遺伝子操作されていても、人類のBestな体を手に入れても、体内の

ナノマシンが酸素供給の補助や血液操作やら傷の治癒をおこない続けていたり

とかしていても、疲れにくくなっているとかでも、体に塗りこんだ土を体に

いつまでも纏わり憑かせてくれていたりしても、あげるときりがない補助を

ナノマシンから受けているとしても、人のカテゴリを遺脱して……は……

いない状態なんだ!

 人としては野生と競争にならないんだ。


 まぁ……再構成されてから様子がちょっとおかしい所は多々あるんだけど……

そこは見てはならない。

 おそらく見てしまったら人類だと胸を張って言えなくなるかもしれない

から……


まだ見失っていないのは、狼が獲物を追いかけている過程で、森にある

木などを使って、無理やり直角に曲がったりしないために、俺達が予測と

方向性を推測しやすいためだと思い込みたい。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 きっかけは鹿の逃げ出しから始まったこの追跡は、走りにくい森の中を駆け

続けて、すでに走破距離が二十キロメートルに及んでいる。


 狼の群れの中では遅れる個体が出だしたが、まだ群の近く。

 狼達がどんなコミュニケーション能力をもっているのかはっきりと分から

ないし、確実に仕留めるために大きな隙ができるまで、手を出さない。


 しかし、駆け続けている間に森の木々の様子が変わってきていることを

思うと、今のマラソンのような感じはあまりよろしくない。



『そろそろいくかね、three man cellで足止め、アシスト、止めに役割を

分けて狩ろうか』



 状況を故意に動かすため、ここら辺で動くことに決めた。

 

 そして俺達は命を狩る者としての決意を、新たに締め直したのだった。


 目線を合わせられない一列状態でリンクを使い意思を伝え合い、狼の群れの

最後尾、疲労と群れの向きが最後に伝わる一匹に、心を静めながらせまる。


 これまでの追跡同様に狼が走って慣らされた道は使わず、後ろからではなく、

出来るだけ死角になる位置取りを保持し続け、riskを出来るだけ避ける。


 群れ全体がこれからも獲物を追いかけていく上で、走るであろうルートの

最も確率が高いコースを思考リストから選び、その予想コース線上で交じり

合えるように、獲物から目を離さない状態を維持しながら先回りをした。


 森の木々を交わしながら、右方向へ向かうルートになっていて、そのカーブに

入ってから狼が遠心力でさらに右へ逃げることが出来ないタイミングを

見計らって、左後ろから一人目が森の木を使った死角から襲い掛かる。


 いくら死角をついたとしても野生の動物である狼はある程度近づいた俺達に

気付き、こちらの存在を確認するために頭をめぐらせ、その顔をまるで驚愕

しているかのように歪めた。

 だがそれは僅かな時間で、すぐに口を開けようとした。



『やっぱり吠えるんかい!』


 近藤の狼に対する突っ込みが入る。


 だが近藤は冷静に、俺達にとって僅かなチャンスを不意にする事無く、森を

探せばどこにか落ちている尖った三十センチぐらいの木の棒で、開いた口に

今度は物理的に突っ込んだ。


 傷付けられたことがないであろう喉奥に走る痛みに、狼はバランスを崩し

かけたが、それでも持ち直した。

 だが攻撃はそれだけでは無く、その後に流れるように近藤の後ろを陰のように

追従していた安田が飛び出し、その手に持っている木の棒を狼の目につっこんだ。


 口と目に傷を負い、倒れこもうとしている狼だが攻撃の手を緩めることは

無いし、そのまま倒れさせることも無い。


 ダメ押しの三人目渡辺さんが同じく陰から飛び出し、倒れこもうとしている

狼に迫る。


 普段は垂れ下がっている尻尾が、痛みと緊張で伸びきってしまったことで見えて

しまっている出口、その出口へ後ろから刺して無理やり入り口にした。


 そのまま安田と渡辺さんは刺さった棒を使い、狼の体を擬似的にコントロール

して、右カーブを故意にコースアウトさせていった。

 そのまま目標の木に向かい、目に刺さった木の棒が奥まで入るように、森の木を

使って垂直に当たるよう誘導した。


 木にぶつかり木の棒が砕けながら深く刺さったことを、Thermographyでも

確認した後は、トドメを刺さすことはせず、すぐに次の獲物に向かう。



『『『『『一匹目!!』』』』』



 この惑星の初戦闘、装備がまったく無いといっていい状況、狩るまでに

かかった時間に対するストレス、他にも色んなものが交じり合い。


 その鬱憤が皆が重なって倒した数を強く思うという行為に繫がらせた。


 手負いの獣は恐ろしいとは言うけれどここまで殺った上で、蘇ってくるの

なら後々数が多いことのほうが脅威になる。


 この惑星の狼の群れも、家族構成で出来ており、その絆は人よりもとても

強く、手を出すなら最低でも頭は消しておかないといけない。


 例え蘇ろうとも最低でも頭を潰す。


 最後まで戦闘に係わっていた安田と渡辺さんを最後尾に吸収しながら、

蛇のように流れるように一列に戻り、次の獲物に向かって走る速度を上げて

いった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