エピソード26.5:【元旦特別編】魔導門が爆発したら、氷点下25度の北海道で2トントラックに運ばれる件
あけましておめでとうございます!
2026年、新年最初のお話は「初夢・お年玉企画」として、特別なエピソードをお届けします。
アルテオ陛下がまたしても起動させた「とんでもないガラクタ(自称:世紀の発明)」が暴走!
ナバールたちが飛ばされた先は、魔導も竜も存在しない、氷点下25度の極寒の銀世界でした。
そこで出会ったのは、見慣れた異世界の住人ではなく……?
一夜限りの、作者別作品との「奇跡のクロスオーバー」。
異世界の王と、北海道の田んぼ道を走る少年。
同じ重圧を背負う二人が、共に見上げた初日の出とは。
ぜひ、こたつで温まりながらお楽しみください!
新しい年の幕開け。
ドラグーン王国の王城では、アルテオが意気揚々と巨大な金属の門を叩いていた。
「名付けて『移動転移門プロトタイプ・初日の出くん一号』! これを使えば、世界で一番美しい日の出が見える場所に一瞬で飛べるよ!」
「陛下、本当におやめください。その魔導回路、さっきから火花を噴いていますし、そもそも構造がガラクタにしか見えません!」
近侍クリスの必死の制止も虚しく、アルテオは強引に起動レバーを下ろした。
直後、凄まじい爆音と共にナバール、オーウェン、アルテオ、アイリスの四人と、守護竜セトを飲み込み、視界が真っ白に染まった。
――次の瞬間。
「……え、ここ、どこだ?」
ナバールが目を開けると、そこは見渡す限りの銀世界だった。
空には見たこともないほど美しい星々が夜明けを控えて、その輝きを終えようと瞬いている。
「なんて綺麗な星空なんだ……。……いや、さむッ!!!」
極寒だった。氷点下二十五度。北海道のこの地方では「よくある」朝の冷え込みが、16歳の少年の薄い道着を容赦なく貫く。
「 アルテオ、ここどこなの!?」
「おかしいね、計算ではもっと暖かい南の島のはずだったんだけど……あ、鼻水が凍った」
「あらあら、セト様。みなさんに温かいオーラを纏わせてあげて」
騒がしく魔法を使い始めた一行だったが、その喧騒は静寂に包まれた田舎の夜明け前には、あまりに響きすぎた。
五百メートルほど離れた古い家で、一人の少年が目を覚ます。
「……なんか外、騒がしいな。暴走族? いや、こんな寒空にいるわけないか。ちょっと見てくるわ」
竜胆楓は防寒着を着込むと、オフロードタイヤを履かせた原付に跨った。
ぶるん、と乾いたエンジン音を響かせ、雪道を滑らせながら音の正体へと向かう。
「……ん? 焚き火? それに、なんかデカいトカゲみたいなのもいる気がするけど……幻覚だよな、寒さの」
スルーして帰ろうとする楓だったが、ナバールたちがその「動く光とエンジン音」を見逃すはずがなかった。
「魔導車だ! 誰かいるぞ!」
呼び止められ、楓は渋々バイクを止めた。
目の前には、豪華すぎるマントを羽織った男、絶叫している青年、職権を乱用してはしゃぐ国王。さらには巨大な竜。
「……えっと。コスプレの撮影か何かですか?」
「僕はナバール。ドラグーン王国の王だ。……君は?」
「……竜胆、楓。北海道の、ただの高校生だ」
ナバールの名を聞き、楓は少しだけ不思議な親近感を覚えたが、アルテオとアイリスの視線は楓の「原付」に釘付けだった。
「なんだこの洗練された鉄の馬は! 魔力が見当たらないぞ!?」
「この『ぶるんぶるん』いう音、とっても可愛いわね」
状況を飲み込めない楓だったが、彼らが「初日の出」を見に来て行き倒れている(?)ことを知り、溜息をついた。
「わかった、わかったから。……母さんに電話する。ここで待ってろ」
「電話? デンワってなんだい!?」
驚くアルテオを無視して、楓はスマホを取り出す。数分後、雪道を切り裂くような重低音が響いてきた。
昭和五十年代製の二トントラック。通称「青い彗星」の登場である。
「おーい、楓! お客さんか!? みんな、荷台に乗りな! 原付もだよ」
運転席から楓の母が豪快に笑う。
「行くよ、不動山の頂上まで! 新年の初日の出、拝ませてやるからね!」
青い彗星は雪をかき分け、急勾配の林道を駆け上がる。
荷台の奥で跳ね回るアルテオやオーウェンたちをよそに、ナバールと楓は並んで座り、流れる雪景色を見つめていた。
「……なぁ、ナバール」
楓が、白い息を吐きながら口を開いた。
「あんた、さっき自分のことを『王』だって言っただろ。……嘘には見えないけど、それって、やっぱり大変なのか?」
ナバールは膝を抱え、少しだけ俯いた。ここでは誰も自分のことを「陛下」とは呼ばない。ただの16歳の少年として、素直な言葉が漏れた。
「……楽じゃないよ。自分の決断一つで、何万という人の人生が変わってしまう。失敗すれば、国が滅びる。夜、ふと『自分にそんな資格があるのか』って怖くなって、眠れなくなることもあるんだ」
楓は、自分の膝を強く押さえた。
「……わかる気がするよ。俺はナバールみたいに国なんて大きなものじゃないけど。吹奏楽局の局長として、バラバラな個性の集団をまとめて、同じ目標に向かわせなきゃいけない。大切な仲間もいるしな。……誰にも相談できないし、嫌われ役を引き受けることもある。正直、逃げ出したくなることもあるよ」
ナバールは、楓の横顔をじっと見つめた。
北海道の厳しい寒さに耐えながら、毎日たった一人で長い雪道を走る少年の瞳には、自分と同じ「孤独」と「責任感」が宿っていた。
