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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード71 :魂を混ぜて、君を打つ

いつもご愛読いただきありがとうございます。


負傷したエイルを献身的に支えるナバール。

そして、その想いに応えるべく、エイルは自らの職人生命を懸けてハンマーを振るいます。

「ナバール専用の剣」を打つために、二人の魂が重なり合う七日間が始まります。


目が覚めると、アタイはタウロスのベッドにいた。


視線を落とその、ナバールがアタイの手を握ったまま、椅子に座って眠りこけている。


(……ずっと、回復魔法をかけ続けてくれてたんだね)


アタイを助けるために魔力を枯渇させ、精根尽き果ててしまったんだろう。

ただ危ないと思って飛び込んで、派手にドジを踏んだだけだってのに。


繋がれた手の温もりが心地よくて、離すのが少しだけしのびない。


「……もうひとねむり、するか」


こうやって誰かに大事にされるのは、一体いつぶりだろう。

アタイはナバールの体温を感じながら、再び穏やかなまどろみの中へと落ちていった。



次に意識が浮上したとき、ナバールが顔を上げた。


「おっ、目が覚めたか?」

「ああ……。ずっと、そうしてくれてたのかい?」


アタイが尋ねると、ナバールは申し訳なさそうに眉を下げた。


「うん。……すまない、俺のせいで君の大事な、職人の腕を……」


殊勝な顔をして謝る彼に、アタイは少し照れくさくなって、悪戯っぽく笑ってみせる。


「役得だね。アタイの手を、こんなに長く握っていられるんだからさ」

「なっ……」


ナバールが顔を赤くする。なんて照れるやり取りなんだろう。


動けるようになると、すぐに工房へ戻った。


アルテオ、クロード、オーウェンの三人は、譲り受けた魔導石を手に、魔導船のドックへと向かう。

アタイとナバールは、熱気のこもった鍛冶工房へと足を向けた。


「さて。約束通り、あんたの剣を見せておくれ」


ナバールの獲物は二刀。

一本は、折れてしまった守護竜の牙から成る王家の剣。

もう一本は、守護竜の爪から作られたショートソード。

この爪の剣は加護が宿っているらしく、使わない時は粒子となって左手に収納できる不思議な業物だ。


アタイは早速、ナバールの体格や腕の長さ、手の馴染みを確かめるために、あちこち触れながら準備に入る。


「この折れた剣……あんたの体に、最初から合ってなかっただろ?」

「……分かるのかい? そうなんだ、これは竜人族の王が代々受け継いできた『両手剣』だから。俺は竜人化してオーラを出しておかないと、片手では振るえない代物なんだ」


アタイは折れた刀身をじっと見つめる。


「もちろん、元の王家の剣の形に打ち直すこともできる。……けどさ、あんた専用の剣に作り替えてもいいかい?」

「俺専用?」

「強大な敵と戦うんだろ? 武器に振り回されてるようじゃ、話にならない。あんたの今の戦い方に合わせた、最高の相棒にしてやるよ」


アタイが自信満々に笑うと、ナバールは深く頷いてくれた。


「わかった。エイル、君に任せるよ」


作業の準備に入るアタイの横で、ナバールはまだ心配そうにアタイの手を見つめている。火傷の赤みが、まだうっすらと残っていた。


「あの時、本当に絶望したんだ。俺の頼みを聞いてくれた君の、その夢を奪ってしまったと思って……」


ナバールはアタイが作業の手を休めるたびに、その手を包み込み、回復魔法を流し込み続けてくれる。


「んっ、もう! 気が済むまでやりな!」


アタイは照れながらも、その過保護な治療を甘んじて受け入れてあげる。


「……よし。それじゃあ、始めるよ。ナバール、あんたも手伝いな」

「俺にできることなら、何でも言ってくれ」


炉に火を入れ、守護竜の牙をくべる。


「これ……通常の金属とは全く違う。ミスリルとも違うし、魔法を持っていて、まるで生きてるみたいだ」


守護竜の牙は、並の火力ではびくともしなかった。ドワーフの伝統的な炉の火ですら、その白銀の刀身を赤く染めることすらできない。


「くっ、さすがは王家の象徴だね。プライドが高い……! ナバール、あんたの魔力を炉に叩き込みな! 火の勢いを、あんたの魔力で底上げするんだ!」

「わかった……、はあああッ!」


ナバールの放つ魔力が火に混ざり、工房の温度がブワッと跳ね上がる。

アタイの肌がジリジリと焼ける。けれど、心地いい。


アタイの打つリズムと、ナバールの魔力の波が重なった瞬間、牙がゆっくりと溶け始めた。

二人の力が合わさらなきゃ、この剣は形を変えることすら許さないってわけだ。



三日目


牙が柔らかくなったところで、アタイは槌を振り下ろした。


――ガンッ!!


