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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード57:格の違い

ナバール、オーウェン、カイン、ルルーナ、カミュ。

それぞれの場所で激化していく戦い。


立ち塞がる新たな脅威を前に、彼らは何を見るのか。


 吹き荒れる風が、鉄と血の匂いを運んでくる。

 俺は二本の剣を構え直し、戦場を俯瞰した。


「……二人、砦に逃してしまったか。だが、追いかける余裕はなさそうだな」


 視線の先、オーウェンの方は問題なさそうだ。奴の剣筋に迷いはない。

 一方、カインは少々分が悪そうか。まだ若い。実力はあるが、精神的な揺さぶりに耐えられるかが勝負だろう。


「よそ見か? 余裕だな、半純血の竜」


 低く、地を這うような声。

 目の前に立つのは、身の丈を超える巨大な大鎌を携えた魔族の将だ。

 死神の如き歪な刃が、俺の首を刈り取ろうと弧を描いて迫る。


 キィィィィン!!


 俺は双剣を交差させ、鎌の「柄」の部分を鋭く弾き返した。

 火花が散り、大鎌の重厚な衝撃が腕に伝わる。


「なあ。できれば、俺もお前の命までは取りたくないんだ。……今すぐ軍を連れて魔族領に帰ってくれないか? そうすれば、これ以上無駄な血を流さずに済む」


「……ハッ! 何を馬鹿なことを。まさか、自分が今、死に直面していることすら理解できていないのか? 愚かな」


 魔族の将は嘲笑い、再び鎌を大きく振りかぶる。

 その構えを見て、俺は小さく息を吐いた。


「愚かなのは、君の方だよ。……なんでそんな、大鎌なんて代物で戦おうと思ったんだ? 見た目はエグいが、実戦では全く使えない武器の一つだぞ」


「……何だとッ!?」


 怒りに任せ、男が大鎌を横一文字に振るう。

 だが、その初動はあまりに無防備だ。


「まず、動作が遅い」


 俺は一歩、大きく踏み込んだ。鎌の長いリーチを無効化する最短距離。

 敵の目の前まで一気に接近する。


「なっ……!?」


 男は狼狽し、後ろに下がりながら無理やり刃を当てようと鎌を引き寄せる。


「次に、刃は内側についている。攻撃方法が極端に絞られるんだ。……そんなもの、簡単にかわされるに決まってるだろ」


「ふざけるなッ! 貴様ぁぁぁ!!」


 完全に冷静さを欠いた一撃。男は全霊の力で鎌を振りかぶった。

 大地を叩き割るほどの威力はあろうが、そこに精密さはない。


「最後だ。……超重武器は、空振りしたら終わりなんだよ」


 俺は最小限の動きでその一撃をかわすと、すれ違いざまに双剣を閃かせた。

 鋭い銀光が空を裂く。


「……が、は……っ。この、俺が……何……で……」


 ゴトリ、と重い音が響く。敵将の首が宙を舞い、胴体が力なく地面に崩れ落ちた。


「命を奪うってことは、奪われる覚悟もあったんだろ? ……こっちも、相応の覚悟を決めてここに来てるんだ」


 俺は剣についた血を払い、視線を砦の方へ向けた。

「さて……カインのところへ急ぐか」


 そう呟き、駆け出そうとした瞬間――周囲の空気が一変した。


 どす黒い霧が足元から湧き出し、視界を塞ぐ。

 その霧の中から、場違いなほどに洗練された「影」が姿を現した。


「お初にお目にかかります。私はヴェルガー様の側近。魔王軍総帥補佐のギルフォードと申します。以後、お見知り置きを」


 黒いスーツに長いコート。戦場にはおよそ不釣り合いな、執事のような佇まいの男。

 だが、その男から放たれるプレッシャーは、先ほどまでの魔族とは次元が違った。


「ふむ……」


 ギルフォードと名乗った男は、俺が仕留めた敵将の骸を一瞥し、退屈そうに首を振った。


「一人くらいは倒せるかと思ったのですが。……やはり小隊の隊長クラスでは、この程度でしたか。期待もしていませんでしたしね」


 俺は全身のオーラを全開まで引き上げ、剣を正眼に構えた。

 肌を刺すような悪寒が止まらない。


「……あんたのような大物が、わざわざ出てくる必要はないだろ。このまま帰ってくれはしないのか?」


「私は構いませんよ? ――ですが、この軍勢はもう止められません。それに、そうですね。今のうちに、もう少し戦力を削いでおきたいところです」


 ギルフォードが右手をコートの中から出した。

 握られていたのは、細い銀のタクト。

 彼がそれを優雅に一振りした、その直後だった。


 ――ドォォォォォンッ!!


