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傷心のブルーポピー

 ポケットティッシュで鼻血を止め、あちこち傷ついた身体をさする。

 最悪の気分だった。

 アドレナリンの興奮はとっくに鎮火していた。

 酒が抜けて二日酔いの頭も痛い。

 折れている左の大腿骨もずっと悲鳴をあげている。

 痛み止めも切れた。

 身に降る火の粉を払っただけなのに。


「ふええ、つらいよう。痛いよお。もぅダメだぁ」


 海抜20000フィート、狭いコクピットの中。いくら大声で泣き言を(つら)ねようが、聞き耳を立てるのは(ただ)フライトレコーダーのみ。全世界の誰にも、盗み聞きされる様なことはない。

 エースパイロットで強面の墨崎が、心の中の弱い自分を堂々と晒け出せる稀有な場所であった。



〜〜〜〜※4読み飛ばしてもいい部分〜〜〜〜


 航空電子機器(アビオニクス)は一昔前のグラス・コクピット(アナログ計器類を排しディスプレイ表示にしたもの)に変わり、霊感(インスピレーション)を指示や表示に変えるインターフェース、水晶玉(・・・)が鎮座している。

 機体の操作も各種情報も一括して扱えるこの最新技術は、クリスタル・コクピットと呼ばれる。透明な球体を見つめながら撫でまわす、その姿はさながら占い師のようである。

 思考や知覚を直接(ダイレクト)かつ双方向(インタラクティブ)に伝達出来るメリットは絶大であった。……手が発汗(パースピレーション)するとベタベタして気持ちが悪いという欠点を除いては。

 ちなみにナイトライダーだとかアスラーダよろしく喋りかけてくれたりする機能は無駄なので、ない。


〜〜〜〜〜〜〜〜



「ううん、平常心。平常心」


 ぷるぷると震えながら墨崎は、愛読書の次郎物語に出てくる台詞を、すがるように唱える。


 いざ、向かうは最寄りの航空基地、旧ブータン帝国のパロ空軍基地である。

 かつては世界一着陸の難しい空港と呼ばれ、ローヤルブータン航空のみならず、乗り入れるネパール、仏陀ブッダ)・エアーの腕利きパイロットをもてこずらせ、「あそこは行くの嫌だなぁ」と言わしめたその場所だ。

 原隊であるバングラデシュ空軍基地の103(ヒトマルサン)航空隊、日本からの出向先であるが、直帰は気まず過ぎる。酔ってのケンカに戦闘機・・・を持ち出して、あげく街を破壊しておめおめ帰る根性を、さすがの墨崎も持ち合わせてはいなかった。


「しかし、一体何だったんだあいつらは。対戦車砲なんて出して来やがって、俺じゃなきゃ死んでたとこだ」


 ま、ビルに砲撃したのは自分ではないし。撤退で少し(・・)急いでしまったのも不可抗力、超音速の衝撃波(ソニックブーム)で吹き飛ばされた人も運が悪かったと思って諦めてもらおう。


 と、あっさり平常心を取り戻す墨崎は、メンタルの強い方だった。

 気でも紛らそうと音楽を掛ける。カーステのような贅沢装備はさすがに軍用機には付いていないので自前(・・)のラジカセを積み込んで、配線はジェネレーターから無理付けしてあった。もちろん堕ちた機の脱出ポッドから回収した再利用品である。

