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惑星調査を行うための先遣隊として人類が初めて惑星の地上に降り立とうと
していた。
月明かりさえ入らない真っ黒にした部屋の中にいるような意識の中に、女性
のシルエットがいつの間にか浮かび上がる。
彼女自身が発光していないにも係わらず、その姿は暗闇の中ではっきりと俺に
視認させた。
まるで彼女の周りの背景だけを、黒に塗りつぶしたようにも見えなくも
なかった。
『奥村 ハチ様……お休みのところ申し訳ありません。現時刻は三六一一、〇三、
一四、二一、二二になります。三六一〇、〇九、〇二に発見した知的生命体の
住む惑星の調査命令が受理されたため、連絡に参りました。詳しい内容に関して
は、起床後にナノマシン内に収納されている指示書を確認後、従って下さい』
今までナノマシンの生命維持による休眠状態に措かれていた俺の意識は、
彼女の登場と同時にSleep stateからStandby stateへ自動的に移行して
いる。
寝起きの寝惚けた状態ではなく、意識がはっきりとした仕事中に、上司に
応対するように返答した。
『奥村了解、起床後に確認後、行動に移ります』
目の前で相対している彼女はAIだが、その持ち主は直上の上司だ。
女性だからといっても舐めた態度はしないし、もともとすることはない。
それは相手がAIだからといっても同じことだ。
普通は今回の惑星探査もそうだが、行動に移る時はチームを組むように
なっていて最小は三人、多くて五人のチーム編成を行う。
惑星探査の基本人数は五人で、今回もいつも通りなら、気の知れたいつもの
五人になり、俺を除いた四人の元にも今頃は中身は彼女だが、外見が違うAIが
お邪魔していることだろう。
新しい仕事の始まりに気を引き締めた。
そして気持ちの切り替えが出来た後に、再度彼女を伺う。
容姿は黒髪の黒目で髪は長め、身長は俺より二十センチぐらい低い、百四十五
センチぐらいで、年齢も俺に近い十六歳ぐらいだ。俺の平たい顔とは違い、彫り
が深くなっており、体型の起伏は上は大き過ぎず、小さ過ぎずのちょうどいい
バランスのとてもいい感じだ。
下のほうは後ろに回って確認する動きを見せようものなら、上司に対して
からかわれる口実を与えるだけなので、やらない……
自分の好みにあう女性からのmorning Call、とてもこの後の仕事に
やる気がでる心配りですと、褒めちぎっておく。
この意識化の中では、強く思ったことを伝えてしまうので、ナノマシンの
リンクを繋げればお前自身これるのだから、お前がこいよとか、自分好みの
女性をわざわざ向かわせることが、この後の仕事で母艦を離れる俺に対して
後ろ髪を引かれるほどのことで、jokeにならないので死んでくださいとか
思わない……やられた誰もがきっと……思わないはずだ。
俺の仕事への意識の切り替えを感じたのか、応対を受け取った彼女はその
場を暗闇に掻き消えるように去っていった。
そして彼女がその場を去ってからすぐに俺は再起動し、現実の世界へ
戻ったのだった。
◇◇◆◆◇◇◇◇◇◇◆◆◇◇
ナノマシンに生命維持をしてもらい、意図的に休眠状態にされた後にくる
違和感を体に感じながら、船内のリニアに乗り込む。
熟睡した時の時間が掛け落ちて、寝たのか寝てなかったのか分からない
感覚とは違い、まどろんでいる状態が続くような感覚での休眠状態は、
起きた後の体に倦怠感を感じてしまう。
急に年齢だけが増え、疲れが取れにくい、中年体になったのでないかと
勘ぐってしまうが、それはnaturalに作動したナノマシンの効果によって
体から徐々に消えていったのだった。
俺がいるのは艦隊の母船であり、基本的には乗員の住居はここにあり、
昔のカプセルホテルのような蜂の巣状の寝床が用意されている……
また基本的には人間は動かず、意識化での応対でAIに支持を行い、AIが
機械を動かして船団は運営されている。
食事に関しても、ナノマシンにより今はもう、経口摂取にこだわる必要が
無くなっており、昔のように人間らしい生活をする環境の必要がなくなって
きているのだと教えられた。
人が出向くような場所はリンク切れしそうな場所や、惑星調査ぐらいで
あり、今回も人間が五人向かうことになるが、AIは最低五人はついてくるし、
そのAIが扱う機械類は百を超える。
そんな止め処も無いことを思っていると、チームメンバーの一人から連絡が
あった。
『よう、今回もよろしく~』
『おう、よろしくな~』
この言葉から軽そうな感じが伺えるのが田中という。
こいつとの付き合いは長いが、付き合った日数はそんなに多くない。
だがナノマシンによるリンクで交わした会話は付き合いの長さに比例して
いて、現実世界の時間より長く、会話したらした分だけ相手のことが
分かってきて、今ではもう気心がしれた仲といってもいい状態だ。
残りのメンバー3人にしても同じようなもので、年齢も近く、性別も
統一されていることもあって、近づき過ぎたのか家族の兄弟のような
信頼感を持っている。
『資料見たか?今回の調査惑星は俺達と似たような外見の宇宙人の割合が
多いぞ~』
『うんや、みてない……資料があることを確認しただけ』
『何やってんのお前!?はよ目を通せよ~』
などとたわいもない会話をしながら、ナノマシンを擬似脳に見立てから
の、並列処理をAIから受け取った資料の確認に充てた。
この惑星を見つけるまでに、他の惑星でも同じように何度も繰り返して
きた惑星調査は、すでに全体で3桁を軽く突破しており、惑星に降り立って
からの調査内容は全て本国へ、座標と共に送られている。
流れとしては発見時から今までの半年間は機械が衛星軌道上から惑星全体
を調査し、ある程度の情報が溜まったら実際に降りてみるといった形を
取っている。
だから必要な事は既にまとめられていた。
今回降りる惑星は俺達の母星アースを基準としてみた、アース型惑星と
似ていて、そこに住む知的生命体の外見も俺達人類と似ているものもいる。
過去に発見したアース型惑星の中でも外見上、違和感なく接触でき、家畜
に出来そうな生き物の可能性が高いと記載されていた。
惑星上の全ての風習や文化、または国らしきものを見つけては記録をとり、
果てには地形や地図を撮り、更には生殖方法さえも確認され、追いかけていく
動きはある意味、全時代的な言い方をすれば過度なストーカー行為であり、
相手を丸裸にする行動ともいえる。
資料を下から上へスクロールさせ、速読しながら読んでいく中で、昔のゲーム
に出てくる説明書のような文面と画像に目が留まった。
『なんだこれ……手元から火が出るとか、Real magicかよ!?』
『あぁ……見ちゃったかそこ、きたよファンタジーって感じ~』
詳細な資料にて動画を確認すれば、そこにはWitchが魔法使いらしい魔法を
使っていたんだ。