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HDM  作者: 腹ペコリンコ
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 これから降りる惑星の資料閲覧中に俺は魔法使いと出会ってしまった。


 これまでの惑星では、中世時代の剣や斧や槍、もしくは弓などの物理攻撃

を主流としている宇宙人には出会ってきた。

 だけど今観ている映像の中の炎を操っている男性のような攻撃方法は出会

った事がない。


 とても好奇心が引かれる存在だ。


 そしてこれほど興味を引き立てる存在ならば上のほうが何もしないままで

ほおっておくわけがまず無い。


 俺は今だ動画の横で一定の速さでスクロールしていた資料の複製をして、

そのもう一つの資料では支持項目部分を確認することにした。



『優先項目の上位にきているのは拉致じゃなく技術自体の取得のほうか……』


『そうみたいだね~、サンプルを採っての人体実験は支持されてないみたい~』


『強制はされてないか…………だけど取得が難しい、もしくは何かしら

取得しにくい状況が起こったなら拉致しないといけないんだろうな……』



 とても冷たいような会話をしているが、はっきりと連れて帰って来いと

書いてないだけで、実際は結果が伴えなければやらないといけなくなる。

 例え拉致をしたとしても上司は、そうかで終わるだろう。だからこの支持書の

上位に書いてあることは、まだ優しい対応を仄めかす偽善的な命令書だと感じた。


基本俺達が考える人権は、俺達の惑星アースの人類だけに適応されているだけ

であり、他惑星の人型には適応しえない。

 外見がいくら似ていようが、言葉が通じようが、共感できて感情移入できて、

喜びや悲しみを分かち合えようとも宇宙人だ。

 

 もちろん俺達の遺伝子と交わったものにもそう対処される。


それは一方通行ではなくて相手側の立場に立った場合にも言えることであり、

相手から見ても我々は宇宙人になる。

 だが結局どう言おうとも用は殺るから殺られても文句はないんですという

自分本位な押し付けに過ぎない。


 俺ならまず殺るなよと言うだろう。


 少し気落ちしながら、考えては理解出来き、だが納得しにくい感情が何度も

表に出てこようとする。

 だがナノマシンの感情制御によって、常に平常心に保たれようとしているので、

上下する感情で心をかき回して乱されることはあっても、結局は最終的には

落ち着き、体は理性でコントロールできるようになる。


こういったことは俺たちの体にナノマシンが漂っている限り、無くなること

はない。


 その後もリニアによる移動の中で、止め処ない会話を続けながら移動を重ね、

メンバー五人のリンクが繋がり終わった時に惑星揚陸艦に到着した。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 母船の外縁部にある港で見上げる惑星揚陸艦は、大きさは全長二百五十

メートル全幅は四十メートルほどで、形状は停泊中楕円形に近い形をしている。


 似たような形状には潜望鏡は付いていないが海を航行する潜水艦に近い形状を

思い浮かべることができる。


 もしくは簡単にいうとロケットとかが近いだろう。

 弾丸のようなロケット形状の艦内へ、中央に開いた人員専用の搬入口から俺達は

五人仲良く連れ立って、その更に奥にある内部の司令室へ足を進めていった。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 その日もいつもと変わらなかった。


 だが外気圏を抜けて熱圏、中間圏、成層圏、対流圏を一括りにする大気圏内

の熱圏の半分ぐらいを通過した時からそれは唐突に始まった。


 普段はコントロール化におかれ、そんなに揺れることのない船体が不規則な

振動を起こし始めたことが前兆だった。


 何度も突入したり、再突入を繰り返してきた経験が、瞬時にいつもと何かが

違うと反応する。


 体の向きを操縦席の様々な位置に配置されてる操縦装置に動かすことなく、

目の前に継ぎ目無く視界を半球状に覆っているcontrol panelに向ける。


 現代の宇宙船のcontrol panelにはtouch panel方式のdisplayなど、

当の昔に廃れたものとなっている。

 今はナノマシンを解して目の視神経に直接作用した人も機械の一部分の

ような扱いとして、視界に恰もcockpitがあるかのようになっている


 その画面が波打ち、音と視覚の両方で異常が発生したことを伝えてきて

いる。



『船体表面圧力が基準負荷ライン超え、なおも増大中………………船体表面

形状の変形の許可をお願いします』『許可する』

『船体外縁部から、変形を開始します』



 すぐさまAIから補助が入り、今やったほうが良いことが伝えられる。


 俺はその返答をして、早速船体のようすを確認するために情報を引き

出した。

 

