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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード50:数百年ぶりの闖入者

 ついにエルフの国を囲む『迷いの森』へと到達したナバール一行。

 

 他種族を拒絶する強力な結界と、冷淡な警備兵たちが彼らの前に立ちふさがります。

 案内なしでは突破不可能と言われる死の森。

 そこでルルーナとカインが目にしたものとは――。


 目の前に広がるのは、もはや『森』という言葉では形容しきれない、濃密な緑の障壁だった。


 エルフの国を囲む『迷いの森』。

 その境界線には、目に見えないほど薄く、だが触れれば弾き飛ばされそうな強力な魔導結界が張られている。


 境界付近には獣王国の国境警備兵が駐屯しているが、彼らの顔色は優れない。


「ナバール様、ここから先は我々でも手出しができません。エルフの案内なしに踏み込めば、一分と経たずに元の場所へ戻されるか、最悪の場合、森の養分にされると言い伝えられています」


 警備兵の言葉に、俺たちは一度足を止め、作戦会議を開くことにした。

 議題は一つ。ルルーナとカインの出自……つまり、カミュの血縁であることを明かすかどうかだ。


「……やっぱり、伏せておいたほうがいいと思うニャ。あ、思っています」


 ルルーナが真剣な表情で言った。


「エルフは純血を重んじる種族。混血の存在を知られれば、お爺ちゃんが『里を裏切った罪人』として罰せられるかもしれない。それは絶対に避けたいんです」


 カインも、いつになく暗い表情で頷く。


 自分たちのルーツを隠し、他人のふりをして故郷に入る。

 その屈辱を飲み込んでまで祖父を守ろうとする二人の姿に、俺は胸の奥が痛んだ。


「わかった。俺たちはあくまで『二国の王による公式な訪問』として接触する。いいな」


 俺の言葉に、二人は小さく、だが力強く頷いた。


        


 結界の切れ目。そこには数人のエルフたちが、冷徹な視線をこちらに向けて立っていた。

 透き通るような肌に、長く尖った耳。その背には優美だが殺傷能力の高そうな弓が背負われている。


「他種族が何の用だ。ここは汚れなき聖域。立ち去れ」


 リーダー格と思われるエルフが、吐き捨てるように言った。


「俺はドラクーンの王、ナバールだ。隣にいるのはエタンの王、アルテオ。エルフの王アストリア殿に、親書を携えて謁見を申し込みに来た」


 俺が毅然と名乗っても、彼らは眉一つ動かさない。


「王だと? そんなものは人間同士の呼称に過ぎない。我々には関係のないことだ。どうしても入りたいなら止めるまい。だが、迷いの森はすぐに出口へとお前たちを叩き出すだろう」


「……もし奥へ入れたとしても、里に辿り着くのは不可能だ。道に迷い、のたれ死ぬのが関の山。遺体の処理など手間なだけだ。死にたくなければ帰るがいい」


 ――遺体の処理、だと?


 あまりに無機質な拒絶に、俺の拳に自然と力がこもる。

 他種族を命とも思っていないその傲慢さ、心底気に入らない。

 だが、ここでキレては交渉も台無しだ。俺は奥歯を噛みしめ、言葉を飲み込んだ。


 だがその時、森の奥から一人の伝令が血相を変えて走ってきた。


「報告します! 北西部、第三結界ラインに魔物の大規模な影を確認! 中枢部より、全警備兵の集結命令が出ました!」


 その言葉を聞いた瞬間、目の前の警備兵たちの空気が変わった。

 彼らは俺たちを無視し、流れるような動作で森の奥へと消えていく。


「トラブル……か。アルテオ、どう思う」


「ふむ、結界の波長が乱れているね。理論上、今なら入り口の強制転移機能は弱まっているのかもしれないな。物は試しだ、入ってみようか」


 アルテオは相変わらず不敵だが、その瞳には未知の事態への警戒も見える。

 俺たちは顔を見合わせ、意を決してその『緑の壁』に足を踏み入れた。


        


