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コンプレックスは最強の個性!? 〜二つの力を両立し、世界の架け橋となる王と愉快な仲間の行進曲〜  作者: 武徳丸


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エピソード28:天賦の才

いつもご愛読ありがとうございます。

母上の愛によって「地獄」から「極上」へと進化した魔導ホバー。

その快適な車内で、ナバールは改めてアルテオの恐るべき才能を目の当たりにします。


魔導ホバーによる、驚くほど快適な旅路は続いていた。


窓の外を流れていく景色は、通常の馬車ではありえないほどの速度で後方へと消え去っていく。本来なら、そのスピードに比例して凄まじい風切り音と振動が俺たちの三半規管を破壊していたはずだが、今のホバーにはそれがない。

母上が施した「愛の改造」のおかげで、俺は隣の運転席で熱弁を振るうアルテオの魔導講義にも、ようやく意識を集中させることができるようになっていた。



「いやあ、アイリス伯母さんには感謝しかないよ! 見てごらんよナバール、この安定性! これなら走行中の微振動に邪魔されずに、魔力伝導率のグラフも完璧な精度で記録できるよ!」


アルテオは片手で操作レバーを握りつつ、もう片方の手で膝の上に広げた魔導端末に数値を書き込んでいる。


「……感謝するのは勝手だが、運転中は前を見てくれ、アルテオ。今、道なき道の畑を二つほど最短距離で通過したぞ。農家の人に謝りに行くのは俺なんだからな」


「大丈夫、大丈夫! 僕の動体視力とホバーの魔導センサーは完璧に同調しているからね。石ころ一つだって見逃さないよ!」


屈託のない笑顔でそんな恐ろしいことを言うアルテオに対し、向かいの座席に座るオーウェンは、微動だにせず、静かに周囲を警戒しながら護衛の任を全うしている。

だが、そのオーウェンの表情も、以前の「地獄のホバー旅」の時のような、魂が抜けたような死人の顔ではない。武人らしい精悍さが戻っている。



そんな中、アルテオがふと俺とオーウェンを交互に見つめ、不思議そうに首を傾げた。


「そういえばさ、前から気になっていたんだけど、ナバールもオーウェンも、なんか身体がいつもぼんやりと温かな力で覆われている気がするんだけど? 特に今みたいに集中している時、時々、薄い光の膜みたいなものが身体の表面を包んでいるよね? あれは何だい?」


「……ああ、それに気づきましたか、アルテオ様」


オーウェンが、重々しく、しかしどこか誇らしげに口を開いた。


「それは我々ドラグーン王国の戦士が長い研鑽の末に身につける、『オーラ』と呼ばれるものです。己の内に眠る生命力と精神力を極限まで練り上げ、肉体の外側に防御の衣として纏う技術。それは外敵からの衝撃を和らげる盾であり、同時に一撃の破壊力を爆発的に高めるための土台でもあります」


俺はホバーの座席に深く座り直し、軽く息を吐いて身体の深淵に意識を集中させた。

すると、身体の芯からじわりと熱が広がり、淡い、陽炎のような光が全身を包み込んだ。


「……なんとか、俺もまだムラはあるものの、こうして一日中オーラを纏い続けられるようになったところだ。この『常時展開』の修行には、本当に、反吐が出るほど苦労したんだぞ」


「左様でございます。ナバール様は戦士としてのセンスは抜群でいらっしゃる。しかし、それでもあの修行の内容は、傍で見ていた私ですら身悶えするほど凄まじいものでした」


オーウェンが、かつての険しい日々を思い出すように静かに頷いた。



「へぇ、そんなに大変なことなんだ。具体的には何が一番難しかったんだい?」


アルテオが、純粋な好奇心に目を輝かせて尋ねてくる。


「……『微弱な制御』だよ」


俺は苦い記憶を反芻しながら答えた。


「強大すぎる竜の気を爆発させるのは、実はそれほど難しくない。だが、オーラとして持続させるには、蛇口をミリ単位で調整し続けるような繊細さが求められるんだ。修行を始めた頃の俺は、その制御ができなくてな。力を込めすぎれば周囲を破壊し、緩めれば霧散する。あの頃は、自分の身体が自分のものではないような感覚だった」


俺は自分の掌を見つめ、当時の不甲斐なさを思い出した。


「力を制御しきれなくて、野営で使う木製のスプーンを何本折ったか。立ち寄った宿の陶器の器を、いくつ粉々に砕いたか……。俺自身、もう思い出したくもない失態の連続だったんだ」


「あの頃のナバール様は、食事のたびに悲壮な決意を固めておられましたな。スープを飲もうとスプーンを握った瞬間にバキリ。パンを千切ろうとしてテーブルごと陥没。しまいには、飯を食うこと自体が怖くなっておられた」


