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魔法使いのいる街  作者: 水瀬 瑞希
第二章 DAY AFTER
37/51

第三十七話 玲菜との関係

 ずっと考えていた。俺と玲菜ってどんな関係なんだろう。

 玲菜から絶対に好きにはならないと言われているから、恋人とかそう言う関係ではない。でも、友だちとかとも違う気がする。

 むしろ、嫌われているとか……?

 そんな疑問を抱きながら、俺はベッドの上で玲菜と並んで寝転んでいた。

 衣類が少し乱れ、玲菜の息はどことなく切なさを含んでいる。


「……き、きついの……っ、はぁ、はぁぁっんっ」


 頬を真っ赤に染め、艶めかしい息を吐く。

 その声はまるで快楽を堪えているかのように聞こえる。

 だが、今の俺にはそんな様子をじっくり観察している余裕はない。

 耐えられず俺も声を漏らす。


「れ、玲菜……お、俺もう……はぁ、はぁぁっ」

「春馬……っ、私も……そ、そろそろ……ああぁ、はぁぁぁっ」


 玲菜は額や首筋をじっとりと汗で濡らし、息も呼吸はかなり荒くなっている。

 今にも爆発してしまいそうだ。俺と玲菜はきつく両手を合わせた。

 不躾に襲ってくる激しい波に、体はビクンと震える。

 全身を電気のようなものが走り、頭の中が真っ白になった。

 そして、玲菜の大きな声が部屋中に響く。


「あああ、だ、ダメ……い、イっ――――っ」


 玲菜は体を一度大きく跳ねさせると、力なく息をついた。

 ようやく終わったところで、玲菜が俺をジトッとした目で睨む。


「なんで、こんなコトをアンタとやらなきゃいけないのよ! これじゃ、まるで変態みたいじゃない!」

「しょうがないだろ? 俺たちの魔力が異常な状態なんだから……」


 さっきから感じていた体調のおかしさは、魔力依存に起因するものだった。

 魔界に長時間いたせいで、ドーピング状態になり、魔力の供給のバランスが崩れて、全身が色々とおかしくなってしまったのだ。

 溢れ出る魔力を、互いの体に順次送ることで、暴走をおさえる。

 そのために、相手の魔力が流れ込むたびに、変な声が出てしまう。


「あ、アンタが……変な声出し過ぎなのよ……」

「お前が言うかよ!」

「っ、魔力の交換なんて……普通はしないもの……」


 恥ずかしそうに顔を布団で隠す玲菜。

 なんだかいけないことをした気分だ。

 ますます、玲菜との関係がわからなくなってしまった。

 

 ※ ※ ※

 