 森の中を進むほどに、心に直接ざらりとした不安と恐怖が押し寄せてくる。

 拒絶の魔力が、侵入者の精神を削ろうとしているのを肌で感じた。


 案の定、さらに奥へと踏み込んだ瞬間、視界がぐにゃりと歪んだ。

 ……と思ったが、次の瞬間、俺たちは森の『外』に立っていた。


「なんだこりゃ……。アルテオ、今のは?」


「強制転移だね。空間がねじ曲げられている。僕の計算でも追いきれないな。厄介だよ、これは」


 何度試しても、壁に跳ね返されるように外へ出されてしまう。

 やはり案内なしでは無理なのか……そう諦めかけた時、ルルーナとカインが不思議そうに森の奥を見つめているのに気づいた。


「二人とも、何か見えるのか?」


「……こっちだと思う」


「ああ、俺も。姉ちゃん、あそこだけ色が違って見えるよな?」


 二人の視線の先には、俺たちにはただの深い藪にしか見えない場所があった。

 だが、二人の足取りには迷いがない。俺たちは半信半疑で、二人の背中を追った。


 本来、この森は侵入者に『嫌悪』を植え付けるはずだ。

 だが、二人の進む道は違った。


 木漏れ日が優しく降り注ぎ、風が花の香りを運んでくるような、まるで誰かに優しく招かれているような道。


(もしかして……カミュがいつか孫が来ることを願って、残した道なのか?)


 そんな予感を抱えながら歩き続けると、突如として視界が開けた。


 そこには、巨大な大樹を囲むようにして作られた、息を呑むほど美しい街並みがあった。


「ここが……エルフの里」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 だが、里に入った瞬間に突き刺さった視線は、街の美しなとは対照的に、刺すように冷たかった。


「他種族だと……!? 人間が自力で里に辿り着くなど、数百年ぶりではないか?」

 

 周囲に広がる驚きと困惑。

 エルフたちがまとう選民思想の壁が、物理的な結界よりも分厚く俺たちの前に立ちふさがる。


 俺たちは中枢にある宮殿へと向かい、謁見を申し出た。

 だが、対応した高官の返事は、街の空気そのもののように冷ややかだった。


「今は無理だ。我が国は現在、魔物や魔族の頻繁な襲撃を受けている。他国の王にかまっている暇などない」


「それなら、俺たちも手伝おう。魔族相手なら戦力になるはずだ」


 俺の提案に、高官は鼻で笑った。


「他国の、それも寿命の短い他種族の世話にはならん。我々の誇りを汚すな。……立ち去れとは言わん。客舎で待て」


 ――寿命が短い、か。


 今この瞬間を必死に生きている俺たちを、頭ごなしに否定されたようで腹の虫が収まらない。

 だが、ここで熱くなっては二人の目的が遠のく。今は耐えるしかなかった。


        


 宿へ向かう道中、俺は周囲の目を盗んで、道ゆく老エルフに尋ねてみた。

 血縁のことは伏せ、あくまで一人の兵士の名を聞くように。


「……カミュというエルフを知っているか? ある人から、彼を頼るように言われているんだ」


 すると、それを横で聞いていた別のエルフが、ハッとしたようにこちらを振り返った。


「……お前さん、今、カミュと言ったか?」


 それは、どこか親しみやすさを感じさせる壮年のエルフだった。

 彼は周囲を気にするように声を潜めた。


「カミュなら、今は最前線の防衛拠点にいるはずだ。あいつは腕はいいが、里では少し浮いていてな……。お前たち、あいつに会いたいのか?」


「ああ。事情があってな」


「そうか……。私はカミュの従兄弟なんだ。あいつから昔、聞かせてもらったことがある。里の外で出会った『他種族の女性』との、愛おしい思い出話をな」


 その言葉に、ルルーナとカインの肩がわずかに震えた。

 隣に立つ二人の緊張が、空気を通じて俺にも伝わってくる。


「だが……獣王国での凄惨な魔物の襲撃があった時から、あいつはその話を二度としなくなった。里の者たちに、その恋を『汚らわしいもの』だと責め立てられたのもあるんだろうが……。あいつは今でも、心の中に重いものを抱えている」


 従兄弟と名乗ったそのエルフは、俺たちに自分の家を宿として提供してくれた。


「今夜はうちに泊まれ。カミュを訪ねてきた客を、あんな冷たい客舎に泊めるわけにはいかないからな。……あいつも喜ぶはずだ」


 焚き火の温もりとはまた違う、エルフの家特有の木の温もり。

 ルルーナたちは、複雑な想いを抱えながら、静かに夜の街を見つめていた。


 お爺ちゃんに、もうすぐ会える。

 だが、そこで語られるのは、きっと優しい思い出だけではないはずだ。


 俺は、明日向かうべき戦場の空を見上げた。

 そこには、里の美しさとは裏腹な、不穏な黒い雲が立ち込めていた。


 最後までお読みいただきありがとうございます!

 

 ついにエルフの里へと到達したナバールたち。

 美しくも冷徹なその場所で、彼らはカミュの現状を知ることになります。

 

 「寿命が短い」と侮られた人間たちが、この先どう動くのか。

 そしてカミュとの再会は叶うのか……。

 

 第50話という節目を迎えられたのも、応援してくださる皆様のおかげです!

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