エピソード6:王都強襲と空白の瞬間
ナバールが試練を終えたその時、王都は未曾有の危機に直面していました。
燃え盛る城下町、翻弄される騎士団。
混乱の影で、復讐に燃える魔王が一人、静かに王宮へと足を踏み入れます。
私が竜の祠で試練を終え、王位継承の証を授かった、まさにその刻限。
父の王位を巡る伯父ヴェルガーとの重い真実を胸に、私は王都へと馬を急がせていた。
自分のコンプレックスが最強の個性になると信じて。
しかし、その時。ドラグーン王国の王都は、突如として地獄と化していた。
王都の城下町。特に人の出入りが多い商業区画に、魔族による大規模な陽動攻撃が仕掛けられた。
魔王ヴェルガーの腹心、ギルフォードとその精鋭数名が攻撃を指揮していた。
彼らは上空から絶えず破壊的な魔法を打ち込む。これは魔法の扱いを不得手とする竜人族にとって、最も対処が難しい攻撃形式だった。
無差別に破壊される建物。市民たちはパニックに陥り、逃げ惑う。
「城下町が襲撃されている! 第一騎士団は、直ちに防壁へ急行! 第二騎士団は市民の避難を援護しろ!」
騎士団長オーウェンが私の付き添いで不在のため、現場の指揮は副団長サムソンが執っていた。
彼は竜人族特有の硬い鱗を持つ、厳格な戦士だ。
サムソンの号令の下、竜人族の兵士たちは咆哮を上げ、空を飛び、地上を駆け、怒涛のような速さで防衛ラインを構築していく。
しかし、魔族の魔法攻撃は苛烈を極めた。
「くそっ、建物の崩落を止めろ! 魔法防御を展開!」
騎士たちは、不得意な魔法による火災と、崩れゆく建物の瓦礫から市民を守るため、自らの体を盾にした。
鎧越しに怪我を負いながらも、彼らはまず地面に伏せる市民に声をかける。
「大丈夫か、すぐに避難を!」
「急げ、子供や怪我人を抱えて走れ!」
炎と土煙の中、竜人族の騎士たちは迎撃よりも市民の命を第一優先に、救助と物理的な防御を両立させていった。
サムソン副団長は、最前線で騎士たちの奮闘を確認すると、自ら動いた。
竜人族の中でも卓越した身体能力を持つ彼は、自身の能力である『瞬足』を発動させる。
その姿は一瞬で残像となり、陽動を続けるギルフォードの部隊へと肉薄した。
サムソンは瞬く間にギルフォードの背後を捉え、その巨大な剣に全魔力を込めて一撃を叩き込んだ。
キンッ!
ギルフォードは振り向きもせず、片手で構えた黒い剣の側面でその一撃を弾いた。
魔族の腹心は、驚くほど冷静な声で告げた。
「もう十分ですね」
その言葉を合図に、ギルフォードらは上空へと急上昇し、陽動の役割を終えたかのように即座に撤退していった。
サムソンは、切りつけられた腕の痛みも無視し、撤退する魔族の後ろ姿を見つめた。
「もう十分……? まるで、最初から目的が他にあったかのような言い草だ」
彼の硬い表情に、焦りの色が浮かぶ。
騎士団を城下町へ誘い込むという魔族の真の意図に気づき、王の間の安全を危惧する恐ろしい予感が、彼を襲った。
ギルフォードたちの目的は王都の陥落ではない。
混乱を生み出し、王国の防衛力――特に空を飛ぶ竜人族の騎士団を、城下町に引きつけることだ。
この混乱のさなか、魔王ヴェルガーは、自ら剣を携え、たった一人で王宮の奥深くへと侵入していた。
(ギルフォードはいい仕事をするな。これで兄の最も頼りとする騎士団は城から引き離された)
ヴェルガーは、王族しか知らない隠し通路を静かに進みながら、冷たい笑みを浮かべた。
「この日を狙ったのは、偶然ではない」
彼は、独り言のように囁いた。
ナバール王子が成人の試練で城を空けること。そしてその付き添いで、騎士団最強のオーウェンがいないこと。
さらに、儀式の前は警備が祝祭のムードに流され、わずかに緩くなる。
これほどの好機は二度とない。周到に計画された、復讐の刻だった。
ヴェルガーにとって、これは単なる戦争ではない。
王位を奪われ、愛する者や故郷を失った彼の、個人的な復讐だ。
王族を殺すという行為は、誰にも譲れない。
ここはかつて自分が暮らしていた城。
彼は警戒網の盲点をついて、次々と王族の遠い血縁者が過ごす部屋へと進み、冷徹に彼らを斬り伏せていった。
彼の目には、かつて自分を退けたこの王宮のすべてが、憎しみの象徴として映っていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
物語はいよいよ、第一話の平和な日常から一転、激動の展開へ突入しました。
騎士団が陽動に引き寄せられる中、孤立した王宮。
ヴェルガーの「個人的な復讐」が、どのような惨劇を引き起こすのか。
次回、運命の再会。
引き続き、応援よろしくお願いいたします。