「楓。……君も、独りで戦っているんだね」
「……ナバールこそな。異世界から来て、いきなりこんな極寒の地で初日の出を見ようなんて、相当な覚悟か、よっぽどの……お人好しかのどっちかだ」
「あはは、たぶん両方だよ。……でも、今日君に出会えてよかった。君がその道を毎日走っていると思うと……僕も、自分の玉座までしっかり歩いていける気がするんだ」
「……奇遇だな。俺も、異世界の王様が死ぬ気で戦ってるって思い出せば、明日のカエルしかいない道も、少しは短く感じそうだよ」
その時、青い彗星が深い雪に阻まれ、エンジンが悲鳴を上げた。
「あら、ここまでね! 雪が深すぎて進めないわ!」
「……ここまでか。あと少しなのに」
悔しそうに山頂を見上げる楓。だが、ナバールはパッと立ち上がった。
「いいや、楓。僕たちの旅は、ここで終わりじゃないよ」
ナバールが合図を送ると、守護竜セトが翼を広げた。
『ナバール、そして異世界の少年よ。新年の門出だ、私が天まで運んでやろう』
セトの巨大な爪が「青い彗星」をまるごと掴み、ふわりと浮かび上がらせる。
「うわっ、マジかよ……トラックが空を飛んでる……!」
驚愕する楓の隣で、ナバールは子供のように無邪気に笑っていた。
「さあ、見に行こう。新しい一年の始まりを!」
不動山の頂上。
そこには、地平線の彼方から溢れ出す、黄金色の光があった。
異世界の王と、北海道の高校生。二人の16歳は、同じ太陽の光を浴びながら、心の中でそれぞれの決意を刻んだ。
楓の家まで戻ると、やがてアルテオの転移門が再起動し、ナバールたちの体が透き通り始める。
「……そうだ、楓」
ナバールが消え際に、楓を振り返った。
「いつか、君がその『吹奏楽局』のみんなと奏でる音楽を聴いてみたい。君が守っている音がどんな響きなのか、きっと、この初日の出みたいに綺麗なんだろうな」
「……そうだな。次に会える時までに、そう思ってもらえるような音楽を演奏できるよう、仕上げておくよ」
「楽しみにしてるよ。……楓、またいつか、どこかの道で!」
「ああ。……ナバールも、自分の国でしっかり。……そうだ、これ、俺の相棒なんだ。持っていけよ」
楓は自分のケースから、使い込まれたドラムスティックを一組取り出すと、ナバールの手に押し付けた。
「ああ。大切にする。……また会おう、僕の友達!」
光の中に消えていくナバールたちを見送る楓。その脳裏に、重厚な声が響いた。
『少年の歩む道に、幸あらんことを。……お前が繋ぐ音、しかと見届けさせてもらったぞ』
守護竜セトの黄金の瞳が楓を優しく射抜き、一行は完全に姿を消した。
◇
真っ白な光が収まると、そこはいつものドラグーン王国の玉座の間だった。
近侍クリスがひっくり返ったまま「二度とあんなガラクタ動かさないでください!」と叫んでいる。
「……戻ったか」
ナバールは、自分の手のひらを見つめた。
そこには、あの少年・楓が別れ際に握らせてくれた、不思議な木の棒――ドラムスティックが、確かに残っていた。
「……ナバール様? 何か持っておられますが……それは?」
駆け寄ってきたクリスが、不思議そうに俺の手元を覗き込む。
「ああ。異世界の『親友』に貰った、最高の贈り物だよ」
ナバールはスティックを大切に抱え、窓の外に広がる自分たちの国を見つめた。
あの極寒の地で、たった一人でバイクを走らせ、仲間たちの音を守ろうとしている少年。彼に負けないように。自分もまた、この世界で、16歳の王として胸を張って生きていこう。
遠く地平線の向こうから、ドラグーン王国の新しい太陽が昇り始める。
それは、あの不動山の頂上で見た光と同じ、温かな黄金色をしていた。
「……さあ、行こう。今年も、忙しくなりそうだ」
少年の顔に、迷いのない笑みが浮かぶ。
新しき年の光を浴びて、若き王は一歩、力強く踏み出した。
あけましておめでとうございます!
新年一発目、楽しんでいただけましたでしょうか。
北海道の極寒の中、ナバールが出会った一人の少年。
立場は違えど、孤独と戦いながら自分の道を走る彼の姿に、ナバールも何かを感じ取ったようです。
さて、この物語には「続き」があります。
本日この後、**12:10頃(正午)**より、
今回ナバールが出会った少年・竜胆楓が主人公の作品
『小説の主人公になれない理由は、異世界転生でもなく、原付で走る14kmの田んぼ道にある。~二人乗り?一緒に帰ろう?今日もカエルしかいない道〜』
にて、コラボエピソードの「楓視点バージョン」が公開されます!
ナバールたちが去った後、今度は楓が「ある場所」へ……?
ぜひ、両方の視点からこの奇跡の元旦を楽しんでいただければ幸いです。
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【大切なお知らせ】
明日、1月2日より更新時間を以下の通り変更いたします。
新更新時間:毎日 19:10 頃
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夜のひととき、ナバールたちの冒険をより多くの方に届けていければと思っております。
本年も、彼らの物語をどうぞよろしくお願いいたします!
▼コラボ先(楓視点)はこちら!
『小説の主人公になれない理由は、異世界転生でもなく、原付で走る14kmの田んぼ道にある。』
https://ncode.syosetu.com/n7733ll/




