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魔法使いのいる街  作者: 水瀬 瑞希
第一章 DAY BEFORE
21/51

第二十一話 攫われた詩子

 ローブを取り返し、玲菜の家に着くと、詩子がいなくなっていた。


「え? じゃあ、それっきり戻ってないのか?」


 メルの話では、俺たちがローブを取り返したと、連絡した後に出ていったきりらしい。時計を見るとすでに十九時。

 すでに三時間以上も帰ってないことになる。

 子どもじゃないんだから、三時間程度なんだという話ではあるが、なぜだかタイミング的に非常に気になる。

 詩子の家にも電話をかけているが、やはりまだ帰っていなかった。

 何かあったんじゃないだろうか。


「悪い。俺、ちょっと、周りを探してくる!」

「あ、春馬。私も行くわ。留守番なら、メル一人で充分よ」

「ありがとう。助かる」


 俺たちが門から外に出ると、慌てた顔でこっちへやってくる人影が見えた。

 見覚えのある顔。以前に詩子と食堂で会った渋谷七海だ。


「あ、ああ! 赤羽先輩!」


 七海が俺を見つけて、慌てて駆け寄ってくる。


「どうしたんだ……こんな場所に……?」

「う、詩子、来てますか?」


 走ってきたからだろうか息が荒い。


「いや、いないから、俺たちも探しに出るところだ」

「な……だったら、さっきの電話は、いたずらじゃなかったんだ……」

「……? なんだよ。その話聞かせてくれよ」


 七海の話はこうだ。

 夕方、詩子と電話で話をしていたところ、急に様子がおかしくなった。

 次に電話に出たのは、奇妙な人間の声、変声器でも使って詩子が遊んでいるのだと思ったそうだ。

 しかし、その内容があまりにも引っかかり、探している最中らしい。

 『この女を返して欲しくば、街外れの工場跡地まで来い』


「も、もちろん、私も冗談だと思いましたよ? ……で、でも……」


 気になったので、安否を知りたかったのだろう。

 街外れの工場跡地。結構捜索範囲としては広い。


「詳しい場所は聞いたのか?」

「は、はい! 私、案内できます!」

「――ちょっと待って」


 ずっと黙っていた玲菜が突然、口を挟んだ。


「ねえ、どうして、ここに白峰さんがいると思ったの?」

「え? ああ、詩子から雪城先輩の家に来ていると聞いていたので……」

「そう……それでわざわざここに来てみたってわけね。で、私たちに何を期待しているのかしら?」

「……っ、そ、それは……」

「おい! 玲菜、どうしたんだよ急に。力を借りに来たに決まってるだろ?」

「力を借りにね。そうなの?」

「はい。……私だけじゃ不安なので、一緒に来てもらえるかなと、少し期待してました。でも、そうですよね。呼ばれたのは私ですから……ごめんなさい」


 一人でいきます、と七海は踵を返そうとする。

 俺は慌ててその手を掴んだ。


「心配するな、俺は一緒について行く。だから、安心してくれ」

「……別に、私は付き合わないとは言ってないわ」


 玲菜はやや含みのある眼を七海に向けていた。

 だが、それでも七海の顔はパッと明るくなる。


「せ、先輩方……ありがとうございます!」

「でも、少しだけ待っていてもらってもいいか? 武器を用意しておきたい」

「え? あ、はい」

「玲菜、俺、ソード取ってくる。意味はないかもしれないけど、ないよりはマシだ」

「……だったら、メルに一言言いなさい。力になってくれるわ」


 俺は頷いてはみたが、玲菜の意図がわからなかった。

 急いで部屋に戻り、ソードを手に取るが、いまだに反応はない。


「やっぱ、まだダメか……」


 玲菜に言われたとおりにメルを探し、ソードのコトを相談する。


「……わかりました。赤羽様、私にお渡しください」


