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ワンス・アポン・ア・タイム・イン・牛

懲りずにまたまた、このような書き物を投稿してしまいました。

よろしくお願い致します。


 起


 むかしむかし、源氏と平氏とによる二大勢力の争いが、日本でおこっていました。源氏の総大将である源義朝みなもとのよしともは、ついに平氏の手によって倒されてしまいました。この義朝の妻である、ときわは、幼い二人の子と、そしてその胸元には乳のみ子をかかえていた為に、ひっしに平氏たちから逃げて隠れていたのですが、それもとうとう、見つかってしまい、平清盛の前に突き出されてしまいました。

「その方が、義朝の妻だな。そしてその子らは間違いなく義朝のであるな。直ちに首を撥ねよ」

「お待ちください。私の命はいりませぬ。そのかわり、この子たちの命だけはどうかお助けください」

 ときわの、このようなひっしの頼みを聞き入れた平清盛は、七歳の今若と五歳の乙若はすぐに、胸元の牛若は七歳になったらそれぞれ寺へと入れるよう約束をしたのでした。




 またたくまに七年が経ち、牛若は鞍馬山の鞍馬寺に入れられました。別れ際に、母からの優しい気づかいと父の形見の笛を受け取り、牛若は涙を滝のように流していました。牛若は牛若丸となり、厳しい修行生活を送っていきます。

 あれから時は流れて、牛若丸は背丈五尺八寸の、筋骨隆々な逞しい美丈夫と成長していました。水もしたたるイイ男。額の浅い“瘤”と、ニヒルな芳忠ヴォイスが大変特徴的でした。厳しい修行と勉強に励んでいきます。


 ジャンジャン、ジャジャジャン、ジャン・クロード。

 ヴァンヴァン、ヴァヴァヴァンヴァンヴァ、ヴァン・ダム。

 鞍馬寺で、筋肉フィーバー!

 WOW!!!!


 そんなある日、若様と呼ばれたので、牛若丸は勉強の手を止めて外へ出てみると、そこには見知らぬ坊主がいました。その男は、牛若丸の前までくると片膝を突いて、頭を下げました。

「若様、会えて嬉しゅうございます。わたしは鎌田正近かまたまさちかという者で、貴男様のお父上である源義朝公にお仕えしていました。その総大将の義朝公は、平氏の平清盛の手によって殺されてしまったのです」

「な、なんだと!?」

 衝撃の事実に、半身に構えます。

「それはまことか!?」

「はい。これ以上、平氏の力を広げてはなりませぬ。我々と共に平清盛を打ち倒し、そして源氏を再興いたしましょうぞ!!」

 こう力説している鎌田正近のもとから、牛若丸は離脱をすると、山中へと駆けてしまいました。いまだ若いみそらで、次々と衝撃的な事を聞いていた牛若丸には、それらを背負うにはあまりにも重い事柄に、身を筋肉を震わせて嗚咽をしていきます。そのような牛若丸の姿を、木の上から見ていた者がいました。ひとつ歯の黒い下駄を履いた、山伏のような身なりに、背中から白くて大きな翼を生やした者です。その者は、いつまでも泣き止まない青年の前に“ひらり”と舞い降りるなりに、蹴飛ばしてしまいました。落ち葉を散らしながらも受け身をとった牛若丸は、すぐさま身構えて、その者を睨みつけていきます。

「お前は、何者だ!?」

「儂は、この山に住む天狗じゃ。いつまでもメソメソとしくさりおって、それで源氏が再興できるとでも思ってか。この“たわけ”!!」

「天狗だと。勝手に蹴飛ばしておいて、勝手に好きほうだい云ってくれるじゃないか」

「む? それでは、この儂をどうするつもりじゃ」

 半身で構えている牛若丸に対して、天狗は片方の眉を上げて挑発をしていきます。すると、これに乗った牛若丸が、地を蹴って飛びかかってきました。

「捕まえてやる!!」

「ふははは。若いの、やってみるが良い!」

 そうして二人は、さらに山の奥へと入っていきました。


 ジャンジャン、ジャジャジャン、ジャン・クロード。

 ヴァンヴァン、ヴァヴァヴァンヴァンヴァ、ヴァン・ダム。

 鞍馬山で、筋肉フィーバー!

 WOW!!!!