 約束の時間、午後十時。

 大変な昼間だったなと、ぼんやりと思い出しつつ、雪城邸の中を突き進む。

 俺たちは雪城邸の地下室を目指していた。

 そこにある結界まで到達できれば、この屋敷を取り戻せるらしい。

 織辺と詩子には、屋敷の前で魔闘師と戦ってもらっている。

 詩子はいつでも撤退できるにように逃げやすい場所で、織辺は何を考えているのかわからないので、屋敷の中に入れたくないという玲菜の意見からだ。

 俺たちの決定に織辺は何も言わなかった。

 だけど詩子は、俺が玲菜に着いていくことを派手に反対した。

 だが、俺の決死の説得でなんとかなって一安心。


「じゃあ、無事に帰ってきたら、デート……じゃなかった。買い物に付き合ってくれる約束、忘れないでくださいね!」


 嬉しそうな詩子を眺めていると、なぜか玲菜に激しく睨まれた。

 詩子は俺の身を案じて、俺が危険な目に合うのを嫌がっていたが、一番危ないことを、玲菜だけにやらせらせられない。

 この程度の約束で詩子を説得できるなら安いものだ。

 そして、襲って来た魔闘師たちを二人に任せて、俺と玲菜は屋敷の中に足を踏み入れたというわけだ。

 玲菜は俺の前を元気よく走り続けている。

 長い時間、魔力暴走にうなされていたため、俺たちはあまり寝ていない。

 だけど、体調は悪くなかった。むしろ、魔力が充実していて、いつもより調子がいい。きっと玲菜のおかげだ。

 アイツが無理をして、俺の魔力も一緒に調節してくれたのだろう。

 『春馬……っ、私も……そ、そろそろ……ああぁ、はぁぁぁっ』

 『あああ、だ、ダメ……い、イっ――――っ』

 ふいに思い出される魔力調整の記憶。

 俺は慌てて頭を振る。


「な、なによ。……変な顔して、また昼間のこと……思い出してるの?」

「冷静に考えると、簡単には忘れられない気が……」


 時間が経てば立つほど、すごくヤラシイ顔に思えてしまう。

 性的に興奮した顔に……


「こ、この変態! 絶対に思い出さないで!」


 叫びつつ、玲菜は曲がり角を抜けて、足を止めた。

 玲菜に追いついて、視線の先を見ると、二人の魔闘師がいる。

 見たことある顔。リシカルとローザだ。

 足下には魔方陣が展開されており、準備万端。いやな予感がする。

 二人は手を繋ぎ、にこりと微笑み合うと、反対の手をこちらに向けた。


合体魔法ユニゾンレイド!」


 声が見事にハモり、魔力が混ざり合うと、一つの巨大な魔法として形成され、こちらに迫ってくる。いきなりの攻撃だ。

 防げないと咄嗟に判断した俺は、玲菜を抱えて、曲がり角を引き返す。

 魔法が壁に激突し、大きな爆発音を立てて破裂した。

 穴でも開いたんじゃないかと思ったが、屋敷に傷はほとんどない。


「ど、どうして、この屋敷は壊れないんだ?」

「そういう結界があるからよ! そ、それより離して!」


 俺は玲菜を壁に押しつけるように、強く抱きしめていたコトに気がつき、慌てて離れる。


「わ、悪い!」


 壁を背に玲菜は、恥ずかしそうに髪をいじり、衣服を整え出す。

 顔を真っ赤にして俯く様子は、どことなく艶めかしい。


「た、助けてくれて、ありがとう……」


 囁くような声だったが、ドキッと俺の胸が高鳴る。

 俺の家で玲菜のあんな顔や声を聞いたからだろうか、妙に意識してしまう。

 玲菜のコトが愛おしく思えてしまうのだ。

 気がつけば、玲菜がジト目で睨んできていた。


「なんか、また変な想像してない?」

「し、してねえよ! ほんと、少ししか……」

「バカっ!」


 玲菜は頬を赤らめて、フンと鼻を鳴らす。

 それから、改めて俺を見た。


「とにかく集中して! 敵はすぐそこよ!」


 玲菜に言われて、壁に隠れつつ、相手の様子の伺う。

 いつでも発射する準備はできているようだ。


「合体魔法をどうにかしないとな。何かあるのか?」


 ソードで強化しても防げないのだから、無強化の俺ではどうしようもない。

 廊下に出れば、攻撃が飛んでくる。

 だが、このまま隠れていても、結界の元へはたどり着けない。

 玲菜は逡巡し、口を開く。


「方法なら二つ。一つは連続では使えないはずだから、どちらかが犠牲になって、先に進む。その場合、アンタが犠牲になって欲しいわ」

「……う、うん。もう一つは?」


 さすがにそれは簡単には頷けない。


「あの魔法を蹴散らすほどの大魔法を使うこと」

「そんな魔法あるのか?」

「ないから困っているのよね?」


 至極、当然な意見。やはり、俺が犠牲になるしかないようだ。