 お経タイトルに偽装したブルーズを適当に選曲して流す。スリルが無くなっちまった、と名盤の歌手が歌い始めた。俺は自由さ。今、解き放たれたんだ、と……。


 そのうちに、水晶に目的地のマーカー・ビーコンが浮かび上がった。

 Gが掛かる運転は避けたいのだ。

 自動着陸装置(オートマ)なんかに任せてはおけない。

 水晶玉に映るイメージ内で、操縦桿を優し〜く、撫でるように引き、地面と極力平行に、超長距離から着陸態勢(アプローチ)に入っておく。

 着陸速度は抑えたいがタッチダウンのショックもあってはいけない。

 フルフラップ、スラストレバーは超微速、エコカーもビックリのトロトロ飛行だ。微風の横風に当てて、僅かにヨー(鉛直軸周りの回転)を捻りながら、トリムを微調整する。


『ダメです』


 無線が乱入した。墨崎は思わず手を滑らせ、機内持ち込みのラジカセを足の上に落として悶絶した。


『着陸は許可出来ません』


「はァ?」


 意味が分からなかった。


『機体識別コードJPN-072DSF、グラファイト墨崎さんですね、先の帝都防空戦では大変お世話になりました』


 地上、管制塔からだった。

 問答無用で降りて、とりあえず一発ぶん殴ってやろうか、と息巻いていたところ、意外な回答に気を抜かれてしまった。


『あなたとその機体には撃墜命令が出されています。

 全軍に、です』


 だがやはり殴ろう。着陸脚を展開すると、ロックオンアラートが響いた。


「マジかよ…」


 脚をたたんでしぶしぶ回避行動を取る。ただの旧式のレーダー照射だが、所詮威嚇と侮って、それで墜とされたらそれこそ単なる間抜けだ。

 戦闘機は速度の低い、離着陸時が一番弱い(・・)


『無駄ですよ。東南アジアから清皇国(チャイナ)自由(フリー)チベット連邦一帯は全部、我々の勢力下です、ご存知でしょう?

 何処へ行こうが、殺られるのは間違いないですよ、墨崎さん。四面楚歌って奴です』


「俺が何をした!」


 ……心当たりが、ない訳ではないが。


『存じ上げません。我々としてはただ命令に従うまでの事です。

 たとえ逃げようとしても、この辺りで中立国なんてツァトラストラ教・ジャイナ教共同自治区、ムンバイ(ボンベイ)しかありませんし』


「この野郎! 恩知らず! どうしろってんだよ!」


 怒鳴りつけて、ふと気付いた。奴は、教えてくれようとしている。


『他には統一コリアも儒教の勢力下にあり中立ですが……あなた日本人ですよね。仲悪いですよね』


「コリアか。あいつらが一方的に日本人を嫌ってるんだろ? 俺は全然気にしてないぜ」


『ほらね、そういうとこ。まあ、どちらにせよ、あなたが勢力外に逃げられない(・・・・・・)事を、我々としては祈るばかりです』


「管制官、お前の名は?」


『シゲミ・ボンボ・ヤージュ・ワンチュク。王宮に迫るICBMを、貴方がただ一機、そのアームで文字通り叩き潰す所を拝見しました』


 そんな事もあったかも知れない。墨崎は過去をあまり振り返らない性格だったので忘れていた。幾たびも戦闘を繰り返して、無駄に恨まれる覚えだけは数え切れないほどだったが……。


「感謝する。ワンチュク」


 恩知らずではなかったという訳だ。しかし、罠でないとも限らない。


『何をおっしゃいますやら。私は忠実に命令を遂行しているに過ぎません』


「俺を見逃したら、命令違反になるんじゃないのか?」


『残念ながら、ブータンは未だ貧しい。スティラコファルコに追い付ける航空機はありません。当たらないと分かりきったミサイルを、無駄に飛ばす予算だって』


 苦しい言い訳だ。高Gが傷にひびくので、戦闘はおろかミサイル回避などもっての外な、今の墨崎にはありがたい。


『しかし既に援軍は要請してあります。もう一時間足らずで、カシミールからの航空師団が届くでしょう。私の役目は、ここであなたを足止めする事なのですからね』


 どこかツンデレに見えてきた管制官に別れを告げると、アフターバーナーを一瞬だけ点火させ空に排気煙の輪っかを作ってから、逃走した。

 無線が追いかけて来て、


『この戦いが終わったら、いつかまたブータンに遊びに来てください。自家製の美味い焼酎(アラ)をご馳走しますよ』


 と爽やかに語った。

次章でようやく、かわいい金髪ロリ巨乳ヒロインが登場します、乞うご期待!

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