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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード44:月下の露天風呂

 ベンドア獣王国の王都滞在、最後の夜。

 昼間の喧騒と会談の緊張を解きほぐすべく、ナバールたちは宮殿奥にある伝説の「月下の露天風呂」へと招かれます。


 裸の付き合いという言葉通り、湯船に浮かぶ酒と共に語られるのは、忍び寄る魔族の脅威、そして封印された邪悪な存在の影。

 しかし、そんな「王たちの対話」を、湯気と共にぶち壊す熱い男たちがいました。


 恋に狂った鉄壁の騎士と、巻き込まれた若き虎の戦士。

 月光の下で繰り広げられる、史上最も「暑苦しい」夜が始まります。


 宴の熱気そのままに、俺たちは宮殿の奥深くに隠された広大な露天風呂へと足を運んだ。

 周囲を竹林に囲まれ、床には滑らかな黒御影石が敷き詰められている。


 岩の間からこんこんと湧き出る天然の湯は火山の恩恵をそのまま受けていて、立ち上る湯気には微かに硫黄と檜の香りが混じっていた。


「……ふぅ。見事な月ですね」


 俺は湯船に肩まで浸かり、ゆったりと夜空を見上げて独りごちた。

 空には一点の曇りもない満月が鎮座していて、その白銀の光が、ゆらゆらと揺れる湯面を神秘的に照らし出している。


 隣にはアルテオ、そして今回の会談の当事者であるボナヴィスタ国王陛下と、その息子であるサイリーン皇太子も並んで湯に浸かっていた。


 湯船には木製の盆が浮かべられ、その上には獣王国が誇る芳醇な地酒と、色鮮やかな珍味が並んでいる。

 裸の付き合いというのは不思議なもので、酒が回るほどに、会話は昼間の玉座の間で行われた公式な会談よりも、さらに深く、踏み込んだものへと変わっていった。



「ナバール殿。……単刀直入に伺うが、最近の魔族の動きをどう見ている?」


 サイリーン皇太子が、盆の上の杯を揺らしながら低い声で切り出した。

 その鋭い瞳には、酒の酔いを感じさせない厳格な軍事指揮官としての光が宿っている。


 かつては国境付近で頻繁に起きていた小競り合いが、ここ数ヶ月、ピタリと止んでいるというのだ。


「はい。奴らが軍備を縮小しているとは到底思えません。むしろ、何か巨大なものを飲み込もうとする前の、不気味な静けさだと感じています」


 俺の返答に、ボナヴィスタ国王陛下も重々しく頷いた。


「我が国の偵察隊によれば、北の霊峰スインウィッシュから下りてくる魔物の数が、異常なまでに増えている。まるで、山の中にさらに恐ろしい何かが現れ、住処を追われたかのようにだ」


「スインウィッシュですか……。あそこには、大昔に英雄たちが封印したという『邪悪な存在』の伝説があったはずですね」


 アルテオが、魔導工学の膨大な知識を検索するように目を細めた。

 エタン魔導国の古文書にもその存在についての記述はあるけれど、正体については「闇の根源」といった曖昧な表現にとどまっているらしい。


「エタンの記録にも詳細がないとなると、相当に古い……神話の時代の産物かもしれません。ドラグーンの守護竜、セト様なら何かご存知かもしれませんね」


 俺の推測に、国王親子も表情を引き締めた。

 もし魔族がその封印を解き、本格的な侵攻を開始するならば、近隣諸国を含めた未曾有の大戦になる。


「……近いうちに、各国への使いを出し、警戒を促す必要がありそうです。平和な夜も、長くは続かないかもしれませんね」



 ――そんな、大陸の運命を左右する「王たちの軍議」が静かに行われている一方で。

 湯船の少し離れた一角は、全く別の意味で異常な熱気に包まれていた。



「……う、ううっ。オーウェン様……! 近いです、近すぎますって! 暑苦しいです!」


「何を言うかカイン殿ォ! 貴殿は私の――いや、ルルーナ殿の最愛の弟君ではないか! ということは、私にとっても実の弟のようなもの! さあ、遠慮はいらん、もっとこの聖なる酒を飲みたまえ!!」