 メルにしては積極的に手を伸ばしてきた。

 ソードをメルが握ると、ほんのりと白く光り出す。

 魔力が発生しているのだろうか。

 なぜだかわからないけど、メルがソードを掴んでいる姿が妙に絵になった。

 あるべき場所に戻ったような不思議な光景だ。

 パッと辺りが一瞬明るくなり、ソードから魔力が感じられる。


「終わりました。これで多少は使えるようになったはずです」


 メルはそう言って俺にソードを手渡してくる。


「ほんとうか!」

「はい。ですが、全力での使用は一分。それ以上は多分、魔力が持ちません」


 それでも俺は嬉しかった。

 嬉々として受け取り、小さくなれと念じる。すると、ソードは一瞬にして小さくなった。


「マスター。すみません、あまりお力になれずに……」

「気にするなソード。その分、いざというときは頼むからさ」


 メルにあらかたの事情を話してから、玲菜たちと合流する。

 なぜだか、いまだに険悪なムード。玲菜と七海は眼を合わせようともしない。

 また玲菜が変なコトを言って、絡んだのだろうか。

 ため息をつきつつ、現場に向かう。

 それから、三十分後。おかしいほど段取りのいい七海に誘われるがまま、俺たちは街外れにある廃工場へ来ていた。

 そこは街灯もほとんど届かず、薄暗い。工場の窓ガラスはほとんど割れ、あちらこちらに落書きがある。夜は不良たちのたまり場だろう。

 薄気味の悪さでは、お化け屋敷も真っ青なレベルだ。正直に言うと、こんな事でもない限り、入りたくはない。よくこんな場所が残っていたものだ。


「そろそろ、危険だから、渋谷さんはここで待っていてもらえるかしら?」

「え? 危険なのは先輩達も同じじゃないですか。少しでも人数が多い方が……」


 玲菜はふう、とため息を吐いた。

 俺もソードが使えない以上、七海とそう変わらない。

 邪魔という話なら、おそらく俺も同じだろう。


「敵が何を仕掛けてくるかわからない以上、人数が多いのは邪魔なの……だから、春馬と渋谷さんはここで待っていて。私が一人で行ってくるわ」

「だ、ダメですよ。電話の相手は私に来いと言ってました。私に用事があるのかもしれません!」

「そうね……だったら、あなたが一人で行ってくる?」


 玲菜のあまりにも冷たい言葉に、七海の表情が凍り付く。


「え、い、いえ……それは……」

「ひどいこと言うなよ、玲菜。こんな寂しげな場所に女一人で行かせられるかよ。お前だってそれは変わらないぞ?」

「……ふん、だったら勝手にすれば?」


 工場跡地の入り口は、がれきの山になっており、非常に足場が悪い。

 そこで、不意に玲菜が振り返り、俺に耳打ちをしてくる。


「春馬、ソードはまだ完全じゃないわよね? ……だったら、一つだけ魔法を教えるわ」

「本当か? でも、俺、魔法なんて使えないぞ?」

「大丈夫。一言だけだから、その発音だけ憶えればいい。手の平から魔力を前に押し出す感じで『ぶち壊せクラック』って叫んで」


 玲菜の声に合わせて、入り口を塞いでいた瓦礫が派手に吹き飛んだ。


「きゃぁぁぁぁっ!」


 七海の大きな声が辺りに響く。

 そりゃあ、いきなり瓦礫が飛び散れば驚くのは無理ない。


「……今のって……魔法なのか?」

「魔法って言うか、魔力を外に排出させただけ、簡単でしょ?」


 玲菜の話を簡単にまとめると水鉄砲のようなものらしい。

 魔力を一点に集中させ、押し出して放出させる。それだけだ。

 試しにやってみると、意外に簡単にできた。


「もっと、一点に集中させれば、威力も上がるわ」


 それを黙ってみていた七海が首を傾げる。


「お二人って、何か不思議な力でも持っているんですか?」

「……白々しいわね」


 玲菜のまたしても毒のある発言。

 なぜか玲菜は終始七海を疑っている。


「え?」

