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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード38:将軍恋物語1

 三国の同盟が成立し、ナバールたちはしばしの間、獣王国の王都に滞在することになります。

 

 外交や事務作業に追われる仲間たちを尻目に、ナバールは護衛将軍オーウェンと共に、案内役の女性ルルーナに連れられて街へと繰り出します。

 

 情緒あふれる温泉街の景色。そこでナバールが目撃したのは、鉄の規律を誇るはずの将軍の、意外すぎる姿でした。


 ベンドア獣王国との同盟が決まり、俺たちはしばらく王都の宮殿に滞在することになった。

 とはいえ、正式な条約の文言整理や、魔族に対する共同戦線の細かな取り決めなど、やるべきことは山積みだ。


「……というわけで、クロード。あとは頼んだ」

「……陛下。私一人にこれを全て投げ出すおつもりですか?」

「適材適所だ。お前なら俺が行うより百倍早く終わるだろう?」


 俺とアルテオは、死んだような目をしているクロードを謁見の間に残し、そそくさと退散した。

 アルテオはといえば、この国特有の木造建築にすっかり心を奪われている。


「ナバール、俺は職人街の工房を見学してくるよ! あの複雑な組み木、タウロスの内装にも応用できるかもしれない!」

「ああ、行ってこい。カイン、お前はアルテオについていてやれ」

「えっ、俺っすか!?……まあ、アルテオ殿の側にいれば『例の料理』が出る確率は減るか……了解っす!」


 カインはアルテオのお守りというよりは、監視役(あるいは毒見回避)として連行されていった。

 さて、俺はどうするか。


「オーウェン、俺たちはこの街を見て回ろう。今後の交流のためにも、ここの文化を知っておく必要がある」

「はっ。護衛将軍として、ナバール様をしっかりとお守りいたします」


 オーウェンは相変わらずの鉄面皮で頷いた。

 そんな俺たちを案内してくれることになったのは、滞在中の世話役を務めてくれる女性、ルルーナさんだった。


「初めまして、ナバール国王陛下。案内を務めますルルーナと申します。どうぞ、お見知りおきを」


 彼女は猫の獣人だろうか、艶やかな黒髪にピンと立った耳が覗いている。

 驚いたのはその装いだ。この国の文化である「着物」を完璧に着こなし、落ち着いた大人の雰囲気を纏っている。その佇まいは、戦場ばかりを見てきた俺たちにとって、少し眩しいほどに優雅だった。


「ベンドアの王都は、火山の恩恵を受けた温泉の街でもあります。まずは名所の『湯畑』へご案内しましょう」


 しなやかな所作で一礼し、前を歩き出すルルーナさん。

 その背中に、オーウェンの鋭い視線が刺さる。……いや、いつもの「敵を探す」視線とは少し様子が違う。



 ルルーナさんの後について街へ出る。

 遠くには、もくもくと煙を上げる火山の雄大な姿が見えた。街の至る所から湯煙が立ち上り、硫黄の香りが鼻をくすぐる。


「ほう……これが湯畑か。見事なものだな」


 整然と並べられた木のといを、熱い湯が流れていく。

 ドラグーンにも温泉はあるが、これほどまでに観光資源として美しく整備された場所はない。間欠泉が天高く吹き上がる様子や、温泉の熱で茹でられた『温泉卵』など、見るもの全てが新鮮だった。


「陛下、あちらに見えますのは……あ、ニャっ!?」


 流暢な説明を続けていたルルーナさんが、石畳のわずかな段差に足を取られ、派手につまずいた。

 大人びた雰囲気はどこへやら、彼女は顔を真っ赤にして「失礼しましたニャ……」と猫耳をしょんぼりと伏せている。


 自慢の着物の裾を気にしながら、慌てて背筋を伸ばそうとして、また少しふらつく。クールな装いと、放っておけない危うさのギャップ。それは男の独占欲や庇護欲を嫌でも刺激する代物だった。


「勉強になるな。オーウェン、我が国でもこれを取り入れられると思うか?」


 俺は隣のオーウェンに意見を求めた。

 だが、返事がない。


「……オーウェン?」


 見れば、オーウェンは金縛りにあったように硬直していた。

 いつもなら周囲の殺気や地形の起伏に一瞬で目を光らせる男が、今はただ、前で照れ笑いを浮かべるルルーナさんの姿を、魂を抜かれたように見つめている。


「オーウェン、お前……ずっとルルーナさんを見ていないか?」


 俺の問いかけに、オーウェンはびくんと肩を揺らした。


「はっ! ……いえ、その。……報告します! 現在、前方を行く案内人の歩行動作に、極めて重大な不安定さを確認しております。……再度の転倒が発生する恐れが非常に強く、俺は……いえ、自分は、ただちに支えられるよう構えている次第です!」


「……待て待て、オーウェン。お前、喋り方がおかしいぞ。何だその、戦場報告みたいな硬い喋り方は。いつももっと普通だろ」


「な、何のことでしょうか。護衛将軍として、予測不能な動きをする対象を……その、全力で注視するのは、当然の務めでありまして!」


「いや、明らかに動揺してるだろ。声まで上ずってるぞ」


 言葉を重ねるほどに墓穴を掘り、視線を泳がせるオーウェン。

 その耳の先が、まるで火山の熱に当てられたかのように赤くなっているのを俺は見逃さなかった。


 二十七年間、己を剣として研ぎ澄ませてきた男が、初めて出会った「理屈の通じない感情」。

 どうやらこの観光、当初の目的以上の収穫がありそうだ。

 ご清読ありがとうございます。

 

 王都での束の間の休息……のはずが、鉄仮面のような護衛将軍オーウェンにまさかの変化が訪れました。

 慣れない異国の文化と、さらに慣れない自身の感情に振り回されるオーウェン。

 

 ナバールが目撃したこの「恋の予感」が、一行の滞在にどのような彩りを添えるのか、静かに見守っていただければ幸いです。

 

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