一打ごとに、火花と共に赤い光の粒が舞う。


「……っ!?」


ナバールが驚いたように目を丸くしている。

可愛いところあるじゃないか。


工房を埋め尽くしたのは、ただの火花じゃないからな。

エルフの血を引くアタイに呼応して集まって来た、火の精霊たちだ。


「……聞こえるかい、ナバール。この牙が、あんたの鼓動に合わせて鳴りたがってる」

「俺の、鼓動に……?」


ドワーフの剛腕で叩き、エルフの耳で精霊の声を聞く。

混血ゆえに疎まれてきたアタイのこの性質が、今、この瞬間、ナバールのためにすべてが噛み合っていく。


「鉄屑飛ばし」なんて呼ばせておけばいい。

アタイはこの時のために、あの日、父さんと母さんが夢見た「何か」を形にするために、今日まで槌を振ってきたんだ。



六日目


仕上げの段階に入ると、アタイの体力は限界にきている。

槌を握る手の感覚はない。


けれど、ナバールが絶えずアタイに手を添え、回復魔法と温かな魔力を送り続けてくれている。

泣き言なんて言えないね。


「エイル、あと少しだね……!」

「ああ、わかってるよ……。あんたの期待に、応えないわけにはいかないからね……ッ!」


七日目の夜明け。

アタイは最後の一打ちを、祈りとともに振り下ろした。


焼き入れの瞬間、工房をまばゆい光が包み込み、守護竜の牙は「ナバール専用の剣」へとその姿を変えた。



「……できた」


床にへたり込みそうになるアタイを、ナバールが慌てて抱きとめる。


「エイル! 大丈夫か!?」

「……へへ、役得、だな?」


アタイはナバールの胸の中で、完成した獲物を指差した。

そこにあったのは、以前の両手剣ではない。

ナバールの体格に合わせ、鋭利さと取り回しの良さを極限まで高めた、美しい白銀の片手長剣。


「……信じられない。吸い付くように、手に馴染む」

「当たり前さ。あんたの魔力と、アタイの魂を混ぜて打ったんだ。それはもう、あんたの体の一部だよ」


ナバールがその剣を鞘に収めようとした、その時だった。


白銀の刀身がまばゆい光を放ち、粒子となって弾けた。

光の粒は、ナバールの左手に宿る守護竜の爪に呼応するように、今度は彼の右手の甲へと吸い込まれていく。


「えっ!? アタイの打った剣が……消えた!?」


アタイは驚きのあまり、疲れも忘れて飛び起きた。

まさか失敗したのか、それとも精霊の悪戯か。


動揺するアタイの横で、ナバールが自身の右手をじっと見つめ、ゆっくりと何かを掴む動作をした。


「……違うよ、エイル。見てくれ」


彼が右手に意識を集中させると、瞬時に光の粒子が集まり、先ほど打ち上げたばかりの白銀の長剣が姿を現した。


「すごいよ! 守護竜の爪と共鳴して、牙も俺の体の本当に一部になったよ! ……いや、君がそう打ってくれたんだね」


ナバールは自在に剣を出し入れして見せ、感銘を受けたように何度も拳を握りしめる。

守護竜の牙と爪が、ナバールの両手に揃った瞬間だった。


「あんたのこと思って打ったからな。まさか、そこまで馴染むとは思わなかったけどさ」


アタイは鼻の頭をこすりながら、照れ隠しに笑った。


ナバールは愛おしそうに剣を眺め、それから、ボロボロになったアタイの手をそっと握りしめた。


「ありがとう、エイル。……この剣で、俺は必ず勝つ。君が打ってくれた、この誇りと一緒に」


ナバールの真剣な眼差しに、アタイは胸の奥が熱くなるのを感じた。


もう、一人じゃない。

この不器用な王様と一緒に、アタイはもっと広い空を見るんだ。


「……アタイの夢も、あんたに手伝ってもらうからね」


朝日が工房に差し込み、二人の影を長く伸ばしていた。


最後までお読みいただきありがとうございました。


ドワーフの技術とエルフの精霊への感応。混血ゆえに苦悩してきたエイルが、ナバールのためにすべてを出し尽くして打ち上げた白銀の剣。

二人の力が合わさることで、守護竜の牙は新たな形へと進化を遂げました。


手を取り合い、一歩ずつ進んでいく二人の旅路を、これからも見守っていただければ幸いです。


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