 承


 そして、捕まっていました。

 牛若丸が縄で縛られています。

 その姿は、褌一枚。

 亀の甲羅を象った縛り方。

 キッコウ縛りと云います。

 目を覚ましてみたら、あら不思議。

 なにやら御堂らしき中です。

 真っ暗闇の壁のまわりに、火を点された蝋燭がいくつもありました。白い漆喰を、橙色に弱く照らしています。見渡していた闇の中から、なにかが大きく弾けるような音を聞いたので、その方に顔を向けてみれば、吃驚仰天。先ほど追いかけていた天狗がいたではありませんか。一枚歯の下駄を鳴らしながら、牛若丸に近づいたときに、手に持った鞭で床を叩いたら、さっき耳にした弾ける音を鳴らしました。固く結んでいたへの字の口元を開いていき、天狗が牛若丸にへと語りかけていきます。

「牛若丸よ。この儂を捕らえる事ができなかったのは、何故だと思う」

「さあ……。貴方が天狗だからか」

「馬鹿者!!」

「いぇっす!!」

 天狗の放った罵声とともに、逞しいその背中に鞭を打たれた牛若丸が、反射的に大きく身をそらせたのと同時に、躰じゅうを縛っている縄も反応して、それら各所をキュッと締め上げていきます。

「お主の修行が足らぬから、この儂を捕らえる事ができなかったのだ。もっと修行するのじゃ!」

「あう!!」

 再び、鞭が振るわれていきます。

 これを機に、天狗は容赦なくその無防備な背中へと鞭を打っていき、時々、もう片方の手に持っている赤い蝋燭から液を垂らしていく、といったことを繰り返していきました。その間じゅうは、御堂の中には、牛若丸へと向けた天狗の激励といか罵声が響き渡っていました。

「修行が足らん。もっと修行しろ!」

「おぅ、ぃえっす!!」

「目指すは打倒平氏!」

「まいがっ!!」

「目指すは源氏の再興!」

「んんっ!」

「その為には修行じゃ修行じゃ!!」

「あうっち!!」

「修行すれば良い!」

「おおう、かみん!!」

「修行するのじゃ!」

「んんっ! いぇっす!!」

「修行するぞ!」

「おおう、いぇっす!!」

「修行するぞ! 修行するぞ!」

「おおう、まいがっ!!」

「修行するぞ! 修行するぞ!」

「おぅぃえっす!! おぅぃえっす!!」

「修行するぞ! 修行するぞ!」

「んんっ! かみん!!」

「修行するぞ! 修行するぞ!」

「えっくせれんんっつ!!」

「修行するぞ! 修行す―――!!」

 その時です。

 目の前でキッコウ縛りが弾け飛び。

 顔面に鋭利な肘鉄を受けて。

 鼻柱を砕かれ。

 下腹部に強烈な踵を撃ち込まれ。

 天狗は吹き飛んで壁に当たりました。

 蹴りを決めた牛若丸が構えます。

 壁からずり落ちた天狗に肩を貸して立たせた牛若丸に、満足したかのような声で話しかけていきます。

「見事だ、牛若丸よ。修行が実ったのじゃ。これでお主は天狗の力と鬼の力を備えた立派な武将になれる。素晴らしい蹴りだったぞ」

「ありがとうございます。先生!!」


 ジャンジャン、ジャジャジャン、ジャン・クロード。

 ヴァンヴァン、ヴァヴァヴァンヴァンヴァ、ヴァン・ダム。

 これぞ、牛若アクション!!

 ヴァンダホーーーーー!!




 転


 それから、時と場所は移り変わり。

 五条大橋。

 この大橋に、ひとりの大柄な僧兵が立っていました。背中に幾つもの刀や薙刀を抱えて、橋に脚を根ざしています。この僧兵は、武蔵坊弁慶といい、身の丈は六尺五寸をほこる、彫りの深い顔立ちをしていました。その弁慶の目の先、橋の向かい側から、笛の音が響いてきました。それは徐々に近づいていき、姿を現すなりに、演奏を止めて笛を下ろしていきます。このように現れてきた者に対して、弁慶が、野太さが大変魅力的な明夫ヴォイスで話しかけていきました。

「お前が牛若丸だな」

「いかにも」

「俺は武蔵坊弁慶。俺の背中には今、九九九もの武器を背負っている。あとひとつで、ちょうど千だ」

「なるほど」

「その千本目だが。お前から奪い取って、切りの良いところとしてやる。覚悟しろ」

「できるものならば、やってみろ」


 ジャンジャン、ジャジャジャン、ジャン・クロード。

 ヴァンヴァン、ヴァヴァヴァンヴァンヴァ、ヴァン・ダム。

 五条大橋de筋肉フィーバー!

