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インターミッション

 第6次世界大戦末期、世界はブッディストと資本主義陣営に分かれて泥沼の戦いを続けていた。

 そんな中、最新鋭戦闘機スティラコファルコを駆るエースパイロット、グラファイト墨崎が、味方のカトマンズ補給基地を急襲するという不可解な事件が起こった。

 パワーアームにより屋根を剥がされ、医療品と食料が強奪された。素体と呼ばれる金髪のロリ巨乳看護士(ナース)の目の前で、彼女が呆気に取られているうちに。

 逃走した墨崎と戦闘機は現在、ヒマラヤ山脈奥地に潜伏していると見られている。



 猛吹雪の中、雪洞を作る墨崎の姿があった。サバイバルの技術は軍隊で叩き込まれていた。

 しかし彼の祖先は南国の出身であり、生来寒いのは大嫌いである。

 厚い唇はひび割れ、熱き太陽の光線を遮るには都合のよい黒い肌は、今や寒さに青ざめて(・・・・)いた。

 ガチガチと歯を鳴らしながら折りたたみスコップを動かす。脚をかばいながら。


「寒いよぅー!」


 叫ぶ声も凍りつき、白い氷の欠片となって唇にへばりつく。

 何も好き好んでこんな僻地に降りた訳ではない。パロからムンバイ(ボンベイ)までは少しばかり燃料が足りなかったのだ。

 霊峰(デヴァドゥルガ)と呼ばれる世界最高峰を頂としたヒマラヤ山脈は、入り組んだ地形や聖地としてのスポットパワーもあり、レーダー探知のみならずESPによる捜索をも阻害する……一時身を潜めるにはもってこいの場所であった。

 その筈であった。降りた直後には空もまだ晴れていたというのに。


 もちろん当世の戦闘機では当たり前のように、適当に水と有機物を放り込んでおけば微生物(プランクトン)が炭化水素を作ってくれるマイクロプラントを、増槽の代わりにぶら下げてはいた。が、それにはやたら時間がかかる。更に、ここは高地過ぎてプランクトンが活発に増殖するにはいささか温度が足りない。しばらくはこの場所で耐える必要があった。



〜〜〜〜※5読み飛ばしてもいい部分〜〜〜〜


 余談であるが、ブッディスト達が国際石油資本(メジャー)たちから自由でいられたのは、秘密裏に行われた研究:オーランチオキトリウムという、ラビリンチュラ類真核生物の培養で、代替燃料を効率的に生産するテクノロジーが確立された事が最も大きな要因である。


〜〜〜〜〜〜〜〜



 さらさらの粉雪(パウダースノー)の所為で、穴を掘る作業は思うように捗らない。幾度も挫折しそうになる。


「寝るなァ! 寝たら死ぬぞォ!」


 自分に言い聞かせ、頬を拳で殴る。一人芝居で傷口を更に悪化させ、墨崎は雪原に倒れ込む。痛みと寒さに打ち震えながら、仰向けに大空を見る。吹き荒ぶ白い悪魔(ゆき)の隙間から畝る鼠色の雪雲が見える。


 雪洞にトーチを灯し、中で暖かなチーズフォンデュを食べるのだ。働かなければ。


 はぁ、このまま楽になれたらいいのに。


 何もかも忘れて。痛みももう感じない。


 いちめんの銀世界に包まれて……。


 顔に瞼に容赦なく降り積もる雪は溶けようともしない。僅かに顔を逸らして払い落とす。と、目があった。覗き込む、毛深い顔と、生臭い息。


 ヒマラヤに来てイエティに遭遇しない主人公が未だかつていただろうか。

 その件については東京大学教授、小川県三氏の研究に詳しい。

 UMA…未確認生物に付いて少しでも興味を抱いた経験のある読者諸兄ならばその尊名は当然ご存知であろう。

 深い山奥に遭難してしまった彼は、イエティの雌に惚れられてしまい、巣に拉致監禁された後脱出。その冒険奇譚は世界中に翻訳されベストセラーとなった。

 しかし彼は肝心の生息地について、生涯一度も語る事はなかった。研究者としての自分よりも男としての自分、かりそめにも愛してしまったイエティへの想いの方が(まさ)ったのだと、心ない研究者から失笑を買いながらも頑なに我を通し切った。

 発見された生物が、人と変わらない心や文化を持ったものならば、彼や彼女を標本や研究材料として扱う、倫理的な根拠はどうなるのか。

 彼はヒマラヤのイエティに関して果てしない議論と真に驚くべき業績を残したが、それはまた別の話、この余白はそれを書くには狭すぎる。

 余談はこれくらいにして、墨崎である。


 言葉は通じない相手であっても、グラファイト墨崎の研ぎ澄まされたESP、テレパシー能力にかかれば造作もない。


 イエティは、墨崎が食べ物かそうでないかを推し量っていた。


 釈迦がある時花を摘み、弟子たちに無言で見せたという。皆が何をやっているんだこの人は、とぽかーんとしている中で摩訶迦葉(マハーカシャパ)一人だけが顔を崩して微笑んでくれたというエピソードがある。

 テレパシーとはその延長にあり、敢えて言葉を使用しなくとも相手の心をイメージし、真意を探し当てる、又はそれを伝えられる能力である。


「おいしく、ないよ」


 墨崎はあえて日本語で、イエティに喋りかけた。


「グルル」


 もう一度。


「俺を、食べても、おいしくないんだよ」


 ゆっくりと、意思を持って、何かを伝えようとしている。それだけは、この毛むくじゃらの動物にも分かった。


「ウゴア」


 イエティは小刻みに頷き、凍えて震えている墨崎を抱える。


「痛ッ」


 折れた右足を庇う墨崎を見て、怪我をしているのだと理解したようだ。

 優しく、怪我を労わりながら、イエティは墨崎を抱き抱え、吹雪の中を歩き始める。


 連れて行かれたのはイエティの巣であった。

このイエティは最後の最後で最も重要な役割を果たします

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