「あなたは、最初に私たちの力を借りに来たって言ったわよね? 普通、誘拐事件なら、警察……行かないかしら?」

「そ、それは……」


 玲菜の質問に対して、七海は表情を歪ませ、言葉を濁した。


「教えてくれない? 普通の高校生である私たちが誘拐犯と戦って、無事に白峰さんを助けられると思った、その理由をね」


 玲菜に凄まれ、七海は後退りをはじめる。

 確かに玲菜の言っている話も一理あるが、あまりにも一方的だ。

 最初から七海を疑っているからそんな考えになるのだろう。


「一人じゃどうしようもなかったから、俺たちに助けを求めたんじゃないのか?」


 俺が口を挟むと、七海はコクコクと何度も頷いた。

 それを見た玲菜が俺を一睨みし、ため息を吐く。


「そう、だったら、他の質問ね。……その誘拐犯さんとやらに、本当にこんな場所に来いって、言われたのかしら?」

「そ、そうですけど……な、なにか……?」

「今、入り口が瓦礫で埋まっていたのは見たわよね? 白峰さんを攫った犯人はどうやって中に入ったの?」

「そ、それは……」


 またも玲菜の鋭い突っ込みに、七海がたじろぐ。

 だが、窓がこれだけ割れているコトを考えば、窓から入った可能性もある。七海を疑う理由にはならない気もするが、玲菜はどうしても七海を犯人したいようだ。

 七海は後ろを振り向き、体を震わせて、何かぶつぶつとつぶやいていた。

 そりゃあ、玲菜に凄まれたら恐いよな。


「ほら、きちんとこっち向いて、答えなさいよ!」


 玲菜が眉間にシワを寄せ、七海を振り返らせようとした瞬間、工場の中に足音が響いた。俺と玲菜は慌てて振り返り、入り口を見る。

 中から蒼く光る――眼。それがいくつもこちらを向いていた。


「な! に、人形!」

「う、ウソ……さっきまで、そんな反応なかったわ……」


 俺と玲菜は人形に向かって構える。

 その時、後ろに何かがぶつかってきた。


「せ、先輩方……あ、あれ……」


 七海が後じさり、俺にぶつかったようだ。

 俺は振り返る。そこには――


「さ、坂上先生? ど、どうして……あなたが詩子を……」


 さっきローブを奪い取ったはずの坂上先生が、そこにいた。

 不敵な笑みを浮かべながら、入り口にいる俺たちを見ている。

 そういえば、坂上先生は詩子の正体を知っている。自分のコトをばらした詩子への報復で誘拐したに違いない。だとすれば敵だ。

 やばい、完全に挟まれている。


「な、なによ……あの女、やっぱり、さっき潰しとくべきだったわね」


 強気な発言をしながらも玲菜の表情は硬い。

 少なくとも、俺と七海が足手まといにしかなっていないこの状況。

 前後から襲われれば、どちらかしか助けられないのだ。


「玲菜! 七海を連れて、横に跳べ!」


 俺は叫ぶと、ソードを出し、坂上先生に斬りかかった。

 七海だけなら、玲菜が問題なく守ってくれるはずだ。

 玲菜は俺の期待通りに七海を抱いて横に跳び、入り口から距離を取る

 坂上先生は俺の攻撃を避けつつ、頭上を飛び越えた。

 そのまま、工場の入り口にゆっくりと入っていく。

 一度だけ、こちらを振り返り、楽しそうにおいでおいでと手を振った。

 入り口を守る人形も、坂上先生には反応しない。

 気がつけばもうそこには姿はなかった。


「人形使いは坂上先生だったのか……」


 今にも襲ってきそうな人形たちに目を向けたまま、ちらりと玲菜の方を見る。

 玲菜もすでに七海を解放し、俺の隣にやってきていた。


「……そのようね。渋谷さん、疑って悪かったわ」

「い、いえ……気にしてません……」

「誰が犯人かわかったなら、やることは一つだ。さっさと詩子を助けようぜ」

「そうね。行きましょう」


 玲菜も吹っ切れたらしく、入り口の人形に向かって魔弾をぶち込んだ。

 凍り付き派手に砕ける人形。


「きゃっ……くっ」


