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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード55:継承の青き光

エルフの防衛線を守るため、死力を尽くすカミュとルルーナ。

魔族の冷酷な刃と、暴かれる凄惨な過去が二人を追い詰めていきます。

絶望の闇が戦場を覆おう。

二人に救いは訪れるのか?


 おじいちゃんの背中は、いつになく小さく、そして必死に見えた。

 エルフの防衛線へ『朱雀』を割いている今のおじいちゃんにとって、目の前の魔族将軍二人は、あまりにも残酷な壁だった。


「ククク……いい身体をしてるじゃねえか、小娘」

「ああ。じっくりと、隅々まで鳴かせてやるよ」


 投げつけられる卑猥な言葉に、私は吐き気を覚えた。おじいちゃんが、震える手で新たな紋章を描く。

「……来い、フェンリル!」

 咆哮とともに現れた蒼き狼。二体の同時召喚はおじいちゃんの生命力を削っていく。私は風の魔力を小太刀に纏わせ、クナイを放って必死に援護した。


 けれど、奴らは強すぎた。

 指先が私の装束を切り裂き、肌をなでる冷たい風とともに汚らわしい言葉が耳を汚す。恐怖で足がすくみそうになったその時、私の放ったクナイが、わずかに敵将の頬をかすめた。


 一筋の緑色の体液が滴る。

「……この、糞がぁぁ!!」

 男の顔から余裕が消え、猛烈な殺意が膨れ上がった。放たれたのは、私では防ぎようのない破壊の一撃。

「ルルーナッ!!」

 おじいちゃんの叫びが響き、視界が真っ白になった。


 ――けれど、痛みは来なかった。

 おじいちゃんがフェンリルとともに、盾となって私を庇っていた。フェンリルは霧となって消え、ボロボロになったおじいちゃんが私の前に崩れ落ちる。


「おい、馬鹿野郎! 楽しみがなくなるだろうが!」

 魔族が仲間を怒鳴りつける。その内の一人が、私の顔をまじまじと見て、嫌な笑いを浮かべた。

「あー……こいつ、どっかで見たと思ったら、昔、獣王国を襲った時の傭兵女にそっくりだな」

「ああ、あの女か! 傭兵のくせに最後まで男の名前を叫んでよ……。魂までボロボロに壊してやった時の、あの絶望した顔。今でも忘れられねえなあ」


「……貴様ら、が……ルナを……ッ!」

 おじいちゃんが地面を這う。「許さ、ん……! 誇り高き戦士だった彼女を……あんな、あんな地獄に……!」

 しかし、おじいちゃんにはもう、指一本動かす力も残っていなかった。


 涙が溢れて止まらなかった。おじいちゃんの数十年続く後悔。踏みにじられたおばあちゃんの無念。

 その時、私の胸の奥から、圧倒的な光が溢れ出した。


『……ちゃんと、生まれ変わって会いにきたわよ、カミュ』


 私の中から響く、慈愛に満ちた声。青白い光は私の意識と同化し、おじいちゃんの傷を包み込んでいく。

「……おばあちゃん……?」

『私はこの子の中で生きている。だから、もう自分を責めないで。汚れなんて、今の私には一つも残っていないのよ。……ずっと、あなたにそう伝えたかった』


「……ルナ……ルナ、なのか……!?」

「ええ。ずっと謝りたかったって、言ってたでしょ? ……ずっと愛しているわ, カミュ」


 光はおじいちゃんの傷を癒やし、立ち上がる力を与える。


「僕もだ……! 僕もずっと、君を愛している……!」


『さあ、今度こそ二人で守りましょう。私たちの、大切な宝物を』


 光は天を衝く柱となり、私は無意識に次元の扉を抉じ開けていた。

「――深淵より出でよ、青き守護! 汝、我が命に従い、理を裁け! 召喚・青龍!!」


 空を裂いて現れた伝説の神獣。その神々しい姿を目の当たりにし、おじいちゃんは絶望の淵にありながら、言葉を失った。

「ば、馬鹿な……。召喚術は純血のエルフのみに許された秘術。獣人との混血で、エルフの力が薄まっているはずのルルーナに使えるはずが……。ましてや、四聖獣の一角を呼び出すなど……!」

 それは、エルフの長い歴史においても前代未聞の事態だった。


 しかし、理屈などどうでもよかった。

 今、目の前で起こっていること。

 時を越えて転生した最愛の妻が、孫娘の体と魂を借りて、自分を助けに来てくれた。

 何十年もの間、届くはずがないと諦めていた謝罪と愛の言葉が、今、結ばれたのだ。

 これ以上の奇跡が、この世にあるだろうか。

 おじいちゃんの瞳から、後悔ではない、歓喜の涙が零れ落ちる。


 だが、その瞬間、私の意識は急激に加速し、濁流のような「記憶」に呑み込まれた。

 ――知らない戦場。血の匂い。絶望。けれど、その闇の底で、おばあちゃんは誰よりも強くおじいちゃんの名前を呼んでいた。それは呪いではなく、彼女が生きた証、愛した証だった。


