墜ちた棘隼
面倒くさくて邪魔くさい設定の説明なんかは、にょろにょろで区切って読み飛ばしてもいい部分と書くことにします。
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読者様のストレス軽減です。
本文で、何言ってんのかわかんない部分があった時だけ参照程度に見てもらえれば、多分ですけど分かると思います。
スピード、アクセル、ドライヴ、エトセトラ。
向精神薬の歴史は戦争と切り離せない。
例えば特攻隊の恐怖をなくすヒロポン、現代でもなお航空自衛隊員はアンフェタミン類の使用が合法である。
イギリス東インド会社の流通させた麻薬に清国が抗って負けた阿片戦争はいわんやをや。
ベトナム戦争で常用されたコカイン。
古くはアサシンの語源。山の老人はハシシュを使ってあたかも異世界のごとく桃源郷を作り、暗殺者の集団を育て上げた。
そして第6次世界大戦末期、新たなドラッグが開発される。
その名も……ニュートラル。
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第8世代戦闘機スティラコファルコの被撃墜数ゼロ記録に初黒星を付けたのはグラファイト墨崎だった。墜としたのではない、墜とされたのだ。
〜〜〜〜※1読み飛ばしてもいい部分〜〜〜〜
ステルス、アフターバーナーなしでの超音速巡航、フライバイライトなど当時の先端技術は、美しい戦闘機を単なるミサイル発射台へと堕落させた。
しかしレーダーをはるかに上回るESP感知技術の発達によりそんなものはすぐに過去の遺産の黒歴史となる。そして新たにはむしろ格闘戦、ドッグファイトの能力が最優先される事となった。
どんなにレーダー波を反射しない機体であっても、ESPなら見逃さない。ならば幾ら隠れようとも無駄な事で、攻撃力や機動力に制限のかかる形状のステルス機など程のいい的、サンドバッグにしかなり得なかった。
その反省を加え、第7世代は前進翼、ベクターノズルに加えて三連大径フライホイールによる直角駆動とそれを操る脳神経インターフェース。
そして第8世代戦闘機には、上空での文字通り格闘戦、その極致。殴り合いをする為のパワーアームが備え付けられた。背面に収納出来る、まるでユンボのように無骨な………。
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迫り来るミサイルを垂直駆動で軽々と避け、それでも食らいついてくる一発にパワーアーム先端からのレーザーメスを浴びせる。三爪の傷に裂かれ、ミサイルは爆発四散する。
相手は旧式のF-23だ、イカにそっくりな機体をくねらせて反転する。
競合だったロッキード社のYF-22に競り勝って量産された、ノーストップ・グラマンの第5世代戦闘機、スパイダー。
プラットニー&ホイットのエンジンはジェネラルエレクトック製に換装してあるようだ。熱源感知除けの長い吸熱ノズルも取っ払って推力偏向を無理付けしてある。
しかし墨崎はまさかこんな旧式に遅れを取るようなことはあり得ないと慢心していたのだ。
姿勢制御のフライホイールをぶん回し、ジャイロを効かせて旋回半径をねじ曲げる。超電導のスパークが散る。ベクターノズルもフル稼動だ。ターンと呼べないほど鋭角に、弾けるように……およそ飛行機のマニューバではない。むしろ一昔前の漫画のUFOの方がまだマトモな動き方をする。逃げるF-23に苦もなく追従し、すかさず背面飛行で並走すると、パワーアームで殴りつけた。
ESPによって位置など手に取るように分かるし、機体のコントロールもイメージ通り。蝿を追うより簡単だ。
ミサイルは手のレーザーメスで気楽に払える、居眠りでもしない限り機銃のラインに乗る事もあり得ない、接近されて殴る腕も敵にはない、負ける要素がないのだ。
当時の覇権国アメリカはこの機体で制空を確保していた訳だから恐れ入る。予算という一番の強敵とも戦いつつ。
この頃の、などと限定はしないが戦闘機など繊細なジュラルミン製の凧に過ぎず、ぶん殴ればすぐにもフレームを歪ませる。
鼻歌交じりでいじめてやるとパイロットはもう諦めたようで、キャノピーを吹っ飛ばして両手を挙げる。
少しずれて場所を空けてやると脱出した。見捨てられた機体はきりもみしながら降下してゆく。
落下傘が開く。
パワーアームでVサインを作って合図を送ると米兵崩れのように見える彼は悔しそうに空中で地団駄を踏んだ。
ガッデーム! シット! 声が聞こえてくるようだ。あるいは更に酷い四文字言葉か。
近くを鈍足のおんぼろプロペラ機が飛んでいた事に、気付いて居なかった訳ではない。