 玲菜の魔力が七海に害を与えているのか、入口に入る前から七海が苦しそうな顔をしていた。


「大丈夫か? なんだったら、お前はここで待っていてもいいぞ?」

「春馬もそうしてもらえるかしら? 相手にも私たちがいることバレたんだし、コソコソする必要はないわ」


 入り口を守っていた人形をあらかた片付けた玲菜が振り返っていた。

 どうやら、ここから先へは一人で行くようだ。

 確かに、玲菜が一人で突っ込んだ方が早いだろう。

 しかし、それでいいのだろうか。間違いなく、この先には罠が仕掛けてある。

 玲菜にもしものコトがあったら……


「ダメだ。一人では行かせられない。大して役には立たないけど、それでも一緒に行く」

「わ、私は……ここで待ってます。状況がわからなくて、力どころか、足手まといにしかなれそうにありません……」


 体をガタガタと震わせながら、七海が呟く。


「そうね。その方がいいかもしれない。じゃ、七海さんはもう帰った方がいいわ。無事に助け出したら、白峰さんから連絡をさせるわ」

「はい! よろしくお願いします」


 七海はそう言って、街へ走って行く。

 その背中を見送ると、俺たちは改めて工場に足を踏み入れた。

 広い部屋は体育館二つ分ほどのスペースだ。

 破棄されたいくつもの生産ラインが走っており、視界はそれほど良くない。

 従業員が休憩で使っていただろう小部屋も、いくつか見えた。

 もうすでに辺りは真っ暗で、街灯もほとんど役に立たない場所。

 足下も不安だ。とりあえず壁沿いを回り、小部屋を目指す。

 途中で何体かの人形を倒し、部屋の中に入る。

 そこで俺と玲菜は息を呑んだ。


「な、なんだよこれ……」


 十畳ほどの休憩室のような場所。

 そこに見た目、不良ふうの少年たちが二十人ほど、貼り付けにされていた。

 おまけに点滴の管の太いものが首や手に刺さっており、少年たちはミイラのように乾燥している。しかし、呼吸や血管の動きが見えた。死んでいない。

 生かしたままで、限界まで吸い出し続けているのだ。

 制作者への怒りと吐き気がこみ上げてくる。


「あれから街には現れないと思ったら……こうして自給自足していたわけね」

「……自給自足?」


 玲菜が顔をしかめて説明してくれた。

 人間は使った分の魔力は大気中から体に取り込んでいく。これが自然回復。

 一方、大きな魔力を消費する魔法を使った場合、この自然回復では間に合わない。その場合には、霊脈と呼ばれるところから、魔力を借りることになる。

 だが、管理人がいる土地で許可なしには霊脈にアクセス出来ない。

 どうしても許可なしに大きな魔法を使う場合には、霊脈の結界に穴を開けるなどして、泥棒行為に走るしかないようだ。


「人形って言うのは、思ったよりも魔力を使うの。だから、街の人間を襲ったりして、魔力を奪い続けているのよ!」

「じゃあ、じゃあ……こいつらは人形の餌ってことか?」


 玲菜はコクリと頷くと、少年たちに繋がっている機械の大本を破壊した。

 液体が派手にばらまかれ、肉が腐ったような臭いが、部屋中を漂う。


「これで、この装置は使えないわ……さっさと行きましょう」

「こ、こいつらは放置かよ?」

「一人ずつ治療なんてやってられないわ。諏訪に連絡して、先を急ぎましょう。白峰さんまでこんな目に遭うわよ?」


 俺はゴクリと喉を鳴らし、頷いた。

 玲菜が諏訪に携帯で連絡をし、部屋から出たところで、たくさんの人形が姿を見せる。どうやら、ここを餌に狙われたようだ。


「二十体近くか……総力戦って言うなら、もう遠慮はしないわ」


 周りからも、つられたようにわらわらと人形が押し寄せてくる。

 俺は玲菜に近寄ってくる人形に目がけてソードを振る。

 しかし、『強化』が発動していない今の状況では、コンビニの時よりマシ程度。とても、何体も相手になど出来るはずもない。


「春馬どいて!」


