エピソード47:ルルーナの告白と、禁じられたエルフの血
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大型魔物を退け、王宮へと帰還したナバール。
しかし、平和な時間は長くは続きません。
次なる目的地、精霊の住まう「エルフの国」を巡り、ルルーナの意外な過去が明かされます。
宮殿の客間に戻ると、そこにはまだ使い物にならない二人の男が転がっていた。
一国の王である俺が一人で戦場へ向かったというのに、この情けない様は何だ。
呆れる俺の隣で、カインの姉であるルルーナさんが「もう、仕方ないニャいなぁ……」と、困ったように、けれどどこか楽しそうに笑った。
「オーウェン様、もう夕方ですよ。起きてほしいニャ?」
ルルーナさんがオーウェンの耳元で、とろけるような甘い声で囁き、その肩を優しく揺らす。
次の瞬間、オーウェンの体がバネのように跳ね上がった。
「はっ! ル、ルルーナ殿!? 今すぐ起きます、起きましたとも!」
顔を真っ赤にして飛び起きたオーウェンは、目の前のルルーナさんの微笑みに、だらしなく口元を緩ませた。
この堅物騎士、本当に彼女に弱い。これではどちらが護衛されているのか分からないな、と俺は苦笑した。
「ほら、カインも。いつまでも寝てちゃダメニャ。ナバール様が戻られたんだから、ちゃんとお迎えしなきゃ」
ルルーナさんは、弟であるカインの寝癖を優しく直し、その頬をペチペチと軽く叩いて起こしてあげる。まさに世話焼きな姉そのものだ。
「……んぁ? 姉ちゃん……。あ、ナバール様、戻ったのか」
「朝どころか、もう日暮れだ。俺が一人で魔物を片付けてきたよ」
俺は背負っていた二本の木刀をルルーナさんに手渡した。
「お一人で!? しかも木刀で……! 無茶しすぎですにゃ、怪我はないですか?」
ルルーナさんは心配そうに俺の服の汚れを払ったり、怪我がないか覗き込んだりと、まるでもう一人弟が増えたかのような面倒見の良さで世話を焼き始めた。
その様子を、オーウェンが「なっ、ナバール様、ずるい……。私だって活躍したかった……」と、羨望の眼差しで見ていたが、今は無視だ。
ちょうどそこへ通りかかったライオス老将軍が、焦げた木刀を手に取った。
「ほう……半日でオーラの連撃を形にされるとは。お見事です、ナバール陛下。頭を掻きながら笑うしかありませんな。これでは教える側も、うかうかしてられませんわい」
将軍の称賛に、カインは「マジかよ、さすがナバール様だな」と、感心したように呟いた。
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その夜、ボナヴィスタ王による豪華な晩餐会が催された。
テーブルを彩るのは、獣王国が誇る野生の恵みだ。
豪快な骨付き肉のグリルに、スパイスを効かせた内臓の煮込み。
「いやあ、実に豪快な料理ですね。素材の旨味を最大限に引き出す火入れ、勉強になります」
クロード殿が興味深そうに肉料理を観察しながら、感心したように頷いている。
彼が作る繊細なエタン料理とはまた違う、濃厚な肉汁が身体に染み渡る。
そんなクロード殿の隣では、ルルーナさんが「ほら、カイン、お野菜も食べなきゃダメだニャ」と、弟の皿に甲斐甲斐しく料理を取り分けていた。
カインは「もう、子供じゃないんだから……」とぼやきながらも、出されたものを素直に口に運んでいる。本当に仲の良い姉弟だ。
「やはり、血は争えんな」
ボナヴィスタ王は大杯を傾け、静かに俺を見据えた。
「先代アランとは、若い頃にちょっとだけやり合ったことがあってな。あいつは戦えば戦うほど強くなる、本当に厄介なやつだったよ。お主の今の立ち振る舞い、少しだけあやつを思い出させる」
王の言葉に、俺は少しだけ背筋が伸びる思いがした。亡き父の背中が、少しだけ近くに感じられた。
だが、王の表情はすぐに険しくなる。
「さて……次の目的地はエルフの国『エイシェンツリー』だったな」
その名が出た瞬間、宴の空気は一変した。
「エルフの国……。入りにくいと聞いていますが?」
「入りにくい、どころではない。あやつらは極端な精霊信仰の徒であり、純血主義だ。精霊魔法の才能はエルフの血が濃くなければ発現せん。そのため、彼らは血の純度を守るために他種族を徹底的に排除する」
長命ゆえの少子化も重なり、彼らはさらに閉鎖的になっているという。
「差別というより、彼らはエルフの血に他種族が混ざることを極端に忌み嫌うんだ。だから、里には絶対に他種族を入れない。獣王国の傭兵ですら、森の入り口で荷物を引き渡すのが限界だニャ」
ルルーナさんが沈痛な面持ちで付け加えた。物理的な『迷いの森』の守りも相まって、そこは文字通り隔絶された世界だった。
「……なら、私なら知り合いがいますわ」
ルルーナさんが意を決したように切り出した。
「姉ちゃん? 知り合いってどういうことだよ」
「実は……私とカインの母方の祖父は、エルフなの」
その告白に、カインが椅子から転げ落ちた。
「はあああ!? じいちゃんがエルフ!? 初耳だぞ!」
「カインは会ったことないだろうけど、私は一度、どうしても会ってみたくて森の近くまで行ったことがあるの。そこで魔物に襲われたところを、『カミュ』という若いエルフに助けられた。……それが、私たちの祖父だったの」
ルルーナさんの瞳に、懐かしさと寂しさが混ざる。
「祖父は優しかった。でも、国の規律は絶望的に厳しいと言っていた。外部との接触は、たとえ孫であっても例外なく禁じられている……と。でも、入り口くらいまでは案内できるわ」
「ルルーナ殿が行かれるなら、このオーウェン殿、迷いの森だろうが突き進む所存です!」
ルルーナさんと一緒の旅路と聞いて、オーウェン殿の鼻息が尋常じゃなく荒くなっている。
それを見たカインが、「オーウェン殿、鼻息が荒すぎだぞ……」と、呆れた視線を送る。
「あはは、精霊魔法のルーツか、興味深いね!」
アルテオ様は相変わらずニコニコと楽しそうだ。
「アルテオ様、未知の魔導体系を前にして、また研究欲が抑えられないようですね。道中は私がしっかりと皆様の健康管理を務めさせていただきます」
クロード殿が苦笑しながらも、頼もしくそう言ってくれた。
一方でカインだけは、「えぇ……混血を嫌うところに俺たち姉弟がエルフの里に行くなんて、色々と気まずいんじゃないのか? アルテオ様はいいけど、じいちゃんも微妙なんじゃねぇの?」と、露骨に嫌そうな顔をして耳を伏せていた。
賑やかな仲間たちを眺め、俺は改めて決意する。
「よし、行こう。エルフの国、エイシェンツリーへ」
俺たちの新しい旅が、また始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございました。
二日酔いの騎士たちを叩き起こし、いよいよ物語は新章へと突入します。
ルルーナとカイン、姉弟が抱える複雑な出自。
そして、他種族を拒むエルフの里に、ナバールたちはどう立ち向かうのか。
次回、幻想的な「迷いの森」への第一歩。
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