俺の目の視神経に直接作用したナノマシンの情報が、船体の状態を

スクロールし、情報を伝えてくる。

 また操縦席は過大なGによる脳への血流を滞らせないために、三百六十度

の球状操縦席の位置を細かく調整し始め、体内ではナノマシンがグレイ

アウトを防ごうと血流にboostをかけている。


 船体の振動が大きくなりつつ、船体は突入角度を制御し続けながら速度

はマッハ二十以上で、まるで水面を滑るように目的の惑星へ沈んでいって

いる。


 秒速八キロメートル以上の速度の中で、熱圏範囲距離の半分四百キロ

メートルを、通常五十秒ぐらいで通り過ぎる所を十倍の五百秒に押し上げる

ため、船体に使われている流動金属がAir brakeをかけるように変形し

始める。


 視界が暗くなり色調を失い、それと同時に視野の狭窄が起こり始めた。

 機械が制御してくれている生体調整が、明らかに間に合ってなくて、

この後の流れが嫌でも分かる。



『まずい、ブラックアウトがくる…………フォローを!』

『――――――――――――――――――――――――――――』



 AIの返事は聞こえなかったが、その代わりに胸部に物理的に軽い衝撃と

痺れを感じた。

 もっと優しい起こし方を所望したいところだが今はそれどころでは無い。



『くそっ…………意識まで落ちたのか…………』



 下半身に違和感を感じ、目線を下に向けると、水より粘度のありそうな

ジェルが腰の辺りまで覆い、下半身を圧迫していた。

 