 そこには、完全に出来上がったオーウェンが、カインの肩を脱臼させんばかりの力で抱き寄せ、無理やり酒を勧めている光景があった。

 普段の鉄面皮はどこへやら、オーウェンの顔は火傷しそうなほど赤く、その瞳には情熱の炎がメラメラと燃え盛っている。



「……オーウェンのやつ、よっぽどルルーナさんのことが気に入ったんだな。あんなに浮かれている姿、初めて見たよ」


 俺が呆れ顔で笑いながら言うと、ボナヴィスタ国王陛下が口に含んだ酒を吹き出しそうになった。


「何っ!? あの『ドラグーンの鉄壁』と謳われ、鉄の自制心を持つと聞いていたオーウェン将軍が、今日出会ったばかりの娘に一目惚れだと!? 嘘だろう、人間兵器とまで大陸中に噂されていたのだぞ!」


「ははは。父上、噂というものは当てになりませんな。あの無敵の騎士をそこまで狂わせるとは、我がベンドアの乙女は魔族の呪いよりも強力な魅力を持っているのかもしれません」


 サイリーン皇太子までもが、親子揃って信じられないものを見るような目でオーウェンを眺め、面白そうに杯を傾けている。



 だが、王族たちのそんな視線の先で、オーウェンはさらに限界を超えてヒートアップしてしまっていた。


「カイン殿! 見てくれ、この広背筋を! 月光に照らされ、筋繊維の一本一本が喜びに打ち震えているのが分かるか! 騎士たるもの、愛する者を守り抜くにはこれほどの厚みと硬度が必要なのだ! 貴殿も義弟(仮)として、この筋肉を目標に精進したまえ!!」


「ちょっ、見せなくていいですから! 湯船の中でポージングしないでください! お湯が波立って鼻に入ったじゃないですか!」


 酔った勢いでザバァッ! と湯船の中に立ち上がり、月光を全身に浴びながら「ダブルバイセップス」のポーズを決め、筋肉のキレをアピールし始めるオーウェン。


 その迫力に押され、さらには無理やりアルコール度数の高い酒を流し込まれたカインも、次第に理性のタガが外れ、瞳に野生の光が宿り始めた。


「……へっ、負けませんよ。俺だって、遊撃隊で鍛え上げたこの三角筋……ほら、どうですか! このメロンのような膨らみは!」


「ほう、良いキレだ、カイン殿! だがまだ甘い! 広背筋の広がりが足りんぞォ! 翼を広げるように! そう、こうだッ!!」


 二人はもう、同盟の未来も魔族の脅威も頭にない様子で、湯煙の中で筋肉ポージングの応酬を始めた。

 「キレてるよ!」「大胸筋が歩いてる!」なんていう、戦場では絶対に飛び交わない奇妙な称賛の声が竹林に響き渡る。



「……ふっ。まさか、あの堅物騎士が恋に落ち、全心全霊のポージングを披露する瞬間に立ち会えるとは。条約締結以上の収穫かもしれんな」


「……うちのオーウェンが、本当に申し訳ありません」


 全裸で筋肉自慢をするオーウェン。それに平謝りする一国の若き王――。

 ……うん、俺の姿、客観的に見て相当滑稽だったんだろうな。

 ボナヴィスタ国王陛下の豪快な笑い声が、夜の露天風呂にこだまする。


 俺の瞳には、呆れ半分ながらも、どこか温かい光が宿っていた。

 王という重責を背負い、常に背伸びをして歩まなければならない俺にとって、最も信頼する騎士が、こうして「一人の男」として馬鹿騒ぎをしている姿を見るのは、少しだけ心を軽くしてくれるものだった。


 ……。

 …………。


 って、正直何してくれてんの!?

 一応、俺も含めてこの大陸の国王が3人も揃ってる前なんだぞ!? マジで何をやってんだ!!


 綺麗にまとめようとしたけど、無理無理むりー!!

 はぁー……でも、まあ、しょうがないか……。


「……まあ、明日の朝は、間違いなく二人とも猛烈な二日酔いで使い物にならないな。出発は少し遅らせるしかなさそうだよ」


 俺の予言じみた呟きと共に、ベンドアの夜は更けていった。


 月光は相変わらず静かに俺たちを照らしていたけれど、その下で繰り広げられる「筋肉の饗宴」だけは、いつまでも静まる気配がなかった。


 いやマジでいつまでやってるんだ!

 俺はもう寝るぞ!!


 ご清読ありがとうございます。


 月下の露天風呂。本来ならばロマンチック、あるいは重厚な軍議が行われるべき場所ですが……。

 恋心とアルコールが混ざり合った結果、オーウェン将軍が「筋肉の守護神」へと変貌を遂げてしまいました。


 王たちが語る「邪悪な存在」という不穏な伏線と、それを完全に無視してポージングに励む騎士たちのギャップを楽しんでいただければ幸いです。


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