エピソード17:賢王の秘密の決意
エタン魔導国との電撃的な同盟。
「賢王」としての顔を見せたアルテオでしたが、その夜、二人はかつての従兄弟同士に戻ります。
アルテオの迅速かつ的確な指示は、まさに「賢王」と呼ぶにふさわしく、私は呆気にとられた。
その時、イーデルが鋭い目で進言するのを私は聞いた。
「陛下。ナバール王の即位とこの同盟の強化は、正式に世界に向けて発信するべきです。水面下での動きに留めれば、ドラグーン王国の弱体化を隠しているように見えます」
ボネットも続いた。
「魔族から王の死を伝えられてしまうと、虚偽や不利な情報を世界中に流されてしまいます」
「そうなる前に、新しい国王の誕生とエタンとの同盟強化。そして、これは悪と戦う『聖戦』であり各国が協力していくべきだと宣言し、ドラグーン王国が健在であることを伝えるべきです」
アルテオは顎に手を当てて静かに考えた後、頷いた。
「わかった。イーデル、ボネット、公的な声明文の準備を始めろ。文面は僕が最終確認する」
「ドラグーン王国の権威を最大限に高め、各国に協力を促す形で発表するぞ」
アルテオが会議の終了を宣言すると、イーデルとボネットはすぐに立ち上がり、部屋を後にした。クリスも一礼し、書類を手に扉へと向かった。
私は、アルテオが手紙を読んでから漏らした笑みが気になり、彼に話しかけた。
「なあ、アルテオ。手紙にはなんて書いてあったんだ? 何か面白いことでも?」
アルテオは再び、あの無邪気な笑顔に戻ると、人差し指を唇に当てた。
「秘密!」
悪戯っぽく、そう答えられた。
その夜、アルテオは私を自室に誘い、昔のように並んで寝台に横になった。
私たちは王という重い立場を離れ、ただの従兄弟として、幼い日のこと、アルテオの両親が亡くなってからの苦労、そして王になってからの話を語り合った。
「……ナバール。アラン叔父さんはね、僕にとっても家族だったんだ」
アルテオは天井を見つめながら静かに言った。
「僕の両親が亡くなって、幼くして王位を継いだ時……世界で一番孤独だった僕を、叔父さんが支えてくれたんだ」
「叔父さんは王としての責務を果たす傍ら、まるで自分の息子みたいに僕を気にかけてくれた」
「『僕とナバールを重ねて見ていたのかもしれないね』……。あの人は、僕がどんなくだらない研究に熱中していても、いつも笑って『アルテオの好奇心は国の宝だ』って言ってくれたんだ」
「王様なのに、忙しい公務の合間を縫って僕と本気でかくれんぼをしてくれる。まるで大きな子供のような、でもすごく温かい人だった」
私は父の思い出に触れられ、少し寂しそうに微笑んだ。
「父上は、アルテオの才能を誰よりも信じていたよ。私にも、アルテオの熱意を見習えって、よく言っていた」
アルテオは深く頷いた。
「そうか……。叔父さんらしいな」
アルテオは視線を天井から私へと戻した。
「王になってからは、本当にね、大変だったんだ。苦労話は絶えないよ」
「それでも、たくさんの人たちに支えられてきた。アラン叔父さんは国境警備の部隊を派遣してくれたり、アイリス叔母さんは内政や僕の研究に必要な援助をしてくれたりね」
アルテオは静かに言った。
「今度は僕が、恩返しをする番なんだ」
私たちは穏やかな眠りについた。
しばらくして、アルテオはそっと目を開けた。
眠るナバールの顔を見つめながら、心の中で固く決意する。
(叔母さんの密書には、『水面下で手を貸してほしい』とあった。王としての支援はこれで十分だ。しかし、ナバールはまだ若い王だ。試練を乗り越えたばかりで、国を背負っている)
(叔母さんは『無理はしないように』と言ったけど……僕が行く。王族としてではなく、ただの従兄弟として。ナバールの王としての旅立ちを、最も近くで支えるんだ)
彼はナバールに気づかれないように、こっそりと、王としての地位を離れてついて行くことを決めたのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
アラン王が遺した愛は、息子ナバールだけでなく、従兄弟であるアルテオの心にも深く根付いていました。
「恩返しをする番」だと語るアルテオの瞳には、冷徹な王としての計算ではなく、家族を想う温かな決意が宿っています。
アイリス王妃からの密書、そしてナバールへの想い。
王という立場を越えて、アルテオが選ぼうとしている「型破りな道」は、今後の旅にどのような変化をもたらすのでしょうか。




