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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード52:守れなかった約束、守るべき未来

 王の制止を振り切り、ついに最前線へと辿り着いたナバールたち。

 そこで待ち受けていたのは、美しきエルフの王アストリアと、ルルーナたちが探し続けていた「おじいちゃん」でした。

 

 決戦を翌日に控えた夜、焚き火を囲んで語られるのは、エルフ最強の召喚士が胸に秘めてきた壮絶な過去。

 守れなかった過去と、目の前にある守るべき未来。それぞれの想いが交差します。


 鼻を突くのは、焦げた草木と鉄が混じり合ったような、戦場特有の不快な匂いだ。

 迷いの森の奥深く、普段なら精霊の囁きしか聞こえないはずの聖域は今、数万の軍勢が発する殺気によって塗り替えられていた。

 俺も魔物との戦いは経験しているが、種族は違えど人を殺めたことはない。

 ましてや、この10万を超える大軍との戦争など、全くもって情けないが、不安と恐怖で震えてしまう。


 俺とオーウェン、そしてルルーナとカイン。

 里を出て二日、不眠不休に近い強行軍で辿り着いたそこは、エイシェンツリー防衛の要となる最終防衛拠点だった。

 だが、俺たちが陣地に足を踏み入れた瞬間、四方から鋭い視線が突き刺さる。

 無理もない。エルフだけの軍勢の中に、人間と獣人が入り込めば目立たないはずがないからな。


「……やはり来たか。君たちには困ったものだ。あれほど、これは我らエルフの問題だと言ったのに」


 重厚な天幕の中から現れたのは、黄金の甲冑を纏ったアストリア王だった。

 昨日宮殿で会った時よりも、その顔には深い疲労の色が滲んでいる。だが、その瞳に宿る威厳だけは衰えていなかった。


「ドラクーン王としての判断です。エイシェンツリーに何かあれば、その火の粉は確実に隣国へと飛ぶ。同盟国が落ち、最終的に我が国ドラクーンが孤立するのを黙って見ているほど、俺は呑気じゃないんでね」


 俺は緊張しながらも、一歩も引かずに言い放った。内心、他国の戦争に勝手に干渉しようとしている状況は相当に気まずいんだが……。


「エルフの戦士たちは勇敢で優秀なんだろう? なら、微力ながら俺たちも参加させてもらうよ」


 ちょっとだけ皮肉と「全て分かっているんだよ」感を出しながら、もう決めたことなんだからね、と伝わるように言った。

 アストリア王は深くため息をつき、やがて小さく口角を上げた。


「……ふ。本当は全て分かっている、ということか。なおのこと帰ってもらいたいのだが……」


「心配ないですよ。うちのオーウェン……ドラクーンの『鉄壁』も連れてきています。この国、必ず守り切ってみせます」


「すまないな……ナバール王。君のその覚悟に、今は救われる思いだ」


 アストリア王の言葉は誠実さに満ちていて、俺の方が助けられてしまったようだ。

 俺の緊張や覚悟の方を、逆に見透かされていたんだろな。

 その時、ずっと機会を伺っていたルルーナが、震える声で切り出した。


「あの……陛下。カミュという御方をご存知ありませんか? 前線に来ていると伺ったのですが……」


「ん? カミュか。ああ、私の最も信頼する部隊長の一人だ。……む?」


 王の視線が、ルルーナとカインに止まる。

 エルフには珍しい漆黒の髪を持つルルーナ。そして、エルフ特有の美しい金髪を持ちながら、獣人の耳を持つカイン。


「獣人とエルフの混血……黒髪に金髪。……まさか、君たちはカミュの血縁か?」


「カミュは、私たちの……おじいちゃんです。ずっと、探していたんです」


 その告白に、アストリア王の瞳が大きく見開かれた。


「そうか……生きていたのか。あいつが、命に代えても守りたかった小さな命が……。ならば会わせよう。彼は私の部下である以上に、私の血を引く親族でもあるからな」


        


 王の先導で俺たちが向かったのは、魔法の残光が絶えず明滅する、召喚部隊の陣地だった。

 そこには、戦士たちが詠唱する低い声が地鳴りのように響き、空気そのものがバチバチと放電しているような重苦しい緊張感に包まれていた。

 陣の最奥、巨大な魔法陣の前に、一人の男が立っていた。振り返ったその男は、驚くほど若々しく、そしてアストリア王に似た端正な顔立ちをしていた。


「カミュ、客人を連れてきたぞ。……いや、再会と言ったほうがいいか」


 王の声に、カミュと呼ばれた男がゆっくりとこちらを見た。その瞬間、ルルーナが叫んだ。


「おじいちゃん!」


「ルルーナ……か!? 馬鹿な、なぜこんな場所に!」


 やはりあの美しい男がカミュか。オーウェンと同じか、それ以上に若く見える。

 駆け寄ろうとする孫を、カミュは厳しい声で制した。だが、ルルーナは引かない。


「前はおじいちゃんに助けてもらった! 今度は、私が……私たちが、弟と一緒に助けに来たの!」


 続くようにカインが一歩前に出て、少し照れくさそうに、けれど力強く言った。


「……あんたがおじいちゃんなのか。若くてカッコ良すぎるだろ。宿のダインさんとは、同じ種族とは思えないぜ」


 その瞬間、カミュの動きが止まった。自分と同じ輝くような金の髪。そして自分と同じ色をした瞳。


「カイン……といったか。そうか、お前は私と同じ、金の髪を継いでくれたのだな……」


 それまでの険しい表情が、まるで雪解けのように崩れ落ちた。

 カミュは大きな手で、愛おしそうにカインの頭を優しく撫でた。

 カインも普段とは違い、戸惑いながらも安心したような、優しい顔を見せている。


「よく無事でいてくれた。会えて、本当に嬉しいよ」


「カミュ、彼らは覚悟を持ってここに来た。止める術はなかったよ」


 アストリア王が、カミュの肩に優しく手を置く。王の顔にも、親族の再会を喜ぶ温かな色が差していた。


        