 そこで俺は初歩的な疑問に襲われる。


「敵が使ってるのって、合体魔法って、どんな魔法なんだ?」

「あれは心が通じ合った二人ならできる魔法よ」

「心が通じ合った? それって具体的には?」

「は、はあ? な、なな、なんでそんな事、訊いてくるのよ!」


 軽い質問だったのに、玲菜は顔を赤らめて、やけに取り乱した。

 訊いてはまずい質問だったのか。


「いや、だって、俺たちでも使えるかもしれないだろ?」

「ななな、ない! 絶対にない! 心が通じ合うって……あ、ああ、愛し合う、って意味よ!」

「愛し合う? 愛し合うか……なら、無理だな」


 あっさりと俺が同意すると、なぜか、玲菜は俺をキリッと睨み付けてきた。

 腰に手を当てて、非常に怒っている。


「ど、どうして、無理だと思うのか訊かせてもらいたいわ! 私のコトなんか、何とも思ってないってこと?」


 なぜそんな話になるのだろう。

 無理なのは俺の気持ちではなく、玲菜の気持ちだ。


「はあ? 逆だろ? お前が絶対、好きにならないって言ってたし……俺のコト、嫌いなんじゃないのか?」

「ち、違っ! き、嫌い、じゃないわよ……別に……」


 俺の質問に対して、玲菜は顔を真っ赤にして答えた。

 ウソをついているとは思わないが、どう思っているのかはわからない。

 考え込む俺を、玲菜がチラリと見る。


「だ、だいたいね……嫌いだったら、一緒にいるわけないじゃない……」


 呟いて、玲菜は恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向く。

 耳まで真っ赤にしている顔を見て、嬉しい想像が走る。

 嫌いじゃないというコトは――


「じゃ、じゃあ……俺のコト好きなのか?」

「――っ! は、はあぁ!? な、ななな、なに調子に乗ってんのよ! そんなわけないから! ばーか!」


 思い切り否定された。じゃあ、どう思っているんだと突っ込みたくなる。

 女心って複雑だ。とにかく愛し合ってなどいないということだろう。


「だったら、やっぱり無理じゃねえか……」

「――っ! で、できるかもしれないでしょ! 勝手に諦めないでよね! ……あ、アンタが、私のコト……す、好きなら、なんとかなるわよ!」


 愛し合ってないと無理な魔法なんだから、できるはずがない。

 玲菜だって、そう思っているのだろう。

 自信なさそうに俺を見上げる。こんな顔をしていると、本当に可愛い。


「俺は好きだけど……お前の気持ちがないから、無理だろ?」


 玲菜の顔が急激に真っ赤に染まり、モジモジと恥ずかしそうな身をよじらせる。

 恍惚な表情を浮かべると、強く頷いた。


「やってみましょう! それしかないわ。うん、やるべきよ!」


 急にやる気になった玲菜。

 なんとかしたいところだが、もうすぐ結婚が決まっているリシカルとローザのカップルと違って、俺は玲菜に絶対に好きにならないと言われている。

 やるだけ無駄だ。でも――やらなきゃいけない。


「そうだな。できないなら先へは進めない。やってみよう。俺たちは昼間あんなコトを乗り越えた仲なんだ!」


 そう言った瞬間、玲菜の顔が一瞬で真っ赤に染まる。


「あぁもうっ! 昼間のことは二度と口にしないで! 思い出すだけで恥ずかしくて死にそう……」


 玲菜は照れながら、スッと右手を俺に向けて伸ばしてきた。

 細く長い指。昼間もずっと繋いでいた手だ。

 導かれるように、俺はそれをしっかりと左手で掴む。

 まるで恋人のように指と指が絡み合った。

 玲菜の手はすべすべしていて、それでいて柔らかい。ほんのりと温かみがあり、つい握る力がこもってしまう。

 ふいに玲菜と目が合い、見つめ合う形になった。

 なんだかやけにこそばゆい。顔が火照っていくのがわかる。


「な、何よ、その顔……朱いわよ?」


 そんなことを、玲菜が真っ赤な顔で言う。


「お前もな」

「う、うっさい!」


 俺たちは手を繋いだまま、曲がり角を抜ける。

 リシカルとローザと対峙する形になった。

 俺は隣りにいる玲菜に視線を向ける。


「で、このあと、どうするんだ?」


 俺の質問に答えるように、玲菜は右足のつま先でトンと床を蹴った。

 その瞬間、床からオレンジ色の魔方陣が浮かび上がる。


「うお! なんだこれ!」

「ここは私の家よ。この程度造作も無いわ。さあ行くわよ! 春馬は私に同調するように魔力を送って!」


 簡単に言うが、同調すると言うこと自体よくわからない。

 俺がキョトンとして、首を傾げると玲菜は眉間にシワを寄せた。


