エピソード7:宿命の対峙と王の盾
混乱に陥る王都。孤立した「王の間」に現れたのは、魔王ヴェルガー。
かつての兄弟は、血と憎悪の中で再び対峙します。
その頃。アラン王は王の間の執務机の前で、副団長サムソンからの報告を受け、矢継ぎ早に指示を出していた。
「城下町の防衛は万全か? 市民の避難を最優先しろ!」
アラン王は立ち上がり、側に控える側近たちに告げた。
「私も戦線に出る。大至急、代々受け継がれる王家の剣を準備させよ。この王が、民の盾となる」
その時。背後の扉が、音もなく開いた。
警戒にあたっていたわずかな騎士や側近たちが振り返る暇もない。冷徹な魔力が王の間を満たし、彼らの首が次々と宙を舞った。
「久しいな、兄上」
ヴェルガーの低く、冷たい声が響き渡る。
アラン王は一瞬の驚愕をねじ伏せ、剣を構えた。
「ヴェルガー……。なぜ、よりによってこの時に……」
「なぜ? まだ、私の憎しみが理解できぬか」
ヴェルガーは、深い悲しみに裏打ちされた憎悪を剥き出しにした。
「私がこの城で、この王国の繁栄のためにどれほどの知恵を絞ったか。お前は、そのすべてを『愛』という偽善で、私から奪い去ったのだ!」
「私はお前に王位を奪われたのではない。お前の偽りの優しさに、このすべてを奪われたのだ!」
激昂と共に放たれたヴェルガーの剣が、アラン王の腹部を深く貫いた。
鮮血が床を赤く染める。アラン王は呻き、その場に崩れ落ちた。
「アラン様!」
悲鳴と共に、奥の部屋からアイリス王妃が駆け寄ってきた。
彼女はアラン王を抱きかかえ、すぐに回復魔法を集中させる。
しかし、傷は深すぎた。ヴェルガーが魔力を込めた一撃は、肉体だけでなく、アラン王の生命力そのものを蝕んでいた。
「無駄だ、人間風情が」
ヴェルガーは冷酷に言い放つ。
「お前たち人間が、お前たち他種族が、私を貶めた。すべて滅ぼしてやる。……まずは、お前からだ。お前が愛したアイリス、そしてあの『半端な混血』の王子ナバールも、この手で確実に殺してやる。すべてを失い、お前は地獄で永遠に後悔するのだ」
憎悪に満ちた宣言を残し、ヴェルガーはアラン王にトドメを刺すべく、再び剣を振り上げた。
「させないわ!」
アイリス王妃は、瀕死のアラン王を庇うように、その小さな体でヴェルガーの前に立ちはだかった。
ヴェルガーは邪魔なアイリスを魔力で無造作に払い除けた。壁に叩きつけられ、激しく咳き込む彼女。
しかし、その一瞬の隙が、アラン王に最後の力を与えた。
アラン王の瞳に、生命の炎が再び燃え上がった。
愛する妻と、まだ見ぬ息子を、この場で守らねばならない。
ゴオオオッ!
絶望的な傷を負いながらも、アラン王の肉体が轟音と共に輝いた。
鱗が生じ、肉体が膨張し、硬い骨格と翼の痕跡が生まれる。
純血の竜人化――死の間際で振り絞った、最期の力だった。
「ヴェルガー……!」
咆哮が城全体を揺るがす。
アラン王は傍らに落ちていた王家の剣を掴み取ると、致命傷を負った体とは思えぬ驚異的な速度で反撃を繰り出した。
剣と剣が激しく打ち合い、火花を散らす。
ヴェルガーの剣がアラン王の体から離れたその瞬間。アラン王は己のすべてを乗せた一撃を、ヴェルガーの右腕へと叩き込んだ。
バキンッ!
乾いた音と共に、ヴェルガーの利き腕が、剣ごと肘の辺りから切断された。
「ぐぅッ……!」
ヴェルガーの顔色が一瞬で変わる。予想だにしなかった兄の反撃。
このままでは自身が危険だと判断した彼は、魔力の塊を爆発させて目眩ましに使うと、闇の中へと消えていった。
「アラン……覚えておけ。傷が癒えれば、必ず戻る。そして、あの混血の王子ナバールは、必ず、この手で殺す!」
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アラン王、渾身の一撃。
命を削り、大切な人を守るために見せた竜の誇りは、魔王の右腕を奪いました。
しかし、その代償はあまりにも大きく……。
次回、悲しみの雨が降る王都にナバールが帰還します。