決して、負け犬パイロットを嘲笑するのに気を取られた訳でもない。
「あ…」
全く脅威でなかった筈のそのプロペラ機から、飛び出した弾体がスティラコファルコを貫いた。
墨崎の乗るスティラコファルコの機体は千切れ、ホイールが三つ、明々後日の方向に弾け飛んで行った。
何のことはない、退役したズムウォルト級駆逐艦からの払い下げをデチューンして載せたレールガンを、恐らくは今日日良くあるフライホイールで溜めていたエネルギーを電気に変えて撃ち出したのだ。
最初から罠だった。旧世紀の遺物たちにしてやられたという訳だ。
※ ※
格闘戦に負けたグラファイト墨崎は腐っていた。
救助部隊に拾われ、大腿骨骨折程度の怪我で命拾いしたのは不幸だった。華々しく散っていればこんな辱めを受けることはなかっただろうに。
「よう、ステルスに負けた墨崎ちゃんじゃねえの」
「いやステルスじゃねえっすよ、プロペラ機なんだってよ。なっ、ステルスは墜としたんだもんな?」
「クッ、いっそ殺してくれ!」
生き恥を晒すくらいなら、と墨崎は一気にバーボンを空ける。
行きつけの隠れ家的ショットバーだ、知り合いは滅多に来ないと思っていた。
声を掛けてきたのはマークとキューティ、パイロットの同僚だ。わざわざ探し出して来たのだろう。
隅に設置されたジュークボックスから流れるレコードはデンジャーゾーン。奴らが戯れで選曲したのだ。
マルヨンでイーグルを狩ったという伝説のご先祖さまに、その英霊に申し訳が立たない、と今や亡き、大日本帝国の末裔である墨崎は悔し涙を隠しきれない。
ちなみに日本は原発が52個メルトダウンして滅んだ。数珠を持って被災地で手を合わせる僧侶の写真は今も画像サイトに残っているので、見たことのある人もいるかもしれない。曽祖父の世代の事だった。国は滅んだが、誇り高い日本人の魂は決して消え去りはしない。墨崎はそれに恥じる事のなきよう、つねにたゆまぬ努力をしてきたつもりであった。
〜〜〜〜※2読み飛ばしてもいい部分〜〜〜〜
仏教原理主義で過激派のテロリストがベナレスを奪還するという声明を出し、同調した世界中の坊主が、旧支配者たちに反旗を翻した。それが今回の大戦の発端であった。
敵対するその勢力の殆どは、過去の栄光にすがる米国関係者の成れの果てで、かつての軍事力・金融支配・鼠の国に代表されるアニメーションなどによるプロパガンダと洗脳の、いまだ抜けない拝金主義の幻想家たちだ。覇権が続いていると思いたがるのは、歴史的に珍しい事ではないし、実際に無力化して消滅する訳でもない。主権の移った事を曖昧にしたまま形だけ存続するのも、よくある話だ。折しも耶蘇教は回教との解釈の違いによる長年にわたる内輪もめと確執で疲弊していた。
近代の資本主義社会と現代的な精神世界との対立、一言で言えばそれがこの戦いの総括であったと後世の歴史書には書かれる事となるのであるがそれはまた別の話。
グラファイト墨崎はパイロットとしてブッディスト陣営に育てられ、諸行無常を叩き込まれたエリートだ。
そもそも厳しい修行を積んだ僧は一般市民や兵士と比べてESPの発動力が極めて高い。
野蛮な勇気やカラ元気、勢いだけで戦いに勝てる時代はとっくに終わっていた。高い精神性こそが、現代の戦争の必須条件だった。
頭に精神波の受信装置である肉球を付けた兵士たちは阿修羅のように戦い、決して怖れず、指揮系統をも乱さない、のみならず被占領地での略奪行為や市民への暴行なども抑制し、治安の良さに貢献した。
こんな話がある。それまで世界最悪の治安を誇るある街、犯罪発生率が150乃至200%という、犯罪にあって警察に行くまでにもう一度犯罪にあうような場所をブッディストが占領した。三ヶ月後、人々は改心した。
そんな事情もあって人民の支持も厚く、戦況は優勢であった。
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「修理代200億、給料天引きだってよ」
「修理っていうか、何も残ってないっすよね、何処から手をつけて直すの?」
「彼奴はどこかおかしかった。敵意だって微塵もなかったんだ」
そう、ESP感知とは位相のみならず敵の戦意をも察する能力だった。プロペラ機が強い殺意を持っていたのであれば、気付かない道理はなかった、例えそれが遠隔地から操作された意思であったとしても。
脅威に感じなかったのには、明らかに何か原因がある。見てくれや低いスペックに誤魔化されただけでは決してない、と墨崎は少々言い訳めいた考えではあったが、うすら寒い予想を禁じ得なかったのである。
戦闘機などの名称を一部変更しました。
勘違い歴史観みたいな世界にしたいので。