「昼間にやっていた要領よ! わかるでしょ!」

「お前に流し込む感じか?」

「――っ! だから言わないでって、言ってるでしょ!」


 恥ずかしそうに顔を朱くして、玲菜は目を閉じ、詠唱を始める。

 俺は玲菜の詠唱に合わせるように、魔力を手の平に集め玲菜に送った。

 すると、玲菜の方から暖かい気持ちのようなものが流れ込んできて、なんだか心地よくなってきた。チラリと玲菜を見ると頬を染め、少し息が荒くなっている。

 これが気持ちを合わせると言うことだろうか。

 そんなことを考えているうちに、玲菜の誘導により、次第と魔法として形になっていく。意外とできそうな感じだ。

 興味深く眺め、ずっと黙っていたリシカルとローザが、俺たちの魔法に怪訝な顔を見せる。


「へえ、お前たちも気持ち合わせられるのか」

「みたいですね。でも、私たちの愛の方が強いですよ!」


 リシカルとローザも手を繋ぎ、魔法をくみ上げ始めた。

 高まっていく二つの魔力に、屋敷の壁がカタカタと激しく振動する。

 緊張感が高まっていった頃、ついに玲菜がフッと目を開く。

 詠唱が終わったのだろう。


「いくわよ、春馬! 相手に手を向けて!」


 俺は頷くと、右手を前に突き出す。

 それに合わせて玲菜も左手を前に突き出した。

 紡がれる俺たちの魔力が全身を包み、その形を見せる。

 青と赤の発光が混じり、美しい色の変わっていく。

 向こうから相手の魔法が飛んでくる。そして、俺と玲菜は同時に叫んだ。


合体魔法ユニゾンレイド!」


 相手の魔法を喰らい尽くすように、真っ白な美しい光が辺りに広がる。

 魔法と魔法がぶつかり合い、大きな怒号をあげた。

 拮抗し、轟音をあげる二つの魔法。

 誰もが強く手を伸ばし、押し戻されないように踏ん張る。

 そこにリシカルとローザの声が響く。


「わ、私たちの愛は永遠です!」

「そうだとも、俺たちの愛は何者にも負けない!」


 そんなことを叫んで、恥ずかしくないのかと思ってしまうが、それだけ相手を信じているのだろう。その気持ちに後押しされるかのように魔法が威力を増した。

 じわじわとこちらの魔法が押し戻されそうになる。

 そこで玲菜が大きな声で叫んだ。


「――ふざけないで! こっちだって気持ちじゃ負けてないわよ!」


 玲菜がチラッと横目で見た瞬間、ドキッと俺の心臓は高鳴り、魔法の威力が一気に跳ね上がった。勢いを付けて、相手の魔法を押し切っていく。

 大きな爆発と共に、魔方陣の上からリシカルとローザは吹き飛ばされた。

 術者をなくした魔方陣が消えていく。もう、アイツらは合体魔法を使うことはできないだろう。壁に打ち付けられ、息も絶え絶えのリシカルとローザ。


「ば、バカな……俺たちの愛が負けるとは……」

「信じられ、ないわ……」


 俺たちの勝ちのようだ。玲菜はゆっくりと二人に近づき、親指を自分の方に向け、決めポーズを取る。


「どうやら、私たちの方が愛し合っていたみたいね!」


 玲菜のヤツ、妙なコトを口走って、どうしたんだろう。

 訊いてるこっちが恥ずかしくなる。

 リシカルとローザは『負けた』とつぶやき、そのまま気絶した。

 玲菜は嬉しそうな顔で振り返る。


「ほらっ! できたじゃない!」


 玲菜はとびっきりの笑顔で駆け寄ってきた。

 できたことがよほど嬉しかったのだろう。

 しかし、俺の方は微妙だ。喜びたいが喜べない。


「そ、そう……だな……」

「なによ! 嬉しくないわけ?」

「嬉しいぞ! めっちゃ嬉しい! でも……」

「なによ?」

「お前って、本当は俺のコト、めちゃくちゃ愛してたんだな……」


 ボッと音がするほど、一瞬にして玲菜の顔を真っ赤に染まる。耳まで赤い。

 呼吸も明らかに早くなった。そして、叫ぶ。今までで一番大きな声で。


「そ、そそそ、そんなわけないでしょ!」

「だって、今、『私たちの方が愛し合っていた』って……」

「――っ! ば、バカっ! そ、それは魔法の話よ! ただそれだけ! ぜ、ぜぜ、絶対そんなことないから! いい? 勘違いしないでよね!」


 やはり勘違いなのか……。

 だとすれば、合体魔法に愛し合うって感情は、全然関係ないじゃないか。


「も、もういいわ。さ、さっさと先へ行きましょう」


 明らかに挙動不審の玲菜。顔を真っ赤にしたまま、先へ進んでいった。

 どことなく、嬉しそうにはにかんでいるし、意味不明だ。

 女心って本当にわからない。玲菜が特殊なだけのような気もするが。

 俺は玲菜の楽しげに躍る黒髪を追いかけていく。

 結界の部屋はもうすぐだ。

 