「……ッ!」

 一瞬、意識が遠のきそうになる。けれど、おばあちゃんの温かな魂が私の背中を押した。

 パチパチと空気が爆ぜる音が耳を打ち、どこか懐かしい匂いが突き抜けていく。

 戦場から戻った『朱雀』がおじいちゃんの傍らに舞い降りた。おじいちゃんは、目の前の私と、私の中に宿るおばあちゃんの魂に向けて叫んだ。


「二人とも、よく聞きなさい! これが召喚術の真の極意、その獣の力を、己が身に宿す『憑依召喚』だ!」


 おじいちゃんの体に朱雀の紅蓮が、私の体に青龍の雷光が吸い込まれていく。

「ルナ、今度こそ、君の隣で共に戦わせてくれ。僕たちの家族を汚した奴らを、今ここで浄化しよう」

「ええ。おじいちゃんと一緒に、あいつらを後悔させてやるニャ!」


 朱雀の翼を得たおじいちゃんと、青龍の力を纏った私が、同時に大地を蹴った。

 

 一歩。踏み込んだ瞬間、青い雷が炸裂した。

 まずは、汚らわしい言葉を吐いた男の四肢を、青龍の爪が微塵に引き裂く。

「ぎゃああああっ!?」

「まずは一つ。次はお前たちが笑いものにした、その魂を焼いてあげる」


 死なせるなんて、生ぬるい。

 朱雀の炎が魔族の退路を断ち、じわじわとその皮膚を灼く。青龍の雷が神経を逆なでし、犯した罪の重さを肉体に刻み込んでいく。

 おじいちゃんの一撃は数十年分の後悔を乗せた怒りとなり、私の一撃はおばあちゃんが奪われた尊厳を取り戻すための輝きとなった。


「ぎゃあああ……あ、あがっ……!!」

「……お前たちが汚したのは、私たちの絆だ。消えろ!」


 絶叫すら神獣の咆哮にかき消される。

 紅と青、二つの光が中央で交差し、巨大な爆鳴と共に魔族たちは魂の底から焼き尽くされ、跡形もなく消滅した。


 静寂が戻った。

 憑依が解け、私はおじいちゃんの元へ駆け寄る。

「……おじいちゃん、終わったよ」

「ああ……。ありがとう、ルルーナ。……おかえり、ルナ」


 おじいちゃんは、私の頬を伝う涙を優しく拭った。その手はもう震えていなかった。

 家族が共に背負ってきた重すぎる傷が、今、三人の絆によって、ようやく光へと昇華されたのだ。


「……ねえ、おじいちゃん」

 私は、おじいちゃんの手の温もりを感じながら、ポツリと呟いた。

「私……おじいちゃんとおばあちゃんみたいに、時を越えても想い合えるような……そんな大切な人が、いつか私にもできるかニャ?」


 あんなに酷い過去を知っても、不思議と「愛」が怖くはなかった。むしろ、おばあちゃんの魂が教えてくれたんだ。誰かを心から想う力は、地獄のような絶望さえも塗り替えて、いつか奇跡を起こすのだと。


「ああ、もちろんだとも。……ルルーナを心から守りたいと願う男が、もうすぐそばにいるかもしれないね」

 おじいちゃんが茶目っ気たっぷりに微笑む。私は、ふと頭の中に浮かんだ「ある騎士」の顔を振り払うように、少しだけ頬を赤らめた。


「……ふふ、ここからは、私の自慢の弟に任せるニャ!」


 その言葉に応えるように、巨大な大剣を肩に担いだ孫のカインが、ゆっくりと前に歩み出していた。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回はルルーナのルーツ、そして家族の深い絆に焦点を当てたお話でした。

消えない傷、やり場のない悔しさ。現実でも物語でも、そんな絶望に直面することがあります。

けれど、それを塗り替えるほど強い「想い」があること、そして魂の誇りは誰にも奪えないということを、どうしても書きたくて筆を執りました。


三人が手を取り合い、青き光と共に過去を乗り越えたこの回は、作者としても非常に思い入れの深い一話となりました。皆さんの心に、少しでも温かな灯がともれば幸いです。


さて、感動のあとはいよいよ、家族の想いを受け継いだ孫のカインの出番です。

彼がどんな咆哮を上げるのか……次回もぜひお楽しみに!


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