エピソード4:守護竜の神殿
試練の地、霊峰に建つ「竜の祠」へと辿り着いたナバール。
道中、オーウェンの口から語られたのは、父アラン王が「王」として選ばれた真の理由でした。
一人、巨大な石の扉を開いた王子の前に、守護竜の静寂が広がります。
王の間を出た私は、朝の光を浴びながら、騎士団長オーウェンと共に王都からほど近い北の岩山へと馬を走らせた。
風はまだ冷たいが、私の胸中は期待と緊張で熱を帯びていた。
道中、私は先ほど聞いた父と叔父の過去について、再びオーウェンに尋ねた。
「父さんと叔父さんが王位を争ったというのは、一体どんな状況だったんだ?」
オーウェンは、道の端に生えた古い木を見つめながら、静かに語り始めた。
「ヴェルガー様は、並外れた才人でいらっしゃいました。政治的な洞察力、そして他国との外交を有利に進める戦略的な手腕は、当時の家臣団の中でも群を抜いておりました。彼は、王国を知恵によって強固にすることを望んだのです」
「じゃあ、父さんは?」
「アラン王陛下は、その逆です。陛下の戦闘能力は、間違いなく竜人族の中でも最強クラス。ですが、ご存知の通り、それをひけらかすような方ではありません。むしろ、その強大な力を、弱い立場の者や民、そして盟友のためにのみ使われました」
オーウェンは手綱を握り直し、私に向き直った。
「強さの誇示より、民を愛する心――それが陛下からは常に滲み出ておりました。ヴェルガー様は才能と戦略で支持を得ようとしましたが、アラン王陛下は、その『人となり』と深い愛で、自然と周囲を惹きつけられたのです」
「そして、王妃様とのご成婚により、エタン魔導国という最大の同盟国が、平和を望む陛下を強く後押しした。その積み重ねが、最終的に王位を決定づけたのです」
私は、父の真の資質を改めて理解した。
混血であることへの後ろめたさが、さらに薄れていくのを感じる。父が選んだのは力による支配ではなく、愛による共存だったのだ。
やがて、私たちは目的地に到着した。
岩山を巧みに削り出して造られた「竜の祠」は、荘厳でありながら、周囲の自然と見事に調和していた。入り口には、古代の巨石を組み合わせた美しい神殿が建っている。
「参りましょう、ナバール様」
オーウェンの案内に従い中へ入ると、外界とは隔絶された、神聖な空気に包まれた。
内部は、石工の芸術の極みだった。磨き上げられた岩盤から削り出された、巨大で美しい石柱が幾重にも立ち並び、天井を支えている。
壁面には、大陸の成り立ちや、竜人族がこの地に降り立ち、いかにして各人類種族と関わってきたかを示す精緻な彫刻が施されていた。そのすべてが、古代の物語を静かに語りかけてくる。
最奥の広間に到着すると、オーウェンが足を止めた。
「この先が、守護竜セト様のおられる『竜の間』です。ここからは、王家の者であっても、ナバール様お一人で進まねばなりません」
私は深く息を吸い込み、巨大な石の扉に手をかけた。
重厚な音を立てて開く扉の先。
私の運命を決める、真実の試練が始まろうとしていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
アラン王とヴェルガー、二人の天才が歩んだ異なる道。
その背景を知ったナバールの心に、新たな覚悟が芽生えます。
いよいよ次回、守護竜セトとの対面。




