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6話

「見てみて、リョウくんっ!」


 はしゃくミナミにリョウタは呆れていた。


「おい、よそ見してっとこけるぞ。」

「そんな訳――きゃっ。」


 リョウタに気を取られていたミナミは石畳の窪みにつま先を引っ掛けてしまった。


「ドジ。」


 リョウタはミナミがこける前に手を伸ばし、彼女の体を支えた。


「注意した矢先にこれなんて、ほんとにお前って奴は。」

「リョウくんが変な事言ったから、本当になっちゃったじゃない!」

「ほ~、オレの所為だと言いたいのか?」


 リョウタは器用に片方の眉を吊り上げ、ミナミを見下ろす。


「冗談じゃないぜ、今日はお前の御守をしに来たんじゃねえんだ。」

「あたしだって、御守なんてされる年齢じゃありませんよ~だ。」

「どうだか。」

「酷いっ!」


 リョウタは小さく溜息を吐き、ミナミをちゃんと立たせる。


「んで、さっさと今度のドレスを頼みに行こうぜ。」

「……。」

「拗ねてたら時間が無くなって、即家に帰る事になるけどいいのか?」

「……いや…。」

「だったら行くぞ。」


 リョウタはミナミの手を引いて、そのまま行きつけの店へと向かう。


「いらっしゃい――。あ、ミナミお嬢様。」

「申し訳ありませんが、本日はミナミお嬢様の夜会用のドレスを作っていただきたいんです。」

「まあ、まあ、それは腕が鳴りますね。」


 若い女性はそう言って、ミナミの手を引いていった。


「えっ…。り、リョウくん?」

「いってらっしゃいませ、お嬢様。」

「ふえええええええええええええぇぇぇぇ………。」


 ズルズルと引きずられていかれるミナミはリョウタに助けを求める視線を送るが、彼は助ける気などなかった。


「ふう…。」

「きゃあ、止めて~~。」

「あら、あら、胸の大きさが少し変わっていますね。」

「まあ、お嬢様、少しお菓子の食べすぎではなくて、ウエストが増えておりますわ。」

「あら、お嬢様くらいならこの位がいいじゃありません事?」

「うきゃああっ!」


 部屋の奥から聞こえる女性人の話に顔を真っ赤にさせ、リョウタは慌てて耳を塞いだ。因みに時たま聞こえるミナミの悲鳴はワザと無視している。


「……かなりかかりそうだな。」


 一人ごちるリョウタは仕方なさそうにいつも携帯しているペンと小さな手帳を取り出し、今回の夜会で必要なものを考え始めた。

 そして、二時間は経った頃…。


「出来ましたっ!」

「……。」


 やっとか、と思いながらもリョウタはそんな疲れた表情を表に出さず、執事の顔でミナミを見るが、一瞬の内に素に戻ってしまった。


「なっ…。」


 瞠目するリョウタだったがすぐに表情を繕った。


「どうかな……?」


 ミナミにしては珍しく淡いラベンダー色のドレスでその胸元や背中はレースや絹で出来た薔薇などで覆われているので、特別露出しているわけでないが、それでも、むき出しの腕は白雪を髣髴させ、緩く巻いた髪は胸元に落ちていて、色香を漂わせる。


「………。」

「リョウくん?」

「あ……、よくお似合いで。」

「そうでしょう、そうでしょう。わたくしたちお抱えの職人がよりに手を掛けて作った一品です。それに、ミナミお嬢様は元がよろしいので、本当に可憐な花のようですわ~。」


 手放しに褒める店員にリョウタは一瞬殺意を覚える。


「これにお似合いになる宝石は何が合うかしら~。」

「水晶は?」

「あら、服に合わせてアメシストもいいわよ。」

「真珠の耳飾もいいわよ。」

「そうかしら、アクアマリンのイヤリングがいいんじゃない?」

「髪型はどうする?」

「結い上げればいいわ。」

「まあ、それよりも軽く巻いて、降ろしておくのもいいわよ。」


 女の話は途切れる事を知らない、リョウタはいつもなら放っておくが、ミナミが彼女達の真ん中で困惑しているのを見て黙っていられるほどリョウタは冷血漢でもなかった。


「申し訳ありませんが、宝石などはわたくしめが用意いたします。そろそろ、お嬢様を休めさせたいのですが、よろしいですか?」

「え…。」

「あっ!」

「お嬢様、大丈夫ですか!」


 かなり疲労の色の濃いミナミにようやく気付いた店員にリョウタは軽く溜息を吐く。


「お嬢様、こちらにお掛けください。」

「リョウくん、ありがとう。」


 微かに微笑むミナミにリョウタの頬は自然と緩まる。


「当然の事をしたまでです。」

「あのね、リョウくん。」

「はい、何でしょう?」

「アクセサリーはリョウくんが見立ててね。」

「……なんでオレだ?」


 半分他のヤツに頼まない事に嬉しがりながらも疑問に思い、残り半分は気恥ずかしさで、そう尋ねた。


「え~、お姉様たちがリョウくんは見立てだけは、他の執事より群を抜いているって言ってたから。」

「……。」

「だから、ダメ?」


 リョウタはミナミの姉方に腹を立てるが、ミナミが小首を傾げ、そして、不安げな表情を見せるものだから、リョウタは頷くしかなかった。


「やった~。」

「……。」


 褒められたり、ミナミが喜んでくれるのは嬉しいが、しっくりとこない事にリョウタは素直に喜べなかった。


「なあ、ミナミ。」


 誰も聞かれないように声を殺して、普段の口調に戻るリョウタにミナミは小さく首を傾げた。


「見立てなんかは全部オレがやるから、頼むから他の奴《男》に頼むんじゃないぞ。」

「?うん。」


 リョウタの言いたい事が分からないのかミナミは小さく首を傾げた。

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