 下半身に圧力を加え血流を上げている……



「ここまでしないといけない状態かよ…………」



 これまでに無い。あまりの状況の悪さに、つい愚痴が口からこぼれ

出てしまう。



『安田様から提唱あり、船体前部の破棄爆破を進言されています……

現在五人中三人の許可は頂いて……』『許可する』



 AIに被せるように言葉を発したと同時にジェルが俺の体全体を覆う。

まじめな安田が自爆提案したくらいだ、間違いは無いのだろう。


 自殺じゃないよな……


 衝撃は無かったが、代わりにまた胸部に軽い衝撃と痺れを感じる。

 船体の状態を確認すれば、1/5がlostしており、すぐさま船は失った

部分に別の部分から金属を盛り付けている。


 船首から船尾へ抜けるような衝撃も次第に強い振動に変わっていき、

今度はその衝撃をも逃がすための流動金属が変化を起こし、それに伴って

可能な限り減速をさせようと変形していく。


 船体は今や、我々が乗っている操縦席を含めた司令室を中心とした極一部分

を最優先保護部分にし、形状が押しピンのような形をとり、惑星へ差し込んで

いるような形だ。


 おそらく緊急アラームも鳴っているのだろうが、俺を覆うドラム缶のような

ジェルが振動を吸収し、生体調整の外部要因にもなっているために警光灯の

レッドランプの点滅がうっとおしいとしか感じない。


 意識は断続的に飛び、衝撃を逃しきれない場合は気絶を繰り返しているの

だろう。


 胸が痛い。


 すでに艦の速度自体は四百キロメートルを下回り、突入速度どころではなく

なっている。


 それでも意識が残っている短い時間に、この状況を打開し、生きる為に、目を

血ばらせながらも思考の加速はやめなかった。 

 船体の状態を初期のころから追っていき、現状に至るまでの過程の中で、

色々な仮説を上げていき答えを見つけようとする。


 だが結局は仮説しか上げられなかった。


 どうやら我々が乗っている船は惑星へ突入時に大気中の、何かにぶつかって

いるのかもしれない。


 まず船体に対する圧力が段々と全体へかかってきている、

 そして船体はここまで減速している間に良くなることが無かった。更には良く

なるどころか酷くなっていて、まるで深海へ潜っていっているようだ。



「まさか、魔法みたいなものがあるのだから、神様のご意思なんて不可思議な

力が作用してるわけじゃなかろうな…………」



 少しでも気分を上げたくて口からjokeを飛ばしてみる。


 実際は口の中にもジェルが入っているため、周りにはモゴモゴとしか伝わら

ないと思うけど……


 通常でも摩擦によるある程度の衝撃はあるが、この突入の状況はあまりに

酷すぎる。


 やはり衛星間から確認出来ていた、あの訳の分からない、まるでファンタジー

のような魔法使いがいる惑星なので、普通ではあり得ない事が起こるのだろうか。


 すでに脱出可能高度を過ぎ、重力に引っ張られながら、壁のような大気に

阻まれながら、艦をそれでも星へ突入する為にドリルの様に回転させだし、

まるで地中に潜るような中で、さすがにこれからの船体運動は体が持ちそう

にないので意識が墜ちてしまう前にAIに支持を飛ばす。



『この先の規定外行動許可は我々の人命優先で省略し、即断行動に移せ!』

『了解しました』



 俺はその後の船体の動きに付いて行けず、すでにそれまで断続的な意識の

浮き沈みをしていた状態からナノマシンの生命維持判定により、強制的に

仮死状態へと移されたのだった。


 下手をするとこの世の終わりかもしれない瞬間に朧げながら思ったことは、

この先に宇宙へ上るのは難しくなるかもしれないと他人事のように考えた

ことと俺が何故、この船の緊急操縦でleaderのようなことをしなければ

いけないんだと仲間を少し恨んだことだった。



◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇



 大気を切り裂きながら、揚陸艦だったものが地上を目指し突き進む。

 熱圏を過ぎ、中間層で本格的な壁にぶつかった船体は、自らの形状を

変えられるところは出来るだけ変えながら、土を掘り返すように大気の壁に

穴を開け続けていた。

 船体は針のようになり、守るべき所は厚みを増やし、その他の部分は突入の

用途に使う。


 大気は大地のようで、掘り返す土は固く、船体はドリルの刃のように欠けて

は修復を繰り返しており、成層圏に船体を到達させた時には、以前の五分の三

しか質量が残っていなかった。

 しかし主たる人類に命を託されたAIをみてみれば、特に慌てた様子は

なかった。



「船体損耗率四十パーセント、中間圏の三十キロで使用された質量は二十

パーセント、この状態で成層圏の予想距離四十キロメートルを突破したときに

三十パーセント消費されたとしても、十パーセントは余力を残せる、主を

守れる!」



 その船体の動きは成層圏に場所を移っても変わることはなかった。


 成層圏を抜けて対流圏に入り、さらに高度を増した大気の壁をえぐり

つづける。



「船体損耗率七十五パーセント、機関部の自爆発を船体前部で決行、全ての

機械を再利用化に使用し船体の修復へ、船体の五パーセントを修復完了、船体を

構成している全ての流動金属は推進稼動へ移行」



 細い針を回転させながら、その後ろに花びらのようなものを付け、それを回転

させながら、地上へ落ちる。


 惑星の海上に出た揚陸艦は陸方面に、斜めに進路をとりながら、船体だった

ものを削り落としながら、船体の質量を少しずつ減らしながら、大陸の最西部

の沿岸部を過ぎ、その先にある森に溶け込むように姿を消した。

 

また探索艦隊自体は、AIの最終報告を受け取り、この惑星の衛星軌道上

から、落ちた五人の安否を確認するために、この宙域にしばらく留まり様子を

見る決定をした。





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