 WOW!!!!


 そうして、牛若丸をめがけて薙刀を振るいましたが、木の葉のごとくかわされてしまいます。むう……!と唸って、再び薙払うも、それはただ虚しく空を斬るのみで、牛若丸に一太刀入れられません。突いても、袈裟に振り下ろしても、横一線に斬っても、半月を描いても、なにを繰り出しても、それらの技は空を斬るだけでした。そんな弁慶は、じぶんでも珍しく思えるほどに息を切らしていました。それでも諦めずに、力を振り絞った一撃を放った瞬間に、牛若丸の躰は綿毛のように舞い上がって、刹那的に薙刀の腹に乗ったと思ったその時に、弁慶の額を畳んだ扇子で軽く叩いたのでした。

 そして、離脱して舞い降ります。

 これに対し弁慶は、薙刀を下げて力を抜いていきます。

「俺の負けだ」

 と、敗北を認めました。




 結


 あれから暫くして。

 修行を終えてから鞍馬寺に戻ってきた牛若丸は、中に人の気配を感じないことに奇妙さを覚えました。胸騒ぎを覚えて、御堂まで駆けてくると、息を殺していきながら静かに扉を開けて、抜け足差し足で入っていきました。すると、薄暗い中に、キッコウ縛り姿の天狗と鞍馬寺の住職と鎌田正近とが、捕らえられているではありませんか。何事かと駆け寄った牛若丸は、天狗の口から猿轡さるぐつわを外してあげました。

「先生、いったいなにが」

「牛若丸よ、お前さん、とんでもない奴を相手にしおったな。何故、徹底的に打ちのめして負かさなかったのじゃ」

「なにを仰っているのです」

 そう疑問を投げかけたときに、薄暗い闇の奥から、重々しい足音を鳴らしながら巨大な影が姿を現してきました。この影に気づいた牛若丸は、見上げて「お前は……!」と驚きの声をあげました。

「そうだぞ。やるんなら、徹底的にしとかないと後からこのようなめにあうんだ」

 こう吐き捨てたのちに足を突き出して、牛若丸を蹴飛ばしていきます。扉を突き破って御堂から飛び出した牛若丸は、受け身をとって胸板をさすります。

 武蔵坊弁慶の再挑戦です。

「五条大橋のときは負けを認めてしまったが、よくよく考えてみたら、お前からその腰の物を奪っていなかったんだ。よって、一千本目をいただかないと勝負は着いたとは云えん」

「そんな都合など知るか。人質など卑怯だぞ!!」

 叫びとともに、弁慶の頬を左右を拳で殴ってはみたものの、堪えてはいませんでした。今度は顔面のド真ん中を狙って拳を撃ち出した途端に、掴まれてしまい、捻り上げられてしまいました。キツい角度で捻られた牛若丸は、思わず苦悶の声をあげます。その牛若丸の腹に、弁慶の重い拳が撃ち込まれました。続いて、拳のまま往復に顔を打たれていきます。そして、襟首と帯の後ろを掴まれて放り投げられた牛若丸は、地面に腹を強打。あまりの痛さに咳き込んでいきます。

「お前の力はそんな物か。この程度なら、お前の殺された親父さんが悲しむぞ! 源氏の再興などは、夢のまた夢だな!!」

 このひと言に反応したのか、牛若丸は力強く立ち上がっていき、弁慶に向き合って構えます。そんな牛若丸の背後には、燃え盛る炎が見えたような気がします。とどめとばかりに高いところから振り下ろされた弁慶の拳が、掴み取られました。そして、力強く捻り上げられていきます。

 源氏の運命。

 全身の毛穴で受けとめろ!!

 歪んだ歴史は牛若丸が許さねえ!!

 ヴァンダミン、GO!!

 顔面の真正面を拳で連打。

 腹に横一線の蹴りを一発。

 垂直に跳躍して、顔面に蹴りを。

 再び跳躍して身を捻り顔面に蹴り。

 みたび、垂直に跳躍。

 見事に開脚されたその姿は、銘刀。

 その切っ先で、頭を叩きつけた。

 美しい開脚。

 流星刀のごとき美しさ。


 これぞ、まさしく。

 ヴァンダミンアクション!!

 ヴァンダホーーーーー!!!!


 このあと、完全な敗北を認めた弁慶は、牛若丸に忠誠を誓うことを約束しました。



 漢(完)!!





最後まで、お読みしていただきまして、ありがとうございます。

またなにか固まったら、投稿したいと思っていますので、よろしくお願い致します。

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