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アツシ  作者: 岡本圭地
7/10

⑦結衣を探す、アツシ


 なぜアツシは、結衣の家の場所が分かったのか。


 それは、結衣との会話にあった。



 以前、公園で結衣が何気なく言った言葉がある。


 家のすぐ近くに、インド料理屋があると。



 この町でインド料理屋と言えば、一つしかない。


 アツシは、クロエが入った段ボールを脇に抱えると、すぐに駆け出した。





 数分後、住宅街にあるインド料理屋に着く。


 店は赤と黄色の、派手な外装だった。



 入り口には、準備中の札が掛けられている。


 きっと、ランチ時間が終了したのだろう。


 窓ガラスから店内を覗くと、薄暗く人の気配は無い。




 アツシは、その場所から周りの家々を見渡した。


 向かいには、小さな酒屋があった。



 しばらく立ち尽くすアツシ。


 時刻は、午後四時くらいだろうか。


 遠くで、犬の散歩をしている人が見えた。




 はあ……。


 思わず重い溜息が出た。


 急に不安が頭をよぎり、弱気になってしまったのだ。



 俺はなぜ、こんな所に来たんだろう。


 どうして、見ず知らずの子供のために、ここまでしなければいけないのだ。


 あんな恐ろしい男とは、二度と会いたくないぞ。




 アツシは「うーん」と、苦渋に満ちた顔で唸った。


 髪の毛を、グシャグシャに掻き乱すと、しゃがみ込んでしまう。



 しばらく、ぼんやりと正面にある酒屋を見つめるアツシ。


 ガラスばりの向こうには、駄菓子が並んでいた。



 子供を相手に、細々とした駄菓子も売っているのだ。


 きっと結衣も、この店で、あのお菓子を買ったのだろう。





『これ、あげる』


 ガムやチョコをくれた、結衣の顔が浮かんだ。


『やっぱりおじさん、いい人だったんだね』


 公園で、結衣と過ごした日々を思い出すアツシ。





 やがて、結衣が書いた〈たすけて〉の、悲痛な文字が頭をよぎった。


「……クソッ! しょうがねえな!」



 やはり放ってはおけない。


 結衣を助けるため、アツシは改めて気合いを入れた。



「ちくしょう! どの家だよ!」


 あてもなく、家々を見て回っていると、バタンとドアの閉まる音がした。


 二軒先の家だ。



 それとなく見ていると、三十代の女性が慌てた様子で自転車に乗り、道路に飛び出てくる。


 あっという間に、アツシの側を通り過ぎた。


 気になったアツシは、女性が出てきた家に近づいた。




 車庫には赤い車。


 もしやと思い、表札を確認する。



 赤西、と書かれている。


 あの子の名前は、確か赤西結衣だった。



 ……この家だ。



 二階建ての、白くシンプルな外観を見上げるアツシ。


 結衣の身を案じながら、木目調の玄関ドアに近付いた。



 インターホンを押そうと、緊張しながら手を伸ばした瞬間、指が止まる。


 ドアの向こうで、バタバタと人の走る音が、聴こえてきたからだ。


 すると、突然ドアが開いて、小さな女の子が飛び出してきた。




 結衣だ。


 避ける間も無く、衝突する。


 ——ドスン!



「あっ! おじさん! 助けに来てくれたの?」


「えっ、あ……」


 予想外の事態に、頭が回らないアツシ。


 結衣の向こうには、郁太がいる。




 郁太はアツシを見て一瞬、驚いた顔をした。


 だが、それはすぐに怒りの表情へと変わる。



 眉間に深いシワを寄せ、苛立った声を発した。


「おいおい、お前ストーカーかよ。勝手に家まで来るなよ、気持ち悪いな」


 アツシは、恐怖で逃げ出したくなった。



 郁太が近づくと、結衣はアツシの背後へと隠れた。


 もはやこの状況では、引くに引けない。


 アツシは、フゥッと息を吐いた後、覚悟を決めて奥歯を噛み締めた。



「こ、子供を虐待するなよっ! は、犯罪だぞ!」


 ぎこちなく怒鳴るアツシを見て、やれやれといった顔をする郁太。


 さらに郁太が近づくと、アツシは震える両手で拳を作り、身構えた。



 だが郁太は、アツシの側をすり抜けると、背中を押して、家の中へ入れようとしてくる。


「ほら靴、脱いで」


「えっ?」



「入って、入って」


 家の中で話し合いをするという事か? 



 ……良かった。


 もしも腕力で向かってこられたら、ひとたまりもないところだった。




 郁太に促され、靴を脱ぐアツシ。


 クロエの入った段ボールは、傍に置いた。



 結衣はというと、アツシの背中について行きたいが、父親が怖くて家の中に入れないでいた。


 そんな結衣を見下ろしながら、郁太はドアノブを掴んだまま、外を確認する。



 そして、ニヤッと口元を緩め、素早くドアを閉め鍵をした。


 一瞬にして、結衣は外に締め出されてしまったのだ。


「えっ?」と驚き、振り向くアツシ。



 アツシを家の中に入れ、鍵をしたのには理由があった。


 これから郁太が家の中でやる事を、結衣はもちろん、近隣住民や通行人に目撃されたくなかったからだ。





 くるりと、踵を返す郁太。


 何かを決意したような顔だった。


 おもむろに、アツシに近寄ると……。



 ドスッ!


 重く、篭った音がした。



 郁太の強烈な右の拳が、アツシの下腹部をえぐったのだ。


「はうううっ……!」


 嗚咽を漏らし、両手でお腹を押さえて、うずくまるアツシ。





つづく……

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