 俺が玲菜の動線から横にずれると、数体を巻きこむほど大きな魔弾が放たれた。

 そこから、玲菜は人形たちの群に突っ込んでいく。

 次から次に人形たちをなぎ倒していく玲菜の姿は、まさに戦乙女ヴァルキリー

 気がつけば、すっかりと辺りは冷え込み、人形もほとんどいなくなっていた。

 圧倒的な能力の違いに感動を憶えつつ、押さえきれない疑問が湧く。


「なあ、こんなに簡単に倒せるのに、どうしてあの日コンビニで、人形相手に苦戦していたんだ?」


 すっかり人形を蹴散らしていた玲菜の体がビクリと震えた。

 一向にこちらを見ようとはしない。


「玲菜……? 俺……まずいこと聞いたか?」

「……ねえ、春馬、あなたは人……殺したことある?」


 何かを覚悟したような玲菜の声。

 嫌な話が出てくる。そんな予感があった。


「は、はあ? あるわけないだろ!」

「……そうよね。普通はそうだと思う」

「お前は……お前はあるのか?」

「……ええ。あるわ」


 ショックだった。頭を金槌で殴られたような衝撃が走った。


「あの日、コンビニで苦戦していたのは……相手が強かったからじゃない。私が……おかしかったの」

「ど……どういうことだ?」

「私が殺したのは、一人だけ……大崎おおさき 信也しんやと言う男よ」


 真剣な眼差しの玲菜。とても笑って流せるような話ではない。


「……いつの話だ?」

「もう半年くらい前になるわ。その頃、この街で数十人が殺されるという事件があった。まあ、諏訪が必死に隠ぺいしたから、ニュースにはなってないけど……」

「その大崎ってヤツの仕業だったのか?」

「そういうこと。アイツは人形使いだったのよ、人形のために街の人を襲い、魔力を蓄えていた。――だから、殺したの」


 言って、玲菜は小さく唇を噛んだ。

 その様子には、後悔が滲み出ているように感じる。おそらく、殺人を阻止しようと頑張ったが殺すしかなかった。そう言う話に違いない。

 だとすれば、これ以上は触れない方がいい。

 俺は辺りに散らばった人形の残骸を横目で見る。別の疑問が湧いた。


「もしかして、人形使いって何人もいるのか?」

「そうなるわね。……私もね、最初は一人だと思ってた。だから、あの日、人形を見て動揺してしまったの。殺したはずの相手が生きていたって思い込んでね」


 本当にバカよね、と玲菜は自虐的な笑みを浮かべる。

 けれど、それは悲痛に満ちていて、笑えるものではなかった。

 他にも術者がいるなんて考えることもできないほど、人を殺したことに自責の念があったに違いない。


「あとはアンタの知っての通り、私は派手に飛ばされ、コンビニに突っ込んだのでした……やだな、そんな顔しないで笑ってよ。面白い失敗談でしょ?」


 玲菜がおどけて肩を竦めた。

 元気に振る舞おうとする、その様子が逆に痛々しい。


「笑えねえよ……」

「……魔法ってね、ほんの少しの精神の乱れで極端に効果が下がってしまうわ。シールド系は特にね」


 しばらく沈黙が流れたが、不意にドアを開くような音が辺りに響いた。


「さて、話は終わりね。敵が向こうから顔を出してきたわよ」


 二十メートルほど先の部屋のドアの隙間から、坂上先生が顔を出していた。

 その腕には縛られた詩子が抱きかかえられている。

 坂上先生――いや、坂上は俺たちに笑みを浮かべ、そのままドアを閉めた。


「ま、待てっ!」


 俺と玲菜は急いで後を追い、ドアの前に駆けつける。

 そこで玲菜が俺を見つめた。


「間違いなく罠でしょうね。どうするの?」


 そんなのは決まっている。

 詩子に危機が迫っている以上、罠でも行くしかない。

 俺は一分しか発動できないソードを握りしめ、ドアノブに手をかけた――


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