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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード54:護衛将軍の逆鱗

 戦場に現れた、魔族軍の「将」たち。

 

 ナバールたちは連携による強襲を仕掛けますが、敵の狡猾な罠によって分断を余儀なくされます。

 

 孤立したオーウェンの前に立ち塞がる、卑劣な魔族。

 大切な存在を侮辱されたとき、静かなる将軍の奥底で眠る力が解き放たれます。


 大地を揺るがすエルダートレントたちの猛攻によって、前線の魔族軍は一掃されたかに見えた。

 しかし、土煙が舞う戦場の向こう側から、それまでとは次元の違う禍々しいプレッシャーが押し寄せてくる。


「……来るぞ」


 俺の声に、オーウェンとカインが即座に反応した。

 朱雀の炎に照らされた地平線。

 そこには、人と変わらぬ背丈ながら、一国を滅ぼしかねない魔力を放つ三人の影が立っていた。


「あれは、中々やばい奴らだ。いいか、卑怯なんて言葉は忘れろ。三体一でも構わない。確実に仕留めるぞ。……奴らをここで通せば、仲間が死ぬ」


 俺は剣を握り込み、短く指示を飛ばした。

 アストリア陛下は全体の指揮で動けない。

 この場の主戦力は、俺たち三人だ。


「ルルーナ、君はカミュ殿の援護を! 砦を頼む!」


「はい、ナバール様!」


 ルルーナがカミュ殿の元へと駆け出すのを確認し、俺たちは同時に地面を蹴った。

 狙うは、敵の中央に立つリーダー格の男。

 三方向からの同時強襲。

 いかに高位魔族といえど、この一撃を凌ぐのは容易ではないはずだ。


 だが。


「……っ!? 伏兵か!」


 激突の直前、岩陰からさらに別の影が二つ飛び出した。

 最初からいた三人に加え、隠れていた二人が俺たちの連携に強引に割り込む。


 三対一の包囲網を敷くはずが、気付けば俺、オーウェン、カインの前にそれぞれ敵が立ち塞がり、さらにフリーになった二体が高速で砦へと向かっていく。


「あいつらは砦に……ルルーナ!!」


 カインが叫ぶが、目の前の敵がそれを許さない。

 俺たちの前には、今まさに殺意を剥き出しにした敵将が一人ずつ対峙している。


「オーウェン、カイン! 目の前の奴を即座に片付けろ! 砦へは俺が――」


 行こうとした俺の道を、大鎌を持った魔族の男が遮った。


「おっと、王様。俺たちの遊びを邪魔しちゃいけねえよ」


 俺が焦燥に駆られながらも、敵の鎌を弾き飛ばす。

 これで、完全に一対一の状況に持ち込まれた。


 俺、オーウェン、カイン。

 そして砦を守るカミュ殿とルルーナの元へは、二体の将が迫る。

 戦場は、逃げ場のない局地戦へと解体された。



 

「……さて。随分と必死な顔ですね、人間」


 オーウェンの前に立つ魔族の男は、細身の曲刀を弄びながら、不快な薄笑いを浮かべていた。


 オーウェンは無言で剣を構え直す。

 彼はナバールの教育係として、そして現在は護衛将軍として、常に沈着冷静であることを自らに課してきた。


 だが、今の状況だけは別だ。

 自分よりもナバール、そして何より、二体の将を同時に相手にせねばならないカミュ殿とルルーナ殿の身を案じていた。


「どけ。貴公に構っている暇はない」


「ははっ、いいぜ。俺を倒せればの話だがな!」


 魔族の男が地を這うような速度で接近する。

 オーウェンは一撃で仕留めるべく、重い一振りを放った。

 だが、男は空中で不自然に体を捻り、その攻撃を紙一重で回避する。


 そのままオーウェンの側面を通り抜けざま、首筋を浅く切り裂いた。


「ちっ……」


「逃げるのは得意なんだよ、俺ぁな! そうやって必死に空振りしながら、少しずつ削られて死んでいけ!」


 男は正攻法を避けた。

 ドラクーン王国が誇る護衛将軍、その圧倒的なパワーを警戒し、ヒット・アンド・アウェイを繰り返して時間を稼ぐ。

 オーウェンが剣を振るうたび、男は蝶のように舞って回避し、着実に小さな傷を増やしていく。


「……ルルーナ殿……」


 オーウェンの視線が、一瞬だけ砦の方へと流れた。

 いくら歴戦の召喚師であるカミュ殿でも、二体の将を相手にルルーナ殿を守りきれる保証はない。


 早く、終わらせなければ。

 焦りが、オーウェンの太刀筋を僅かに乱す。

 それを見逃すほど、敵は甘くはなかった。


「おやおや。あっちの娘が気になるのかい?」


 魔族の男が、下卑た笑みを深くした。


「心配すんなよ。砦に向かった二人は、俺よりもずっと趣味が悪い。エルフの女を見れば、まずは嬲り殺すのが奴らの作法だ。……あ、そういえば、獣王国の女もいるんだったな?」


