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8話

「……あの馬鹿…。」

「チサト…。」


 頭を抱えるチサトに姉のユウリは軽く睨んだ。


「リョウタくんがいるんなら、大丈夫だと思うけど…。」

「申し訳ありません、お嬢様方…。」


 マサシはかなり怒りを殺した表情でそう言った。


「マサシ…。」

「……。」


 心配そうな表情なユウリにマサシはそっぽを向く。


「…はー…、お姉様、お姉様はしばらくマサシと一緒に居てください、わたしが表に出ます。」

「チサト…。」

「その方がよろしいでしょ。」

「ありがとう…。」


 ユウリは弱弱しく微笑んで、執務室から出て行った。その時、入れ替わりにユーマが入って来たのでチサトはスッと目を細めた。


「あら、もう来たの?」

「はい。」

「意外に早かったようね。」

「そうですね、後数時間はかかるかと思いました。」

「そうね。」


 チサトは同意し、ユーマに手を伸ばす。


「どうぞ、こちらです。」


 ユーマは盆の上に載せられた手紙とペーパーナイフをチサトに手渡す。


「………………ふっふふふ…。」


 手紙にざっと目を通したチサトは急に笑い出した。


「……。」

「ユーマ。」

「何でしょう、お嬢様。」

「すぐさま、六百万を用意して。」

「分かりました。」


 ユーマは特に何も言う事がないと思ったのか、すぐに返事をした。


「そうそう、そのトランクはお姉様にお渡してくださいね。」

「…いいのですか?」

「勿論ですよ。タカダ家の者に手を出した落とし前は、わたしかお姉様がやるのよ。」

「……友梨お嬢様と智里お嬢様のお間違いではないでしょうか?」

「あら、言うようになったわね、ユーマ。」


 ギラギラと肉食動物のように瞳を輝かせるチサトにユーマは小さく溜息を漏らした。


「手加減はしてあげてください。」

「あら、敵と判断した人間には容赦はしないのよ。」

「……。」

「だって、わたしの身内に手を出した時点で死刑と同類、でも、人を殺すなんてそんな堂々とするのはわたしの流儀に反しますしね。」


 ふふふ、と笑うチサトは黒かった。


「まあ、毒草を後ほどお送りするから、それが、わたしの仕返し、なんと軽い事でしょう…。でも、お姉様が代わりに報復してくださいますよね?」


 楽しげに微笑むチサトだが、目は笑っていない。


「さて、早く用意してくださいね。ユーマ。」

「分かりました。」


 ユーマはようやく部屋から出て行き、その瞬間にチサトのまとう空気が一変する。


「………あんな小物に掴まるだなんて…。」


 チサトは容赦なく殺気を放つ。


「減棒…決定ね。ユーマ、マサシ、リョウタ。」


 チサトは近くにあった紙と羽ペンを持ち殴り書くように羽ペンを動かす。


「……………まあ、リョウタは仕方がないか…、相手は複数だと聞くし…、でも、わたしたちを守ると言うのなら、それなりの成果を見せて欲しいわ。」


 チサトは外を睨みつける。


「わたしたちは常に狙われている。」


 ずっと昔から…。


「いつ、いかなる時も、死と隣り合わせ。」


 物心つく前から…わたしたちは――。


「それを守ると言うのなら、貴方がたも命を懸けなさいよ。」


 戦士だった。


「さて、わたしはお姉様の為に煙幕でも作りましょうか。」


 チサトはスッといつもの表情に戻る。


「わたしたちは、わたしは…、わたしたちの家族を守る…。」


 チサトが立ち上がるのと同時にノックが聞こえた。


「誰?」

「チサト?私ユウリよ。」

「お姉様?」


 先程出て行ったユウリにチサトは不思議そうに言った。


「入るよ?」

「どうぞ。」

「……。」


 ユウリはほんの少し戸惑いがちに入ってくるが、その目は真直ぐにチサトを捉えていた。


「お姉様どうされたのですか?」

「ミナミの場所が分かったのね。」

「ええ。」

「チサト、大丈夫?」

「何がでしょうか、お姉様。」


 ユウリは微かに悲しげに顔を歪めた。


「ごめんね。」

「……訳が分かりませんわ。」

「…あんたばっかりに、押し付けてごめんね…。」

「……今回はお姉様だけの所為ではありませんわ。」

「それでも……。」


 ユウリは微かに目を伏せた。


「いつも負担を背負っているのはチサトだから。」

「……。」

「だから、たまにでいいの、弱音を吐いて。」

「……吐いても、事態は変わりません。」

「そうかもしれないね。」


 ユウリは穏やかに微笑み、チサトの頭を軽く撫でた。


「だけどね、胸に仕舞い込むのはとても苦しい事よ、だから、たまには私に見せてもいいのよ。私は貴女の姉だから……。」

「お姉様…。」

「チサトは良くやっているわ。」

「……。」


 チサトは歯を喰いしばり泣かないが、それでも、ユウリはほんの少し彼女の心が軽くなった事を悟った。


「無理をしてはダメよ。」

「ええ、分かっていますよ。わたしが、わたしたちが倒れれば意味がありませんものね。」

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