「笑い事じゃないぞ、オーウェン。お前が途中で、何をしても絶対に割れない特注の分厚い鉄の皿を調達してくれなければ、俺は空腹で修行を投げ出すか、飢え死にしていたかもしれん」


「そんなことがあったんですか。竜人族の力というのは、それほどまでに強大で、制御が難しいものなのですね」


アルテオは驚き、同情するような眼差しを向けてきた。


「その地獄のような日々を乗り越えて、ナバール様は今、オーラを持続させる完璧な基礎を築かれたのです。これは、将来的に魔力と気を混合させ、独自の高密度オーラを完成させるための、極めて重要で困難な第一歩なのです」


オーウェンの励ますような言葉に、俺は少しだけ救われた気がした。

そうだ。あのスプーンの山と、砕け散った器の犠牲の上に、今の俺の力はあるのだ。



アルテオはハンドルを握ったまま、腕を組み、真剣な表情で考え込み始めた。


「ふむ……。生命力の放出量を微弱に固定し、波長を一定に保つのが難しい、と。でも、原理としては魔力の術式展開における定着制御と似ているんじゃないかな? ……これ、魔力だけで再現できるかな?」


「アルテオ様、魔力とオーラは根本的な源流が違います。オーラはあくまで肉体由来の生命力。魔力は精神と自然界のエネルギーを変換したもので――」


オーウェンの冷静な専門的解説をよそに、アルテオはもう「次の実験」へと意識を飛ばしていた。

彼はふっと目を閉じ、運転していない方の掌を、そっとこちらへ向けた。


次の瞬間。

ホバーの車内が、息を呑むような鮮やかなエメラルドグリーンの光に満たされた。

それは、俺たちが纏う淡い陽炎のようなオーラとは、密度も輝きも根本から異なっていた。

あまりにも濃密な魔力の奔流が、物理的な圧力を持ってアルテオの全身を包み込み、完璧な球状の防壁を形成している。


「……できた。うん、これを寝ている間も一日中やれって言われたら、流石にちょっと疲れるけど。でも、波長さえ固定してしまえば、それほど難しくなさそうだよ」


アルテオは平然とした顔でそう言って、パチンと指を鳴らすように魔力のオーラを消した。

その間、わずか数秒。


ホバーの中を、重苦しいまでの沈黙が支配した。


オーウェンは目を見開き、口を半開きにしたまま絶句していた。あの鋼のような無表情が、初めて崩壊した瞬間だった。


「い、一発で……! 修行も、触媒もなしに……魔力という異質の力だけで、我々一族が数代かけて練り上げるオーラの効果を、さらに高密度で再現しただと……!? まさに、天賦の才。いえ、もはや神童という言葉すら生ぬるい……」


「え? そんなに驚くこと? ただ、魔力の振動数を防御に適した波長に変換して、身体の周囲の空間に座標固定しただけだけど。ナバールもやってみる?」


あっけらかんとしたアルテオの提案に、俺は声もなく天井を仰いだ。


冗談じゃない。

俺はあの日々、スプーンを折り、器を砕き、飯を食うのが怖くなって震える手で鉄の皿を握り締めるという、惨めで泥臭い地獄を耐え抜いてきたんだぞ。

それを、この甥っ子の奴は、『波長変換して固定するだけ』という、買い物にでも行くかのような軽い一言で済ませやがった。


羨ましい、なんて言葉では足りない。

何というか、自分の積み上げてきた努力の結晶が、目の前で「もっと簡単にできるよ」と軽々と踏み越えられたような感覚だ。

悔しさと虚しさが入り混じり、もうホバーのハッチを開けて外に飛び降りてやろうかという衝動に駆られた。



「ああ、そうか。ただ、波長を変換して、座標を固定するだけ、ね……。なるほど、簡単そうだな……」


俺が焦点の合わない目で乾いた笑いを浮かべていると、「素晴らしいセンスですよ、アルテオ様! ぜひ今度、詳細な理論をご教示願いたい!」と、オーウェンが目をキラキラさせながらアルテオを褒め称え始めた。


「センス、か……」


俺はもう、何も言う気が起きなかった。

母上のおかげで、肉体的な疲労からは完全に解放されたはずのホバーの旅路。

だが、隣にこの底なしの天才がいるという事実は、別の意味で俺の精神をゴリゴリと削り取っていく。


快適なはずのシートに身を沈めながら、俺は「凡人の矜持」をどこに置き忘れてきたのかと、流れ去る景色をただぼんやりと見つめ続けるしかなかった。


お読みいただきありがとうございました。


スプーンを折り、器を砕き、飯を食うのが怖くなるほどの地獄を耐え抜いたナバール。

それを「波長を変換して固定するだけ」で再現してしまうアルテオ……。

ナバールの心が折れそうな音が聞こえてきそうな回でした。


次回、ホバーをエタンへ返却し、ようやく二人旅に戻れるかと思いきや……。

さらなる「鉄の馬車」と、新たな同行者が登場します!


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