 ※ ※ ※

 

 結界へ続く部屋の扉を開けた。

 重苦しい音が響き、中の様子が見えてくる。

 中はホールのような広い部屋で、貴族が社交ダンスを行いそうな広さだ。

 この家は本当に日本の家屋なのか。こんな巨大な部屋はありえない。

 部屋の中央で、神条は椅子に座っていた。

 俺たちに気がつき、立ち上がる。


「まさか、あの二人を倒してくるとはな……」


 結界までもうすぐというところで、やっと姿を見せた本命。

 七海の仇で、敵のボス。俺たちが倒すべき相手だ。

 俺と玲菜の間に同時に緊張感が走る。

 ソードの『強化』があっても勝てなかった相手だ。

 俺と玲菜だけでは相手にならない。そんなことは最初からわかっていた。

 それでも、勝てるかもしれないと思ったから、戦いに望んだのだ。

 俺たちには秘密兵器がある。


「もう我慢することはないんだよな?」


 俺は玲菜を横目に見る。こくりと頷く玲菜。

 あんな思いをして、昼間のうちに巡回させた魔力だ。

 本来、魔力過多になっても、思いっきり放出すれば、すっきりとさせられる。

 だけど、神条を戦うことを想定して、あえて魔力を体に残し続けたのだ。

 そのせいで散々な目にあったが、全てはこの時のため。


「春馬、もう遠慮はいらないわ!」

「あんなに恥ずかしい思いをしたんだ。一気に仕留めようぜ!」


 玲菜は俺の顔を見て、頬を朱色に染め、ワナワナと口を振るわせた。


「だ、だから、思い出させないでよ!」


 俺は玲菜と目を合わせ、ちいさく頷くと魔力を解放した。

 ゾワゾワと全身を快感のようなものが襲ってくる。

 クセになりそうな感覚だ。


「や、やばいわね、この感覚。なんだか変な気分になってくるわ……」

「魔力量が格段に上がっているから、爆発させるなよ?」


 元の魔力が低い俺はともかく、玲菜の魔力は信じられないほど上がっていた。

 急にふくれあがった魔力に、神条は目を丸くする。


「なにかドーピングでも行ったようだ。先日とは別人だな……」

「その通りよ! 私たちの本気をみるがいいわ。覚悟なさい!」


 玲菜はバーンとポーズを決めるとかっこよく叫んだ。

 たまに思うけど、どうして玲菜って、わざわざ決めポーズをするのだろう。

 とくに熱くなったときにやる気がする。

 もしかすると、魔法少女とかにはまっていたのかもしれない。

 玲菜の決めポーズを、冷ややかに神条が見つめる。

 あれっ、と玲菜が恥ずかしそうにうろたえて、俺に視線を向ける。


「そ、そうだ! これがあったわね!」


 誤魔化すように、わざとらしい声で取り出したのは、ソードだった。

 まったく魔力をなくして、ただの刀に戻ったソード。

 俺が握りしめても何の反応もない。

 その力をずっと頼りにしていたことを思い出す。

 ソードがなければ戦えない。

 昨日の俺なら、そう思っていただろう。

 

 ――でも、違う。俺には玲菜がいる。

 

 俺と玲菜がどんな関係なのか、ようやくわかった。

 一緒に戦える、背中を任せられる戦友だ。

 命を託せる相手は、親友や家族、恋人にも勝るとも劣らない尊い存在。

 玲菜と一緒なら、どんな奴が相手でも戦える気がする。


「絶対勝とうぜ!」


 俺が声をかけると、玲菜はニコッと微笑んだ。

 色々なコトを乗り越え、とうとう最終戦。

 否応なしに呼吸が早まり、ソードを握る手に力が入った。


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