 黒い魔力の塊が、一瞬でエルフの里を囲む城壁を撃ち抜いた。

 凄まじい爆音と共に、堅牢だったはずの壁に巨大な穴が開く。

 守備をしていたエルフも、前線にいた魔族すらも巻き込んだ無慈悲な一撃。


「これで攻めやすくなったでしょう」


 男は事も無げに言った。

 事務作業の合間に、邪魔なゴミを払ったかのような態度。


「ふざけるなッ!!」


 俺の怒りが爆発する。

 一気に距離を詰め、持てる最大火力を初手から叩き込む。


「ドラゴンスラッシュ!!」


 竜の咆哮を纏った一撃。だが――。

 

 カンッ、という軽い音。

 俺の渾身の刃は、男が掲げた細いタクト一本によって、完全に止められていた。


「おやおや。私はこれで帰るつもりだったのですが……。それでは、少し奏でましょうか」


 ギルフォードがタクトを回す。

 空中に無数の魔法のナイフが生成され、意志を持つかのように四方八方から俺を襲う。


「くっ……!!」


 二刀をフル回転させ、弾き飛ばす。腕が痺れる。

 一発一発のナイフに、異常なまでの魔力が込められている。


「ナイフはクリア、ですか。では、こちらはどうでしょう?」


 タクトの動きが激しくなる。

 今度は無数の魔法の「剣」が現れ、津波のように押し寄せてきた。

 オーラを絞り出し、一本ずつ叩き落とす。だが、あまりの数に反応が追いつかない。


「グッ……あぁッ!」


 右足に鋭い衝撃。一本の剣が俺の足を貫いた。

 

「ふむ、一本とは素晴らしい。……まだまだあるのですが、あなたを討つのはヴェルガー様ですので、この辺にしておきましょうか」


 俺は歯を食いしばり、立ち上がった。

 屈辱だった。一撃も与えられていない。

 倒すべき宿敵の、その側近にすら、かすり傷一つ負わせられていない。


「……舐めるな……ッ!」


 全身全霊。持てるすべての魔力を双剣に注ぎ込む。

 

「――ドラゴンソニック!!」


 目にも止まらぬ三連撃。

 右、左。ギルフォードは表情一つ変えず、タクトでその猛攻を受け流す。

 そして――。


「これで……最後だぁぁッ!!」


 渾身の十字斬り。

 双剣が交差し、ギルフォードを真っ向から捉えた。



 ギンッ!!



「……お見事です」


 静寂の中、ギルフォードの声が響く。

 霧が晴れた先、男は無傷のまま、優雅にそこに立っていた。


 かすり傷一つ負わせることはできなかった。

 だが、甲高い音が響き、ギルフォードのタクトが中央から真っ二つに折れた。


 男は折れたタクトを捨て、ゆっくりと拍手をした。


「いやはや……素晴らしい! 素晴らしいですよ。まさか私のタクトをへし折るとは。今後が楽しみですね」


 ギルフォードは微笑み、懐から懐中時計を取り出した。


「今回は私の負けですね。私もそろそろ時間ですので。……またお会いするのを、楽しみにしておりますよ」


 男は踵を返し、霧の中へと歩き出す。


「……あぁ、そうそう。早く、次の剣を準備しておいてくださいね。……その折れた牙を打ち直せる者が、この世界にまだいればの話ですが」


 その言葉の意味を理解した瞬間、俺の視界が歪んだ。

 パキン、と乾いた音が耳に届く。


 俺の右手にあった剣――ドラグーン王家に代々伝わる、守護竜の牙から削り出された名剣が、中央から無残に折れ、その刃が地面に突き刺さっていた。


「……っ!? う、嘘だろ……。父上の……王家の剣が……」


 深い敗北感。

 そして、王家の象徴を失った悲しみが、絶望となって俺を打ちのめす。


 痺れたままの右手のひらが、嫌に熱い。

 それとは対照的に、握りしめた折れた柄は、驚くほど冷たくなっていた。

 まるで、宿っていた命が今、この瞬間に消えてしまったかのように。

 

 左手には、俺専用に与えられた守護竜の爪の剣。

 右手には、もう握るべき刃がない。


 あの男は、俺に傷一つ負わされることなく、俺の「誇り」だけをへし折って去っていった。

 「負け」だと言いながら、その実、完璧な勝利を収めて。


「……くそっ……立ち上がれ……ナバール……」


 まだ、戦争は終わっていない。

 ギルフォードが開けた城壁の穴から、魔族の軍勢が雪崩のように押し寄せてくるのが見えた。


 早く戻って、防衛に回らなければ。里の奴らが死ぬ。

 カインや、ルルーナだって危ない。

 あいつらに、こんな絶望を味わわせるわけにはいかないんだ。


「……あがっ……力が……」


 オーラの使い過ぎで、全身の筋肉が悲鳴を上げている。

 俺は折れた剣の柄と、地面に刺さった刃を回収し、泥を噛みながら顔を上げた。


「……みんな……無事でいてくれ……っ……!」


【大切なお知らせ】


いつも本作を応援いただき、本当にありがとうございます。


これまで毎日更新を続けてまいりましたが、2月より、物語をより深く、一人ひとりの心の機微を丁寧に描き切るために、更新ペースを【毎週水曜・日曜】の週2回に変更させていただくことになりました。


毎日楽しみにしてくださっていた皆様、本当にありがとうございます。これからは少しだけお時間をいただく分、より一層の熱量を込めて物語を紡いでいきたいと思っております。


2月最初の更新は、2月1日(日)を予定しています。

※『カエル道』も同様のスケジュールとなります。


これからも、彼らの行く末をじっくりとお見守りいただければ幸いです。

今後とも、よろしくお願いいたします。


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