エピソード14:オーラの制御
実戦で露呈した、竜人化の圧倒的な消耗。
次なる戦いに備え、オーウェンがナバールに課したのは「地獄の日常」でした。
魔物たちの群れに突っ込んだ私は、王家の剣の重さに翻弄され、素早い動きに対応できずにいた。
私は全身の魔力を解放した。
「ハアァァッ!」
混血の竜人化が発動する。
鱗は現れないが、高密度の魔力の奔流が周囲の空間を歪め、魔物たちの動きを一瞬だけ鈍らせた。
私は左手の白竜の爪で正確に魔物の急所を突き、動きが鈍った獲物を右手の王家の剣で打ち倒していった。
しかし、その強大な力は私の体力を激しく奪う。
わずか数分の戦闘で、竜人化は霧散した。
魔物はすべて倒したが、私は激しい息切れを繰り返しながら、地面に膝をついた。
直後、白竜の爪は再び光の粒子となり、私の手に吸い込まれるように消えていった。
「くそっ、持続時間が……たったの十分しか持たない……」
オーウェンは静かに魔物から離れ、私を見つめた。
「お見事でした、ナバール様。課題は明確です。竜人化は爆発力があっても、消耗が激しすぎる。そして、霊峰の異変。早急に解決すべき問題です」
その夜、野営の火の前で、オーウェンは修行の方針を伝えてきた。
「ナバール様。明日から、竜人化の力、すなわち『竜の気』を、常に微弱に纏う訓練を始めます」
「常に、か? それは無茶ではないか? 白竜の爪がなければ、微細なコントロールすら難しいぞ」
「剣に頼る必要はありません。私を見てください」
オーウェンがそう言うと、彼の全身が微かな光の霧のような気に包まれた。
「私が纏うのは、魔法とは異なる武の『気』です。私は平時、寝ているときも含め、常にこの微弱な気を纏い、肉体を鍛錬しています。気の絶対量が増え、不意の攻撃にも対応でき、ダメージ軽減にも繋がります」
「なるほど……。それがオーウェンの強さの秘密だったか」
「その通りです。王家の血が濃い純血の竜人族ならば、竜の気と魔力を統合して自然に制御できます。しかし、混血であるナバール様には、まず爆発的な竜の気を、意識的な努力で制御下に置く必要があります。剣に頼らず、この竜の気を微弱に持続させるのです」
「そもそも、竜人化は瞬間的な爆発力を引き出すための秘術。常に維持している者などいません。もしナバール様が、この微弱な『竜の気』を常時纏うことができれば、それは前例のない偉業となり、他者を凌駕する大きなアドバンテージとなるでしょう」
「これが、長期戦に耐えうる王の基盤。そして将来的に魔力と気を混合させた、独自のオーラを完成させるための第一歩となるのです」
私は父の剣を背に、静かに頷いた。
「わかった。やってみよう。これが、父の死に報いるための道なのだろう」
翌日から、私の旅は『竜の気』の制御という地獄の訓練となった。
常に気を微弱に放出し続けようと試みるが、竜人化の力は強大すぎて制御が難しい。最初は十分も持たずに気が暴発し、オーラが乱れた。
私にとって最も苦痛だったのは、王として振る舞うことすら許されないほどの精神的疲労だった。
訓練開始から二日目の夜。あまりの辛さに耐えかねた私は、オーウェンが薪を集めている隙に、街道の反対方向へ逃げ出そうとした。
しかし、馬に跨ろうとした瞬間、背後に気配もなくオーウェンが立っていた。
「ナバール様。夜逃げですか」
「ち、違う! ちょっと、散歩を……」
「散歩は結構ですが、今日の皿洗いのノルマが残っています。逃げても無駄ですよ」
私は半べそをかきながら、すごすごとキャンプへ戻った。
この一件は、私にとって永遠のトラウマとなった。
そして、最も心が折れたのは食事の時間だ。
旅の三日目の朝食。私が木製のスプーンを手に取った瞬間、微弱に暴走した竜の気によって、スプーンがパリィンと折れてしまった。
「ナバール様、スプーンを折らないでください。資源は大切に」
オーウェンは顔色一つ変えずに新しいスプーンを渡すが、私は恥ずかしさと情けなさで顔を真っ赤にした。
「旅は楽しいものだと思っていたのに。王都での朝の稽古よりよっぽど辛いぞ……」
その日の夕食は町の宿で取ったが、今度は陶器の器を粉々に砕いてしまった。
宿の店主に平謝りし、弁償するオーウェンの横で、私は泣きそうな顔で俯いた。
「すまない、オーウェン……。もう私、飯を食うのが怖いんだ……」
王家の重責と父の死、そしてこの過酷な修行。
気を抑えようとするあまり、頭痛と吐き気が止まらない。
ぐっと唇を噛み締め、涙腺が緩むのを感じたが、王としてオーウェンの前で泣くまいと天を仰いだ。
オーウェンは何も言わず、私のために割れない鉄の皿を調達した。
魔物との実戦と、この『地獄の食事』を乗り越えながら、修行は続いた。
野営と宿を交互に使い、私は竜の気を制御する意味を噛みしめた。
微弱なオーラの持続時間は延び、目的地に近づく頃には、気の暴発も減り、なんとかコントロールができるようになっていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
かっこいい二刀流の裏側にある、泥臭い努力の数々。
スプーンを折り、器を砕き、夜逃げを試みる……。
そんなナバールの姿に、オーウェンは何を思うのか。
少しずつ、しかし確実に「王の基盤」が作られていきます。