 オーウェンの動きが、ぴたりと止まった。

 大気を震わせるような重苦しい沈黙が、彼の周囲に漂い始める。

 だが、愚かな魔族の男は、それを絶望の沈黙だと履き違えた。


「特に、あの黒髪の娘か。生意気そうな顔をしていたが、あれはいい……。じっくりと時間をかけて調教してやれば、最高の玩具になりそうだ。まあ、俺が行く頃には死んでいるかもしれないが……死体であっても、俺は構わんぞ?」


 その瞬間。


 戦場の喧騒が、完全に消えた。


 オーウェンの体から溢れ出したのは、これまでの将軍としてのオーラではなかった。

 それは、どす黒く、重く、生物の本能的な恐怖を呼び覚ます、純粋な破壊の意志。


「……いま、何と言った?」


 低い、地獄の底から響くような声。

 オーウェンの瞳からは理性の色が消え、燃え盛るような紅蓮の輝きが宿っていた。


「ひ……っ!?」


 先ほどまで余裕を崩さなかった魔族の男が、初めて後ずさった。

 目の前にいる男が、先ほどまでの丁寧な将軍ではない。

 もっと根源的な、神話の時代に恐れられた鬼そのものに変貌したことを、本能が察知したのだ。


「ルルーナ殿に……その汚らわしい指一本、触れさせるわけにはいかない」


 オーウェンの背後に、巨大な異形の影が浮かび上がる。

 角を持ち、数多の戦場を蹂躙してきた、鬼神。


「がああぁぁぁぁ!!」


 叫んだのは魔族の方だった。

 恐怖を振り払うように曲刀を振り上げるが、次の瞬間、彼の視界には空が映っていた。


 いや、違う。地面が遠ざかっているのではない。

 オーウェンの一撃によって、防御した腕ごと上半身が跳ね飛ばされたのだ。


「ぎ、があっ!? な、なんだ、この力は……っ!」


「死をもって、その口を閉じろ」


 オーウェンの姿が消えた。

 逃げ上手だったはずの男が、反応することさえできない神速。


 ドゴォォォォン!!


 轟音と共に、魔族の男は大地へと叩きつけられた。

 オーウェンが上空から、文字通り踏み潰したのだ。

 地面には巨大なクレーターができ、魔族の男は全身の骨を砕かれ、もはや指一本動かすことができない。


 オーウェンは表情一つ変えず、折れた曲刀の破片を拾い上げた。

 そして、獲物を屠る獣のような冷徹さで、その首筋へと突き立てる。


「あ、が……あ……」


「貴公の魂は、地獄の業火にさえ相応しくない。虚無へと消えろ」


 一閃。


 高位魔族の一人が、一切の抵抗を許されず、肉片となって四散した。


 鬼神のオーラがゆっくりと霧散していく中、オーウェンは乱れた呼吸を整えることもせず、血に濡れた剣を振り払った。

 その視線は、既に砦へと向けられている。


「ナバール様、カイン殿。ここは片付きました。……私は、ルルーナ殿の元へ」


 背中越しに響くその声は、いつもの冷静な、完璧な護衛将軍のそれに戻っていた。

 だが、その足元に広がる惨状だけが、解放された鬼神の暴虐を物語っていた。


 オーウェンは、弾かれたように砦へと走り出す。

 その瞳は、いつもの冷静さをかなぐり捨て、切実な色に染まっていた。


「……待っていてください、ルルーナ殿。今、私が!」



 その時、エイシェンツリーの喉元、最終防衛拠点の砦には、二体の魔族が音もなく降り立っていた。


 それを迎え撃つのは、召喚師の長、カミュ。

 そして、傍らで小太刀を引き抜き、クナイを指に挟んだルルーナだ。


 対峙する二体の魔族が放つ威圧感は、それまでの有象無象とは一線を画していた。

 一人でも手に余るはずの将が、二体同時に、若き召喚師とクノイチの少女へと牙を剥く。


「ルルーナ、下がりなさい。ここからは遊びでは済まない」


「おじいちゃん……っ! でも、私だって戦える!」


 カミュの背中に、いつもの余裕はない。

 ルルーナは風の魔力を練り上げるが、対峙する魔族の圧倒的な殺圧を前に、小太刀を握る指先が凍りついたように震えるのを止められなかった。


 蹂躙が始まる。

 それが、砦に集う誰もが予感した、残酷な現実だった。


 最後までお読みいただきありがとうございます。

 

 護衛将軍オーウェンの「逆鱗」に触れた結果が、あの一撃でした。

 

 オーウェンが道を切り開いた一方で、砦にはさらなる危機が迫ります。

 次回、カミュとルルーナの死闘を描く第55話「継承の青き光」へ続きます。


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