アダージョ・カンタービレ
十二月二十六日、アパルトメントに小包が届いた。
「旦那様からです」
エドモンが部屋に持って来て、シェリフは訝しさに眉を寄せた。
「何も聞いてないけど」
「ノエルのプレゼントなのでは? 一応スキャンしましたが、不審な点はありませんでした」
「俺達以上に筋金入りの無神論者な父さんが、このタイミングで何か送りつけてくるなんて不審極まりないが」
ぶつぶつと言いつつ、今朝方ローズに返したオルゴールより一回り大きな箱を、シェリフは受け取る。
宛名はアルベールが直々に書いていた。一部の者しか知らない、直筆と判別できる印が付いている。
軽い。振ってみると、かさかさと音がした。ほんの少し固い物が入っているのか。
包み紙を剥がして箱の蓋を開ける。二つ折りのカードと、丸っこい黄みがかった針金細工のような物が見えた。
「コレって……」
針金でなく、球形に枝がはびこった植物。一端に小綺麗なリボンが付いており、それを摘まんで取り出すと、エドモンが笑いをこらえるように下を向いた。
コレの下では争うなかれ。
コレの下でノエルにキスをした男女は結ばれる。
ヤドリギである。
リボンを摘まんでいた指を放せば、小ぶりのヤドリギは箱にすぽんと落ちる。
不機嫌に、シェリフはカードを開いた。
【ローズのコト、そんなに気に入ったんだ?】
こめかみが、ひくついた。
カードを握り潰し、シェリフは眼前の執事を見据える。
「屋敷の他の者では〝リア〟への態度がおかしくなるから、俺を知らないローズが来たと思っていたんだが?」
「仰る通りと思います」
笑いで震えかけた声でエドモンは応える。
「へぇーえ、じゃあ何だ、コレは」
「ひと段落したのに、ローズを屋敷に戻さないからですよ」
シェリフは口をへの字に曲げた。
「ローズが、ここに居ていいですか、と言ったんだ」
ちょっと潤んだ青灰色の瞳で、縋るように。女性で対していなかったら、誤解しそうな風情を醸して。
無理に笑いを収めたのが丸判りの顔つきで、エドモンは述べた。
「取り敢えず、間に合いませんでしたと旦那様にお電話しておきます」
「何がだ。無視でいい」
箱に蓋をすると、シェリフはデスクの抽斗に放り込んだ。
一瞬、ヤドリギ自体に父のメッセージを深読みしかけたが、思考を放棄する。
自分がまだまだ途上に在ることは、承知していた。