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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード64:修羅の道

 エルフの里を離れ、一行が目指すは鉄と岩の国「リファインロック」。

 道中、アルテオがナバールに突きつけたのは、自身のルーツと向き合う過酷な新技術の習得でした。


 次なる戦いに備え、さらなる高みを目指すナバール。

 しかし、その修行の先には、本人の想像を絶する「出会い」と「衝撃」が待ち受けていました。


 新章、ドワーフの国編。

 波乱の幕開けをどうぞお楽しみください!


 森の緑が、唐突に途切れた。


 これまで俺たちの耳を打っていた心地よい葉擦れの音は消え、代わりに乾いた風が岩の隙間を吹き抜ける、無機質な音が響き始める。



「……様変わりしたな」



 ハンドルを握るオーウェンの隣で、俺はフロントガラスの向こうに広がる剥き出しの岩肌に目を細めた。



 目的地は、ドワーフの国「リファインロック」。

 そこは王国を冠してはいるが、各鍛冶屋の長が集まる組合が議会を動かす、職人の国だ。王も元を辿れば、伝説的な鍛冶屋の家系だという。



「ナバール、最近リファインロックからの武具の取引が減ってるのは知ってるだろ?」



 後部座席で図面を広げていたアルテオが、ふと思い出したように口を開いた。



「ああ、エドルも言ってたな。以前は各国と盛んに取引していたはずだが、最近は閉鎖的になっているって。魔族の動きか、それとも霊峰ウインウィッシュの魔物が活性化してる影響なのか……」


「どちらにせよ、いい状況じゃない。偏屈な親方連中を説得するのは骨が折れそうだよ」



 アルテオが溜息をつき、椅子から立ち上がって助手席までやってきた。

 彼は俺の横顔をじっと見つめると、悪戯っぽく、だが鋭い眼差しで笑った。



「ところでナバール。今のうちに、ちょっと『稽古』をしようか」


「……稽古?」


「最近の戦闘で『竜人化』のコントロールにばかり気を取られて、魔法を疎かにしてるだろ?」



 図星だった。

 ヴェルガーを止めるため、竜人としての身体能力を上げることに必死だったのは事実。



「君には人間族の血も流れてる。魔導国エタンの王家である僕の従兄弟なんだから、魔力だって一級品のはずだ。竜人の血を引いてるからってコンプレックスを持ってたくせに、いざ力が手に入ったら人間族の血を大事にしないなんて、僕が許さないよ」



 アルテオの目が、真剣な光を帯びる。



「君の最大の強みは、その両方を持っていることじゃないのか? 竜人の身体強化オーラと、人間族の魔力オーラ。その二つを同時に張る。……ハイブリッドで行こう」



 理屈はわかっている。俺はもともと魔力のコントロールには自信があった。

 俺は屋根のハッチを抜け、タウルスの屋根の上へ出た。



 乾いた風に吹かれながら、まずは意識を内側に沈める。

 竜人の血を昂ぶらせ、身体能力を底上げする「闘気」を纏う。そこに、母上から受け継いだ魔力を引き出し、外側へ霧のように展開していく。



「っ、できた」



 一瞬だった。

 俺の体からは、竜人の証である荒々しい赤いオーラと、澄んだ魔力の青いオーラが混ざり合い、美しい黄金色の輝きを放ち始めた。



「さすがだね。習得だけなら一瞬か……。あとは維持だね」



 屋根のハッチから顔を出したアルテオが、感心したように頷く。

 だが、数分もすると視界がぐらりと揺れた。

 黄金の光が瞬く間に霧散し、猛烈な倦怠感が俺を襲った。魔力が、空っぽだ。



「そうなると思ったんだよね。君の最大の欠点は、魔力の総量が少ないこと。二つのオーラを維持しようとすれば、微弱な出力でもあっという間に枯渇するんだ」


「はぁ、はぁ……。じゃあ、どうすりゃいいんだよ」


「決まってるじゃないか。枯渇した状態で絞り出し続けるんだよ。はい、これ」



 アルテオが差し出してきたのは、ドロリとした紫色の液体が入ったボトルだった。



「カインが食べてた『リカバリー料理』よりは、マシにしてあるはずだよ。名付けて『魔力増幅ドリンク・リファインSP』!」


「いや、これは俺自身の問題だから」


「いや、カッコつけてもダメだよ」



 飲ませようとするアルテオを制して、俺は決意する。



「人の手は借りぬ」



 俺は潔く逝くことにした。


 ボトルを開けた瞬間、タウルスの屋根の上に凄まじい異臭が漂った。

 鉄が錆びたような金属臭に、鼻をつく酸味と刺激。



「飲めば魔力の回復速度が跳ね上がる。さあ、一気に!」



 覚悟を決めて喉に流し込む。

 その瞬間、俺の味覚は崩壊した。



 甘い、苦い、辛い、しょっぱい、旨い、えぐい。

 世界に存在するあらゆる味の要素が、暴力的なスクラムを組んで喉を駆け抜けていく。

 俺の意識も遠くなっていく。



 まるで雲の上を歩いているようだ。

 父上がベンチプレスをして体を鍛えてる。



「…………父上?」



 俺の声に気づき、父上はこちらを見て絶叫した。

『何でまたここに!? お前が来るには早すぎるって言っただろうが!』



 父上の思考が真っ白になった瞬間、重力に逆らっていた腕から生気が失せた。

 不意の驚愕から落下する鉄の塊が父上に襲いかかる。



『ふごっ!』



「父上ーーーー!!」



 慌てふためく父上の姿が薄くなっていき、元の世界に引き戻される。



「アルテオ様、ナバール様の呼吸が止まってます!」



 クロードが叫んでいる。

 強烈な吐き気とともに意識が戻る。



「がっ……! げほっ、うあああ!!」


「吐き出しちゃダメだ! そのまま魔力オーラを張り続けて! 循環させるんだ!」



 腹の底から燃えるような熱さが込み上げてくる。

 俺は涙を流し、金属の味に咽せながら、再び黄金のオーラを絞り出した。



 岩だらけの荒野を行くタウルスの屋根で、俺の絶叫が響き渡る。

 リファインロックに着く頃には、俺が最強になっているか、精神が壊れているかのどちらかだろう。



「ナバール様……ご武運を」



 運転席から聞こえてきたオーウェンの同情に満ちた声が、今の俺には一番辛かった。



 父上、大丈夫だったかな。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


「人の手は借りぬ」と宣言し、迷わずドリンクを選んだナバールの勇姿、いかがでしたでしょうか。

その結果、天界で絶賛筋トレ中のアラン王を大事故に巻き込みかけるという、とんでもない親不孝(?)を達成。

ナバールの修行は、もはや次元を超えた戦いへと突入しています。


黄金のオーラを絞り出しながら進む一行。

次なる目的地「リファインロック」の門を叩く時、ナバールは無事に人の姿を保っているのでしょうか。

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