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シェリフ ―Cherif―  作者: K+
Sonata Pathetique 2nd mov.
8/22

アダージョ・カンタービレ

 十二月二十六日、アパルトメントに小包が届いた。

「旦那様からです」

 エドモンが部屋に持って来て、シェリフは訝しさに眉を寄せた。

「何も聞いてないけど」

「ノエルのプレゼントなのでは? 一応スキャンしましたが、不審な点はありませんでした」

「俺達以上に筋金入りの無神論者な父さんが、このタイミングで何か送りつけてくるなんて不審極まりないが」

 ぶつぶつと言いつつ、今朝方ローズに返したオルゴールより一回り大きな箱を、シェリフは受け取る。

 宛名はアルベールが直々に書いていた。一部の者しか知らない、直筆と判別できる(しるし)が付いている。

 軽い。振ってみると、かさかさと音がした。ほんの少し固い物が入っているのか。

 包み紙を剥がして箱の蓋を開ける。二つ折りのカードと、丸っこい黄みがかった針金細工のような物が見えた。

「コレって……」

 針金でなく、球形に枝がはびこった植物。一端に小綺麗なリボンが付いており、それを摘まんで取り出すと、エドモンが笑いをこらえるように下を向いた。

 コレの下では争うなかれ。

 コレの下でノエルにキスをした男女は結ばれる。

 ヤドリギである。

 リボンを摘まんでいた指を放せば、小ぶりのヤドリギは箱にすぽんと落ちる。

 不機嫌に、シェリフはカードを開いた。

【ローズのコト、そんなに気に入ったんだ?】

 こめかみが、ひくついた。

 カードを握り潰し、シェリフは眼前の執事を見据える。

「屋敷の他の者では〝リア〟への態度がおかしくなるから、俺を知らないローズが来たと思っていたんだが?」

「仰る通りと思います」

 笑いで震えかけた声でエドモンは応える。

「へぇーえ、じゃあ何だ、コレは」

「ひと段落したのに、ローズを屋敷に戻さないからですよ」

 シェリフは口をへの字に曲げた。

「ローズが、ここに居ていいですか、と言ったんだ」

 ちょっと潤んだ青灰色の瞳で、縋るように。女性(リア)で対していなかったら、誤解しそうな風情を醸して。

 無理に笑いを収めたのが丸判りの顔つきで、エドモンは述べた。

「取り敢えず、間に合いませんでしたと旦那様にお電話しておきます」

「何がだ。無視でいい」

 箱に蓋をすると、シェリフはデスクの抽斗に放り込んだ。

 一瞬、ヤドリギ自体に父のメッセージを深読みしかけたが、思考を放棄する。

 自分がまだまだ途上に在ることは、承知していた。

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