7話
「リョウくんっ!」
ミナミはリョウタの手を引いて、お目当ての喫茶店に入ろうとする。
「待て、ミナミ。」
急に手を振り払うように離すリョウタにミナミはキョトンとする。
「お前な……。」
「何?」
「何でオレの手を引くんだ。」
「ふえ?」
不機嫌そうなリョウタにミナミは今にも泣き出しそうな表情になる。
「――っ!責めてるんじゃねぇからな!」
「本当?」
「ああ、ただ、オレはお前の専属の執事だぜ、それなのになんで手を引かれなきゃならねえんだ。」
「いや?」
「……。」
正直に言えば間違いなくミナミが泣いてしまう事を知っているリョウタは何も言えなかった。
「……別にいい。」
「よかった~。」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるミナミにリョウタはただ曖昧の笑みを浮かべる事しか出来なかった。本音は手を引かれる事がイヤだった。男としてのプライドと執事の威厳が損なわれる気がしたからだ、だけど、仕方がなかった。
ミナミの笑みを消す事だけは不本意だからだ。
「あのね、あのね、あそこのケーキ美味しいんだって~。」
「よかったな。」
「うん。あ、お土産にお姉様たちの分も買おうかな?」
「止めとけ、屋敷に付くまでにグシャグシャになっているに決まっている。」
「ひど~いっ!」
「本当の事だろうが。」
そう何ヶ月か前にも同じ事を言って、本当に持ち帰った時、せっかく屋敷までは無事だったのに屋敷の廊下でミナミがこけてしまい、全て無駄に終わった事があったから、リョウタはまた同じ事が起こると予測していた。
「ううう……。」
「ほら、早く行こうぜ。」
「待ってよ~。」
さっさと行こうとするリョウタにミナミはパタパタと走り出した。
*
「おいし~~~~っ!!」
ケーキを頬張り、ミナミは幸せそうに頬を緩めた。
「よかったな。」
リョウタは注文したコーヒーをすすり、ミナミが美味しそうに食べるのを見て和んでいた。
「リョウくん、はい。」
「……。」
唐突にフォークに刺さった生クリームたっぷりのケーキの欠片を見て、リョウタは眉間に皺を寄せた。
「……これをどうしろと?」
「あ~ん。」
「……。」
やっぱりか、と小さく毒づくがミナミには聞こえていなかった。
「……。」
「あ~ん。」
絶対に食べないといけないと分かっていながらも、躊躇する理由は二つ、一つはフォークをミナミが一度口に付けた物の事、もう一つは生クリームがたっぷりな事だ。
リョウタは甘いものがまあ、苦手ではないが、それでも、生クリームがたっぷりなのは出来れば食べたくないのだ。
「……あ~んっ!!」
かなり機嫌が悪くなってきたのか、ミナミの目は据わってきて、口調もどこか怒っているようだった。
「……分かったよ。」
仕方なさそうにリョウタはケーキを食べた。
「……甘っ…。」
顔を顰め、生クリームの甘さにリョウタは気持ち悪くなり慌ててコーヒーを飲んだ。
「……あれ?」
「……何があれ?だ。」
「リョウくん、甘いの大丈夫だよね?」
「甘いのはな、ごく甘や生クリームはダメだ。」
「そうなんだ~。」
「……ああ、覚えとけよ。」
「うん。」
嬉しそうに頷くミナミにリョウタは不審そうに顔を顰めた。
「何で嬉しそうなんだよ。」
「だって、リョウくんの弱みを握ったんだもん。」
「ほ~。」
リョウタはニヤリと意地悪そうに口角を上げ笑った。
「お前は何が苦手かな~。」
「え?」
「虫だろ。」
「うぎゃっ。」
「ああ、カエルも嫌いだな。」
「うぎ…。」
「トカゲに…。」
「り、リョウ…くん。」
「幽霊とか嫌いだよな。」
ミナミは顔を顰めるが、リョウタはいじめっ子のように微笑んだ。
「どうだ、一つ知っただけでオレに勝てると思っているのか?」
「ううう……。」
ミナミは気付いていないが、リョウタはいつもミナミに負けている。彼女に惚れているので、彼女の涙や本気で嫌がる事は出来ないのだ。
「さ~て、そろそろ帰らねえとな。」
「え~~。」
残念そうな声を出すミナミにリョウタは苦笑する。
「しゃーねー、だろ?お前の姉さんたちを怒らすわけにはいかねえし、それに、ユウリ様にはこうして出してもらった恩があるからな。」
「う~…、まだ一緒に回りたかったのに~。」
「また今度な。」
「……。」
まだ不満があるのかミナミは中々席を立とうとしない。
「ミナミ…あのな…っ!」
リョウタは瞬時に戦闘体制に入りだし、ミナミは急な事で凍りついた。
「おい、ミナミ、オレから絶対離れんなよ。」
リョウタはそう言うとミナミの背に手を回した。
そして、ミナミとリョウタは巻き込まれてしまったのだった……。