異世界転移トラック召喚
異世界を映し出す魔法の鏡。
映っているのは勇者の脂質にあふれた少年。
・・・ぶひ?
は、ともかく、じゃなくて、うん、非常に物語的に(多分)正当な外見ですね。
まぁそれはともかくとして、召喚しようと宮廷魔術師たちが頑張っているのですよ。
運命線を、こう、ぐぐっと捻じ曲げて。
そして訪れるその時。
居眠り運転のトラックが暴走し、少年が危ないと気付き、幼女が横断歩道を渡っているのに気付き、ガクガクと足が震えながらも気力を振り絞って飛び出し、幼女を突き飛ばして身代わりとなる。
うん、がんばりましたよ、とっても頑張りましたよ。
宮廷魔術師たちが。
勇者はまだ未覚醒だから、思考速度も早くないし、身体能力は外見のごとし。
普通間に合うはずがない。
だから必死こいて、宮廷魔術師たちが魔法の力で無理やりなんとかしたのですよ。
あと、神官たちも。
普通にトラックが暴走していたら、飛び出せるはずがないじゃないですか。
そんなこと考える時間すらありませんよ。
事故ってのは、起こってから初めて記憶が遡り、それと認識するものですから。
だから必死になって精神高揚とか思考速度加速とかの魔法をかけまくったわけですよ。
でも一番たくさんかけたのは、勇気と覚悟と見て見ぬふりをしない義侠心を奮起させる魔法。
ついで、どさくさ紛れに幼女に抱きつかないよう、倫理喚起の魔法だったり。
そうして、今まさに少年が轢かれる瞬間、魔法陣が輝き、異世界召喚はなされたのです。
唯一の誤算は、少年に支援の魔法をかけすぎたことでしょうか。
異世界召喚の魔法の方の維持とかなんとかの方の人出が足りなくなって、ちょっと位置がずれてしまったのです。
そう、あれだけ頑張ったにもかかわらず、勇者たる少年は召喚されませんでした。
代わりに運動エネルギーを保持したままのトラックが魔法陣から飛び出して…。
この時の惨事を経験として、後に異世界召喚の魔法は大改良を遂げることとなりました。
具体的に言えば、トラックが止まっていても召喚できるように。
よく考えれば、異世界の勇者に魔法をかけるなら、石に躓かせて停車中のトラックに頭ぶつけさせるほうが早いですよね。安全ですよね。
なにより幼女を危険に晒しませんし、トラック運転手なんか殺人犯にならなくて済むのですから。
ついでに言えば、運転手を眠らせる魔法も、人形化の魔法でトラックを遠隔操作する必要もなくなるので、宮廷魔術師たちの負担は大きく減ることになりました。
さらに嬉しい余剰効果として、使わなくて済んだ魔法力を別のことに使えるのでした。
具体的には、召喚した勇者を洗脳したり『教育』したり『更生』させたり。
なお、暴走召喚されたトラックは、王様の後ろ回し蹴りで一撃粉砕されました。
…勇者喚ばずに魔王倒しに行けよとか、もう王様が勇者でいいんじゃないかなんて、忠誠心あふれる兵士たちは誰も思いませんでした。
だからこれは、きっとハッピーエンドなのです。
(おしまい)