エピソード2:溺愛と尊敬の狭間
成人の儀を迎えたナバール。
最強と謳われる父、そして自分を溺愛する母。
偉大な両親への想いを胸に、彼は王子としての初陣とも言える「試練」へと向かいます。
オーウェンは、朝食を取りながら、今日の重要な予定を改めて確認してくれた。
「ナバール様、本日は十六歳の成人の儀でございます。陛下と王妃様に朝のご挨拶をされた後、国の守り神である竜が住まう、竜の祠の試練を受けに向かわれます」
「竜の祠か。父さんも通った道だよね」
「はい。そして、無事に戻られましたら、夕刻には盛大な誕生日パーティーが催されます」
俺は食事の手を止めて、ふと疑問を口にした。
「なあ、オーウェン。父さんって、実際どれくらい強いんだ?」
オーウェンは、すぐに顔を引き締め、敬意のこもった声で答えた。
「アラン王陛下は、現存する竜人族の中でも最強の一角でいらっしゃいます。国境が魔族の脅威に晒されても、陛下が奥に控えていらっしゃるという事実だけで、家臣や民は大きな安心を得ています。言葉ではなく、その存在そのものが、ドラグーン王国の礎なのです」
その言葉を聞いて、俺は誇らしい気持ちになった。
「そうだよな。厳格なところもあるけど、民のこともすごくよく見てるし、きっと良い王なんだろうな」
「その通りです。そして、何よりもアイリス王妃様を心から愛してらっしゃる。エタン魔導国との同盟強化のためのお見合いでのご結婚でしたが、陛下があの方に一方的に一目惚れされたというのは、宮廷内では有名な話です」
オーウェンがくすりと笑うと、俺もつられて笑った。
「本当に、父上と母上は相変わらず仲睦まじいよな。王宮内で一番、二人の雰囲気が優しくて穏やかでさ。見てると、こっちがちょっと恥ずかしいけどな」
「ええ。ですが、王妃様のナバール様への愛情も、陛下に負けず劣らずというか……、いや、むしろ大概なものですよ」
俺は苦笑した。「母上の溺愛ぶりは、王宮の日常だからな。この前も、稽古中にちょっと転んだだけで、治癒魔導士団を総動員しようとして、父さんに止められてたし」
「王妃様のナバール様への愛情は、比類なきものです。陛下も、王妃様がナバール様を溺愛される姿を微笑ましく見守っていらっしゃいます。ああいう心温まる光景があるからこそ、この王宮も、外の緊張に呑み込まれずに済んでいるのでしょう」
外の緊張――オーウェンの言葉が、急に重く響く。魔族のガーラ帝国との国境の緊迫、そして世界全体の奇妙な変調。
俺は、今日受ける試練が、単なる形式ではなく、この混沌の時代を迎えるにあたって、次期国王たる自分自身を試す、真剣な覚悟を問われるものであることを理解していた。
「よし。早く朝食を済ませて、父さんと母さんに挨拶に行こう。祠の試練、きっちり合格してみせる」
俺は、混血であることのコンプレックスを胸の奥にしまい込み、王子としての務めに顔を上げた。
俺のコンプレックスは、いつか世界を繋ぐ最強の個性になる。そう信じて、俺は目の前の試練へと歩みを進める。
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最強の父への尊敬と、母からの惜しみない愛情。
そんな温かな環境の中で育ったナバールが、いよいよ自身の力を試す場へと赴きます。
「コンプレックスを個性に」
彼の物語が本格的に動き出す「竜の祠」。
そこで待ち受けるものとは――。
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