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女の戰い

 引き締まった四肢、ふくよかなバスト、金色の髪、そして体毛。

 イエティは名前をヴォォグと言うそうだ。数あるイエティの中でも一番お洒落な美女という意味だそうだ。

 その名の通りメタリックに光る甲虫、恐らくはコガネムシの仲間の硬い羽を、髪飾りにして付けている。

 猿にそっくりだと言われれば、確かにそうかも知れない。しかしかつて黄色い猿(イエローモンキー)との蔑称で呼ばれた日本人の間で育った墨崎には、特に違和感も感じられない。彼だってたいして仲も良くない人間にクロンボ(ニガー)などと呼ばれた時は憤り、文字通り鉄拳(・・)で制裁を加えたくもなるし実際にもやった。それこそ人種の差などを気にするなんて前世紀の下らない悪癖である。相手を真に思いやる気持ちさえあれば、言葉の壁も、育った環境の差も取るに足らない問題だった。


 ヴォォグは、聞けばおんとし若干16歳、花も恥じらう乙女である。若い盛りであり、ともすれば墨崎がロリータコンプレッションを疑われる程の年齢だ。彼は別にロリコンではない。しかし彼女は辛く厳しい環境に耐え、そしてそれを乗り越えてきた経験からか、見た目よりもずっと大人であり、そこいらあたりを歩いているような女どもと比べても、精神的にとても成熟しているようであった。

 ヒステリックに叫んだり騒いだりはおろか、べったりと甘えたりだとか、主導権を握る為の小細工めいた真似もせず、墨崎の意思を尊重し、常にお互いの立場が対等であるように、ヴォォグは努めてくれた。

 例えばヴォォグが吹雪の中、ようやく見つけた食料を、墨崎にくれてやろうといった時。彼女は、自分は満腹なのでもういらない。興味もないから、こんな物で良ければ好きに食べて下さいな、といったジェスチュアをする。墨崎がそれを受け取ると嬉しそうな顔をし、いらないと言ったものは少し時間を置いて自分で食べる。

 無粋を承知であえて言葉にするならば、墨崎は怪我をしている為、自分がそれをするのは当然の事で、その事を申し訳なく思ってもらう事も避けたい、という心尽(こころづく)しだ。

 墨崎も、彼女が帰る頃合いを見て火を起こしたり、石器を磨いておいたり、今の自分に出来て、きっとヴォォグが喜ぶであろう事をそれとなくこなした。

 そして狩りのない夜には、二人は絶えずお互いの話を……、

 そう、出会ってしばらくして会話が成立するようになると、二人の関係は一段と捗った。


 まず墨崎は白いノートブックに意味の分からない絵を描いて、当初まだ名も知らなかったイエティに見せた。グーグルルルと彼女は言った。これこそが、それは何? と言う意味である。言語学者が未開の地で言葉を知る為のメソッドだ。墨崎は事ある(ごと)にその言葉を使い、彼女の言葉を覚えていったのである。


 女というのは洋の東西を問わずお喋りが好きなもので、おそらくこの寒空の下、話し相手に飢えていたのだろう。墨崎が自分の言葉を理解出来ると知った時、ヴォォグは、ヤアァァフォォォ! と歓喜の声を上げたものである。

 狩りや話の合間に食料や薬を戦闘機から運んでもらい、巣穴もとい横穴式住居での共同生活は始まった。


 聞けば驚くべきことにヴォォグの祖母も墨崎のような、彼女の言葉で言う『異世界』からの客と一緒に過ごしたという、御伽噺のような伝承があったのだ。ヴォォグは母から聞いたそうだ。墨崎とは違い、肌が剥いだばかりの木の皮みたいな色をしており、体毛も髪もとても薄く、凍った雪を撫でて固めた(ツルツル)様だったそうである。

 それが誰の事なのか、墨崎には何となく想像がついた。

 そして、恐らくはその男であろう大学教授の主張に、限りないシンパシーを感じたのであった。


 彼女と過ごした数々の日々は、ずっと戦いしか知らなかった墨崎にとって、初めて得た安らぎの日常にほかならなかった。

 皆んながこうやって過ごせれば、きっと争いなんて起こらないのではないか。墨崎はいつしかそんな、彼にはとても似合わない感情を、いくばくかではあるが抱くようになりつつあった。


 ようやく骨も繋がり、燃料もほぼ満タンに増殖した。それでも彼はこの地を離れる決心が、まだつかないでいた。

 しかし因果宿命とは残酷なものである。

 この日、ついに墨崎の短い休息は終わりを告げる事となるのであった。


 ヴォォグに貰った貴重な食料。野鼠や、地元の住民から奪った山羊、柔らかな木の根や草のお礼に、コンテナから出した食料で、チーズフォンデュをこさえ、フォークでソーセージを食べさせてあげていたその時。

 女の甲高い叫び声が狭い穴の中に響き渡った。


「ちょっ、何それーーーーッ!」


「ま、待って。これは違うんだ! まだ何もしてないッ!」


 いつもの癖で、つい反射的に墨崎は弁解を始めてしまう。

 女に踏み込まれた時に使う常套句である。彼はこれで今までに何度も、手痛い失敗(・・)を繰り返していた。


 しかし、この女は誰だった?


 思い当たらない。当然である。スーティエは一方的に墨崎を知っているに過ぎない。しかし彼には心当たりが多過ぎて、今回も記憶からの参照が間に合わなかった。


「信じてたのにぃ!」


「ちょっと待って、話せば分かるッ」


 スーティエは問答無用で猟銃(ショットガン)を抜き放つ。


「落ち着け、ヴォォグとは何でも無いから!」


 轟音。

 ヴォォグは咄嗟に墨崎を庇って銃弾を受けた。

 彼女の胸に、穿たれる穿孔、噴き出る血汐。

 スローモーションで流れていった。


    ※    ※


 雪原に、爆発的に舞い上がる細氷の煙(ダイアモンドダスト)

 スティラコファルコが緊急離陸(ダイブアウト)で飛び立ったのだ。

 コクピットには血塗られた姿の墨崎。


「畜生!」


 水晶玉に握った両手の拳を叩きつける。

 涙を堪えて歯を食いしばり、そしてそのまま、何も言わずに飛び去って行った。

実は金髪ロリ巨乳のヒロイン二人、ヴォォグもスーティエも死んでないんですよ、後々また登場しますのでご心配なく

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