 その夜。焚き火を囲んだ俺たちの前で、カミュは静かに語り出した。


「ルルーナ……お前の顔を見た時、すぐにわかったよ。私の愛した女性――ルナの面影がある」


 かつてカミュは、大型魔物との戦いで深手を負った際、獣王国の傭兵団に救われた。その中にいたのが、黒髪の女性、ルナだった。

 ルナは傭兵としても強く、村の誰からも頼りにされる、太陽のような女性だったという。

「彼女はいつも笑っていた。どんなに辛い任務の後でも、私の傷を拭いながら『生きてりゃなんとかなるよ』ってね。私は彼女のその明るさに、何度も魂を拾われたんだ」


 介護を受けるうちに二人は恋に落ち、やがて娘のカルミナを授かった。

 美しく勇敢なルナと、その腕の中で黒髪の天使のように微笑むカルミナ。

 エルフの里での永遠にも似た停滞感とは違う、泥臭くも温かな、輝くような毎日。カミュにとって、それ以上望むものなどこの世界にはなかった。


「私はアストリア王に、外の世界で家族と生きる許しをもらいに里へ戻った。王は私の想いを汲み、応援してくれたが……最愛の元へ戻ろうとした私を待っていたのは、空を覆う黒煙だった」


 ルナを必死に探した。

 村は魔族に唆された魔物たちの群れに蹂躙されていた。

 傭兵仲間たちは次々と倒れ、ルナは一人、娘のカルミナを庇いながら最後まで戦い続けていたという。

 カミュが見つけた時、ルナの体は文字通りボロボロで、雪の上に広がる鮮血が、彼女の命の灯火が消えかけていることを無情に告げていた。


「駆け寄った私の手を、彼女は震えながら握り返した。冷たかった……。あんなに温かかった彼女の手が、凍りつくように冷えていたんだ。それでも彼女は、私を不安にさせまいと、無理やり口角を上げて笑ったんだ……」


『あなた……よかった……カルミナを……お願い……』

『私は……大丈夫。ほら、そんなに泣かないで。……生まれ変わって、また絶対、会いにいくから……』

『あなたなら……百年でも、二百年でも……私のこと、待って……くれるでしょ?……』


 それが、彼女が最期に絞り出した言葉だった。

 自分自身の痛みよりも、遺されるカミュの孤独を案じ、再会を約束することで彼に「生きる理由」を与えようとした、嘘のように優しい微笑み。

 カミュの腕の中で、ルナは静かに息を引き取った。

 カミュは狂ったように咆哮し、持てる限りの魔力で魔物どもを殲滅したが、混乱の中でカルミナの姿はどこにもなかった。

 赤子だったカルミナ。生存は絶望的だと誰もが口にした。


「全てを失った私は里に戻った。それから、ただの一日も忘れたことはない。ルナが最期に遺した、あの残酷なまでに優しい嘘を。……彼女が命を懸けて守ろうとしたものを、今度こそ私は守り抜く。そのために私は、最強の力を求めたんだ」


 カミュの瞳には、消えることのない百年の後悔と、それを塗りつぶすほどの苛烈な決意が宿っていた。


「……おそらく、明日戦が始まる。だが、私は今度こそ守り抜いてみせる。里も、そして、彼女が私に繋いでくれた……お前たちもだ」


 俺は無言でカミュの拳を見つめた。

 彼が背負ってきた百年の孤独。ルナが最期に遺した、あまりに優しく、そして切ない再会の約束。

 この男を、そしてこの家族を、ここで死なせてはいけない。


 俺の胸の中で、これまで感じていた恐怖が、静かで熱い闘志へと変わっていく。

 俺は立ち上がり、ルルーナとカインの肩にそっと手を置いてから、カミュを真っ直ぐに見据えた。


「明日……絶対に勝ちましょう。俺も、俺の仲間たちも、全力であなたを支えます」


 俺がそう言うと、カミュは少しだけ驚いたように目を見開き、やがて、憑き物が落ちたような穏やかな笑みを浮かべた。

 若き人間の王の言葉に、一人の猛将としてではなく、同じ「守るべきものを持つ者」として応えるかのように。


「ああ。頼りにさせてもらうよ、ナバール王」


 夜空には不穏な赤い月が昇り、決戦の時が刻一刻と近づいていた。

 最後までお読みいただきありがとうございます!

 

 ついに再会を果たしたカミュと孫たち。

 しかし、感動の余韻に浸る間もなく、決戦の朝が近づいています。

 

 カミュが最強の召喚士となった理由。

 そしてナバールがここへ来た真の理由。

 全てが明日、十万の軍勢が押し寄せる戦場で証明されることになります。

 

 いよいよ次話から、エルフの里防衛戦が本格始動します。

 面白いと思っていただけたら、ブクマや評価で応援いただけますと幸いです!


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